Googleも頼る! アナログから「世界最先端」に変身した地図会社【前編】

  • 上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・ゼンリン 髙山善司社長 / 髙山 善司

友人と食事する店を、地図のURLを送って知らせる。そのURLを開き、スマホを片手に店に向かう――。デジタル地図はいまや、私たちの生活に欠かせない。その地図データを作っているのが、日本最大の地図制作会社・ゼンリンだ。知られざる「地図ビジネス」の世界を、髙山善司社長が語ってくれた。

世界唯一の「住宅地図」はなぜ生まれたか

場所が分からなければ、インターネットで検索する時代。スマホさえあれば、簡単に目的地にたどり着けます。でも、考えてみてください。その地図、誰がどうやって作っているのでしょう?

例えば、「Googleマップ」。おそらくこの記事を読んでいる多くの方が、使ったことがあるはずです。Googleマップを開いて右下をよく見ていただくと、「ZENRIN」というクレジットが入っています。そう、Googleマップに情報を提供しているのは、私たちの会社です。

GoogleやYahoo!といった大手ポータルサイト、カーナビに表示される道案内など、デジタルで使われる日本地図の多くは、ゼンリンが提供しています。

「地図を作る」とさらっと言いましたが、コンピューターに情報を入れれば自動的に出てくるような、簡単なことではありません。当社の地図、特に住宅地図は、1日当たり約1000人もの調査員が全国を歩き回り、1軒1軒の表札を確認しながら作っています。カメラやセンサーを使った車両調査も行いますが、表札をはじめ細かいところは車だと見落としてしまうので、歩いて調査しなければいけません。

しかも、建物や住民は変わっていきますから、一度調べて終わりというわけにはいきません。都市部では毎年、地方でも2〜5年に1回は必ず、歩いて再調査をします。当社は昨年、東京都の島嶼(しょ)部7村を加え、全国1741市区町村の住宅地図を整備しました。国の隅々まで歩き回り、住民のお名前まで載せた「住宅地図」を作っているのは、世界中を見渡しても当社しかありません。

ゼンリンの住宅地図

実は、このような地図ができたのは、偶然からです。
創業者である大迫正冨は、1948年に地元・大分で別府の観光案内を手がける会社を興しました。戦争が終わり、ようやく世の中が平和を実感できるようになったころのこと。

観光業の一環としてガイドブックを作ったところ、名所旧跡の記事よりも、付録として折り込んだ市街地図が好評でした。1軒1軒の宿名や詳しい場所案内があるので、町歩きに便利だというわけです。そこで大迫は、江戸時代の古地図を参考に、詳細な「住宅地図」を作って売ることを考えました。

「別府市住宅案内図」から始めて九州全域、西日本、そして東日本へ――。さながら伊能忠敬のように、大迫は地図作りに情熱を燃やしました。当社の「地図ビジネス」の始まりです。

こうやってできた住宅地図は大変重宝され、いまもさまざまな事業で配達、営業、調査などに使われています。

平和でなければ地図は作れない

日本は世界に誇る、「地図先進国」です。欧米をはじめアジアにも、全国の住宅地図が書店で売られている国なんてありません。

地図産業が発展するには、まず「平和であること」。政治や社会が不安定な国では、地図は機密扱いとなり、制作が規制されます。過去において中国では、法律が改正されて当社の地図整備が止められるなど、困難さを思い知らされました。

また、社会インフラがある程度、整っていないといけません。インドでも地図作りを試したことがありますが、区画整備が遅れている地域があり、建物があっても住所がない。また、貧富の差が大きく、住所を持たない方も大勢いらっしゃる。これには苦労しました。こういう状態だと、住宅地図は作れません。

地域コミュニティの形成度合いも、関係すると思います。私も駆け出しのころに徒歩調査をしていました。当時は住民が10軒先の家まで名前を教えてくださったり、女性の1人暮らしでも出てきて対応してくださったり……。まあ、おおらかでしたね。

このおおらかさは日本独特のようで、アメリカでは調査員が怪しまれ、調査がストップしたことがありました。そもそもアメリカは国土が広くて住宅密集度が低く、人々が通り名で住所を覚えているので、日本のような詳細な住宅地図のニーズがあまりないのですが。

最近の日本は個人情報の扱いが厳しくなり、昔ほど簡単に情報を得られなくなりました。それでも、調査に協力してくださる方は大勢いらっしゃいます。住宅地図を作るためには、調査員が活動できる「安心・安全な社会」であることが、欠かせません。

当社の社訓は「友愛、奉仕、創造」です。1人1人の「友愛」がもたらす平和がなければ、地図は作れません。地図を作ることができれば世の中の役に立ち、「奉仕」につながります。「友愛と奉仕」によって、地図情報の基礎を築き、未来を「創造」する――。

私たちの挑戦には常に、この3つを原点にしているのです。

いつでもどこでも、地図に触れられる時代に

冒頭でも申し上げましたが、当社の地図はいま、デジタル利用が大半を占めます。

最初の変化は、1980年代に起きました。当時、手描きで製図をしてくれていた職人さんたちが高齢化し、人手不足・コスト高に陥ってしまったのです。そこで当社は、地図制作のプロセスを人手に頼らない方法――手描きから写植、さらにデジタルへと、徐々に置き換えていきました。

どちらかというと必要に迫られ、地図情報をデジタル化したのです。もちろんコストがかかりました。その結果、何が起きたか。折しも、GPSの技術が進展し、日本のメーカーがカーナビの開発に着手したころでした。当社が地図情報をデジタル化したと知って、「そのデータ、カーナビの地図に使えませんか?」と、メーカーからお話があったのです。

1990年に、当社は世界初のGPSカーナビソフトの開発に成功しました。その後、カーナビが急速に一般車両に普及したのは、みなさんご存知の通りです。現在、国内メーカーのカーナビの約80%に、当社の地図ソフトが使われています。

さらに1990年代から、GoogleやYahoo!といったインターネット向けにも、地図データの提供を始めました。われわれのグループ自身でも、インターネット向けサービスを作りました。詳細な地図データから、駅、施設、観光スポットなどからのルート、所要時間を検索できる「いつもNAVI」がそうです。

時代の主流はパソコンからスマホへと移り、カーナビから地図アプリまで、地図データの用途はどんどん広がっています。そしていま、「いつでもどこでも詳細な地図情報を利用できる」状況が実現しました。

これほど多くの人が、日々、地図に触れる時代はいまだかつてありませんでした。無料の地図が普及し、人々の身近な存在になったのです。そしていま、インターネットの技術進化によって、当社はさらなるチャンスをつかもうとしています。

地図ビジネスの未来とは、どういうものか。次回はそのことをお話ししましょう。