第8回 赤ちゃんと遊ぼう

赤ちゃんを観察し、真似して、その体験を言葉にして、赤ちゃんの心を十分に自分のなかに育てたならば、いよいよ赤ちゃんと遊んでみましょう。
第7回「赤ちゃんのきもちになってみよう」を読む

いきなりですが、赤ちゃんと遊ぶときの究極のゴールは「赤ちゃんの前からいなくなること」です。これは手っ取り早く一人遊びをさせよう、というものではありません。「赤ちゃんが、自分が楽しいと思えることを、大人がいなくてもできるようになること」と言い換えられます。なぜ、大人がいなくても楽しめることをゴールとするのか。理由は二つあります。

一つは、赤ちゃんが1人でもできることを、大人が不用意に手伝いすぎている場合、知らないうちに自信を失わせているかもしれないからです。もちろん、保育園に間に合わせるために急いで靴を履かせるなど、やむをえないことは多々ありますが、遊びの時間は1人でできることをじっくり見守ることが重要です。

もう一つは、将来の話ですが、子どもは大人よりも長く生きる可能性が高いです。そしてぼくたちが知らない未来を生きていきます。そのときに大人がいなくても楽しんで探索できるようにしておくのは、大人にとって大切な問題と思うのです。

とはいえ、赤ちゃんと一緒に楽しい時間を夢中になって過ごすことは、赤ちゃんにとっても大人にとってもかけがえのない経験です。赤ちゃんと遊ぶ時間をどう作っていくか、見ていきましょう。

安全な空間を整える

遊ぶときに狭い部屋で角がとがったものがたくさんあったり、電池や蓋の空いた洗剤などが転がっていたら大変です。そんな部屋で赤ちゃんと追いかけっこをしたり、ボールで遊んだりしていると、物に頭をぶつけたり、洗剤を舐めてしまったり、電池を飲み込んでしまったり……危険がいっぱいです。誤飲は最も気を付けなければなりません。

ただ、ぶつかったりつまづいたりするのは、軽度のものなら学びのうちという考え方もあるので、そこはお任せします。慣れていなければ、極力広々として柔らかい床のある場所で遊べるとよいです。公共施設の児童館などはオススメです。

心構えをする

「赤ちゃんは自分ではない」「赤ちゃんのきもちになってみる」「自分が楽しむ」という点に留意できるように、心を整えます。赤ちゃんは、驚くほど大人の緊張を感じ取ります。赤ちゃんと遊びなれていないと、緊張してしまうのも無理はないので、緊張している自分を受け入れるようにします。
「すみません、慣れていなくて緊張しています……」と赤ちゃんのママやパパに伝えてしまう、というのもありです。

時間を決める

完璧に30分ピッタリ! とする必要はありませんが、遊びの時間の始まりと終わりを意識するようにします。「今から一緒に遊ぶぞ~!」という大人の気合いは、赤ちゃんにも伝わります。ゆるく受け流すように遊ぶよりは、集中して遊んだほうがぼくたち大人にとっても得るものが多いです。

遊びの始まりは、おもちゃを広げたり、外に出かけたりして、ワクワクを高めます。そして、だいたい目安にしていた終わりの時間になったら、少しずつおもちゃを片付け始めたり、言葉がわかる2歳児ぐらいであれば「あと10回やったら終わりにしよう」などといって、終わりを予測してもらいます。「最後にあれをやって終わりにしよう」という感じです。

これを突然終わりにしたり、バタバタとおもちゃを片付け始めると、赤ちゃんも終わりにむけてきもちの準備ができず、ぐずってしまいますが、大人が予測をし、徐々に遊びを閉幕させていくことで、赤ちゃんのきもちも整います。

物理実験をする

具体的な遊びの内容ですが、2〜3歳頃までは、すごく単純なものの仕組みに興味を持ちます。ものを持ち上げて離したら落ちるとか、紙を両手で握って引っ張ったら破れるとか、コップを傾けると水が流れるとか、そういったものの動きや感触に興味津々です。
「ペットボトル1本あれば500の遊びが作れる」という言葉を聞いたことがありますが、おもちゃがそこになくても、ペットボトル、空き箱、ストロー、紙などがあれば、遊びを作ることができます。

たとえば、ペットボトルに何本ストローが入るか試してみる。キャップを開けたり閉めたりして遊ぶ。細かく切ったストローを入れてマラカスにする。空き箱に穴を開けてストローを通してみる。紙を細く丸めてストローに詰め、吹いて飛ばす、などなど。
誤って口に入れて飲み込まないように、見守りながらたくさん遊びを作ることができます。何か意味のある形にならなくてもよいのです。ものの仕組みを使った感覚・物理の実験です。第1回の「赤ちゃんを観察してみる」も参考にしてください。

ごっこ遊びをする

1歳をすぎたあたりから、コップを持って水を飲むふりをしたり、ご飯を食べるふりをしたりして、ごっこ遊びが始まっていきます。2歳頃になると、役割を演じて料理を作ってふるまうようになります。「見立て」や「ふり」「ロールプレイ」といった行動は見ていてとても面白いです。大人も恥ずかしがらずに参加することが重要ですし、なるべく子どもたちのディレクションに従うのがこの年齢ではオススメです。

4〜5歳ぐらいになったら、ごっこ遊びの設定を一緒に考えたり、ルールを導入するよう提案するなど、ディスカッションしながら遊びを作ることができるようになります。ちなみに、ぼくの知人には2歳の娘と一緒に本物のパスタを作っている人がいます。
子どもにとっては粘土を使った料理ごっこの延長ですが、実際に食べることができて食の楽しみも共有できます。リアルごっこ遊び、というと矛盾がありますが、そんな遊び方もあるようです。小麦アレルギーが心配であれば、米粉でも可能です。

葛藤を見守る

赤ちゃんは何かを試していてうまくいかないと泣いたり怒ったりします。そういうとき大人はすぐ手を出してしまいがちなのですが、そこで「赤ちゃんは自分じゃない」を思い出します。「こんなこともできないの?」とつい自分本位で苛立ってしまうかもしれませんが、赤ちゃんにとっては「できない!」という葛藤や苛立ちも大切な経験です。
そのなかでときどき手伝って成功体験を与えることは意味がありますが、バランスが重要です。観察モードのときは、何に葛藤しているのか、何がうまくいかず困っているのかをよく見ることです。

少し遠くから見守ってみる

最後に、赤ちゃんが何かに夢中になり始めたら、少し遠くから見てみます。赤ちゃん自身は目の前のものに好奇心を注ぎ、頭の中は不思議だなぁとかどうなっているんだろうとか、あるいは空想の世界でいっぱいなのかもしれません。そんな姿を見ると、赤ちゃんがこうして安心して夢中になれる時間と空間を作ることができた自分を誇らしく思えると思います。

いつかぼくたちがいなくなって彼らが生きる不確実な未来には、情報を集め、試し、夢中になってなにかを楽しむ力が必要です。それを育むのは、赤ちゃんが楽しむ環境と、それを見守るぼくたち大人の眼差しなのだという誇りを持って、少し赤ちゃんから距離をとってみます。するときっと赤ちゃんは「なにしてんの! 遊ぼうよ!」とぼくたちを誘ってくるでしょう。

おわりに

赤ちゃんは周囲の大人の関わり方によって成長の仕方が変わります。赤ちゃんを育てることは半端じゃなく大変なことだと思います。自分の時間を失い、あらゆるリソースを赤ちゃんに向けなければならない。また、子育てをしていないと赤ちゃんのことは他人事になりやすいです。

この連載は、日々の子育てのなかにある多くの仕事(おむつ替えや授乳、夜泣きの対応、離乳食や寝付かせ方など)の話ではなく、認知科学や発達心理学をベースに、赤ちゃんの「遊び」に注目しています。

この連載を読んだ方が、赤ちゃんの世界を楽しみ、知的興奮を覚え、少しは子育ての時間が楽しくなれば、それほど嬉しいことはありません。かくいうぼくも、これから子どもを育てることになります。子育てを実際にされている方への尊敬の念が、今以上に高まることと思います。

<今回のまとめ>
・安全を確保し、心構えをしたら、遊びの時間の始まりと終わりを決める
・物理実験やごっこ遊びをしてみる。小さいうちは子どものディレクションに従う
・葛藤や苛立ちを見守りながら、夢中になったら少し距離をとって、子どもたちだけでできることを見てみる