状況を俯瞰し、努力し続けることで「本物のプライド」が生まれる【後編】

  • 上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・SOU 嵜本晋輔社長 / 嵜本 晋輔

ブランド品の買取専門店「なんぼや」を展開するSOUが、2018年3月、東証マザーズに上場した。2011年の創業から、わずか6年のスピード成長だ。率いるのは、Jリーガーからビジネス界に転身した、嵜本晋輔(さきもと しんすけ)社長。リユース業界の革命児として注目される、36歳の嵜本社長が目指すものとは。
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「常識」を疑い続ける姿勢が大切

「なんぼや」は、リユース業界の慣習を変えたといわれます。でも私自身は、特別なことをしたという意識はありません。単純に正しいと思うこと、お客様に対していいと思うことをやっているだけ。

サッカー選手をやめてリユースの業界にポンと入って、先入観がなかったのが良かったのでしょう。業界のど真ん中にいると、どうしても「常識」を疑わなくなってしまいますから。業界にとっての「常識」が、実はお客様のご不便を生んでいるかもしれない。常にそういう目で自分たちの仕事をチェックし、改善を続ける。その繰り返しだと思っています。

そうはいっても、10年以上同じ業界にいると、どこかで「慣れ」が出てくることも事実です。それを教えてくれたのが、2017年にリリースされた「CASH(キャッシュ)」というサービスです。お客様が所持品を売る際に、現金が先に入ってくるという画期的な仕組みが話題になり、リリース直後に爆発的な集客がありました。

リユース業界では、所有権が移ってからお金を払うのが「常識」です。でもそれは、業界内の「常識」であって、変えない理由はない。それに対して、IT業界から「顧客目線だと、先にお金をもらえた方がいいよね」という発想が生まれてきた。これは本来、当社のようなベンチャーが改善すべき問題です。

自らが常識に縛られていたと正直ショックでしたが、これからの成長に向けて襟を正す、とてもいい経験になったと思っています。

リユース業界に参入する企業が増えているいま、自分たちの予期せぬ相手が突然出てきてライバルとなる可能性は、これからも大いにあります。お客様が喜んでくださるなら、いまある自分たちの事業を否定することすら厭わない。そういう気持ちでインパクトある事業を生み出していかないと、生き残れないと感じています。

人生はいつでも再スタートできる

私はアスリートから経営者に転身しました。サッカー選手時代のことは前編でお話しましたが、残念なことにプロになってから3年間、まったくサッカーを楽しめなかった。もともと大好きだったサッカーなのに、苦しさの方が勝ってしまった。なぜかというと、結果を出せなかったからです。

何かを楽しいと感じるのは、がんばったことが「実を結ぶ瞬間」だと思います。でもプロ・サッカー界に入った私は、いきなり周囲のレベルが上がったことについていけず、努力が空回りしてしまいました。試合で結果を出せず、選手として自信をなくし、「サッカーが楽しい」という気持ちをどんどん失っていきました。

そして、戦力外通告。チームに自分は不要と知り、人生で初めての深い挫折を味わいます。「このまま終わりたくない」という気持ちは、もちろんありました。でも一方で、「自分の実力はここまでだ」と、客観的に判断を下してもいました。

アスリートは、自分を客観的に見るクセがついています。間違ったパスを出してしまったら、次の瞬間に「何が悪かったのか」を振り返る。そうやって常に改善してパフォーマンスを上げ続けていないと、プロの世界では通用しません。私自身、いまこうしてインタビューを受けながら、「いまの回答は何点」と、常に頭の中でジャッジしています。

そうやって日ごろから自分を客観的に見ているアスリートでも、唯一、苦手なことがあります。それは、引き際を決めること。プロの世界で戦うアスリートは、ものすごく高いプライドを持っています。それはそうですよね。圧倒的な努力で練習を耐え抜き、厳しい競争を勝ち抜いたプロセスを、自分自身が誰よりもよく知っているのですから。

それでも、現実は残酷です。プロの世界に入ったけれど、勝てない。年をとって身体能力が衰えてしまった。そういうことがあったとき、続けても成功する確率が1%と自分でわかっているのに、その1%にかけようとする。プライドが邪魔をして、正しい意思決定ができない人が非常に多い業界だと思います。

事業って、赤字を垂れ流したら継続できないじゃないですか。でも多くのアスリートは、リターンがないのに、自分の時間をスポーツに投資し続けてしまう。好きだからとか、これまでの努力をムダにしたくないからとか、いろんな理由があるのでしょう。

私はできるだけ客観的に、ドライに自分を見て、やめることを決めました。もちろん、1%の可能性にかけ続けて、とてつもない何かを手に入れる人もいるでしょうから、一概にはいえません。でも私の場合は、結果的にあの時の判断が正しかったと思うし、正しくするための努力をしてきました。

プライドを持ち続ける方法は、ただ1つ。アスリートとして培ってきた経験を、ビジネスに活かすこと。次に進んだ世界で、結果を出すことです。

サッカーの道を手放しても、別の道に進んで、努力を続ければいい。プライドをなくしてしまうのではなく、置き場所を別のところにただ移すだけ。そう思えば、人生はいつでも再スタートできます。

上場は「通過点」でしかない

2018年3月、SOUは東証マザーズに上場しました。創業から6年というスピードや、当時35歳の元Jリーガーという経歴など、注目していただくことが多く、ありがたく思っています。

ただ、私自身は、上場の鐘を鳴らしても思っていたほど感慨はありませんでした。新たな事業のための資金調達ができますし、社員のモチベーション向上、お客様からの信頼アップなど、良い効果はもちろんあります。しかし会社としては、上場はあくまで通過点であり、まだまだ理想に程遠いと感じたためです。

売上は300億円にも満たない規模ですし、ビジネスモデルや社員の働き方も、改善の余地が数多くある。私自身の振る舞いも、世界のトップクラスの経営者の方々からすれば、足元にも及ばないと自覚しています。

まずは国内でしっかり、多くの人に共感してもらえるようなサービスを提供すること。そして、世の中に必要な存在と思ってもらえることが目標です。

例えば、中編でお話した「miney(マイニー)」のアプリが、スマホのトップページに必ず入っている状況を作るとか。目先の売上よりも、インパクトあるサービスを世の中に提供して、「これが欲しかった!」「こういうのいいね」と言ってくれる共感者、フォロワーをしっかりと増やしていく必要があります。

それが日本に広がり、世界に広がっていったら、最高に楽しい。経営者としての私はもちろん、社員だってワクワクするでしょう。人間、誰もが承認欲求のカタマリです。ですから私の仕事は、社員のみんなが「この会社いいよね」「私ってすごい」と思える状況をつくること。そうやって1人1人が生き生きと、自発的に仕事をすれば、業績はついてくると信じています。

経営者に転身して感じたのは、スポーツよりビジネスの方が、努力に対して結果が出やすいということです。スポーツの世界では、試合の日のコンディションや対戦相手、天候など、さまざまな要因に左右されます。ある意味で、「運」の要素が強い世界だといえるでしょう。

一方、ビジネスは状況を分析して、正しい戦略を立て、実行すれば、ほぼ確実に結果が出ます。そうしてお客様に喜んでいただき、従業員の成長にも寄与できる。努力しがいのある仕事だと思います。

戦力外通告を受けたときのような思いは、もう2度としたくありません。今度こそ結果を出して、社会から必要とされる存在でいたい。その思いが、いまの私を突き動かしています。

ゴールは、はるか遠くにある。小さな成功にうぬぼれている時間はありません。「満足している暇があったら、次の一手を考えろ」。いつも心のどこかで、もう1人の自分がそう言って背中を押すのです。