ミドリムシの夢を追いかける人生に苦しさなんて存在しない【中編】

  • 上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・ユーグレナ 出雲充社長 / 出雲 充

2012年の株式公開からわずか2年で時価総額が10倍になるなど、目覚ましい成長ぶりで話題を集めるユーグレナ。大学発ベンチャーであり、ミドリムシという微生物(藻の一種)を扱うユニークさ、バイオテクノロジーを使って食料・環境・エネルギー問題を解決するという志の高さもあって、市場から注目されている会社だ。創業者である出雲社長に、ミドリムシの事業にかける夢を語ってもらった。

ミドリムシの夢を追いかける人生に苦しさなんて存在しない【前編】を読む
ミドリムシの夢を追いかける人生に苦しさなんて存在しない【後編】を読む

理屈だけでは人は動かない

ライブドア事件の後、同社から資金援助を受け、オフィスを間借りしていたユーグレナに対しても、世間の風当たりは厳しくなりました。ミドリムシの屋外大量培養に成功し、やっとこの素晴らしい価値を社会に提供できると意気込んでいた私たちにとって、それは思いもかけない出来事でした。事業存続のためにライブドアから株式を買い取ったとき、私の個人口座に残ったのは32万1265円。ほとんどゼロからの再出発が始まります。

そうはいっても、奇跡の生物・ミドリムシの屋外大量培養ができたのだから、商品化さえすれば売れるはずだ。取引したい企業も必ず見つかる。そんな思いでおよそ2年間、500社を訪問し、答えは全てノー。理由は、「前例がない」から。ミドリムシのポテンシャルを理解し、社内で検討してくれた会社はたくさんありましたが、最後はいつもお決まりの一言で断られました。

大企業になればなるほど、結果をある程度予測してリスクを減らし、なおかつリターンの見込みがないと出資はできない。事情はよくわかりますが、何せミドリムシの大量培養自体、私たちが最初に成功したのですから、前例などあるわけがない。

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スポンサー探しをしたおよそ2年間、私は月給10万円、鈴木と福本は15万円。「大変なご苦労をされましたね」と言われたら一応同意はするのですが、私自身は、お金がないことへの不満や、将来への不安はありませんでした。

日本は安くて質のいいものがたくさんあるので、私は3畳一間のアパート暮らしで、ユニクロを着て近所の牛丼チェーン店に通って、十分事足りていました。他の会社にいけばいくらでも稼げる能力のある鈴木と福本には申し訳ないと思っていましたが、「ミドリムシを事業化したい」という夢に向かっているので、自分が苦労しているとは感じませんでした。

ただ、こんなに素晴らしいミドリムシの魅力を自分は伝えきれていないという歯がゆさはありました。このとき実感したのは、人を動かすには「科学的根拠」だけでは弱いということです。ミドリムシがいかに地球に役立つ生物であるか。イモムシのようなものではなく、美しい緑色の藻類で、ワカメや昆布のようなものだと、理屈でなく気持ちで納得しないと、人は動かない。人が動くには「感情的根拠」が必要で、相手の心に響く形で伝えるかがいかに大切かを、この2年間で痛いほど学習しました。

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ゼロをイチに変えてくれた会社

「前例がありません」。
毎日のように聞かされたこの言葉を、唯一聞かなかった会社。それが、伊藤忠商事です。雑誌に掲載されたユーグレナの記事を持って営業の方が弊社にいらしたのは、500社に協力を断られ、そろそろ資金も尽きようとしていたころでした。正直なところ、どうせまた同じ結果だろうという気持ちもありましたが、「本気でやるから、一緒に提案書を書こう」と熱く語る営業マンに動かされ、何度も資料を作り直し、社内で提案をしてもらいました。

当時、伊藤忠商事のトップの方も、「現場がそんなにいいというのなら、見てみよう」と仰って、自らユーグレナにいらっしゃいました。私は、ミドリムシのすばらしさと、世界で初めて屋外大量培養に成功したことを説明しました。そのときの反応は、「前例がない」ではなく、「そういうのがいいんだよ」でした。ミドリムシが地球を救う夢に、大きく一歩近づいた瞬間です。

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そして2008年5月、伊藤忠商事からの出資が決まりました。501社目、前例のないチャレンジにゴーサインを出してくれた伊藤忠商事には、いまも尊敬と感謝の気持ちでいっぱいです。伊藤忠商事から出資を得たことでユーグレナの信用が一気に上がり、新日石(現・JX日鉱日石エネルギー)、ANA、清水建設、日立プラントテクノロジー(現・日立製作所)、電通など、そうそうたる会社とあらゆる方面でパートナーシップを組んでいくことになります。ミドリムシのポテンシャルへの共感が、一気に広まっていったのです。

経営トップがリスクを取れるかどうか

伊藤忠商事が、世間的に見れば明日をもわからないベンチャーへの出資を決め、ユーグレナの「ゼロ」を「イチ」に変えることができたのはなぜなのでしょう。まず、現場の営業マンの熱い信念がありました。しかし、それだけでは会社は動きません。最後はやはり、経営トップがリスクを取ってくださったからです。「前例」という物差しではなく、ご自身の見識に基づいて判断をされた。このことに私は感動しました。

未来につながる決断は、会社の経営トップと現場の担当者の両方にアントレプレナーシップ(起業家精神)がないとできない。このことは、ユーグレナが上場を目指したときにあらためて感じました。伊藤忠商事の販売力でミドリムシの食品部門の売り上げが順調に大きくなり、さらに多くの企業からの協力を得て、ジェット燃料などの新しい研究開発にもまい進する日々。さらなる成長のために、私はユーグレナの株式公開(IPO)を考えました。そして、主幹事となってくださる証券会社を探していたとき、スポンサー探しと似た状況に陥ったのです。断りの決まり文句は「前例」ではなく、「類似業種がない」というものでした。

世の中にない新しいビジネスをベンチャーが作ろうとするとき、資本市場へのアクセスを、IPOを通じて手助けするのが証券会社の役割だと思っていました。しかし現実は、類似業種がないと主幹事をみつけるのは難しく、海外で同じようなビジネスは伸びているのかと聞かれてしまう。そんなとき、SMBC日興証券の現場担当者が関心を持ってくださり、話を聞いたトップの方が研究室に直接お見えになりました。その方は、実際にミドリムシを見て、私の話を聞いて、会社に戻られた。そして、「ユーグレナのビジネスをよく調べて、良さそうだったらIPOに取り組んでみなさい」とおっしゃったそうです。

アントレプレナーシップは、決してベンチャー企業だけのものではない。ヒト・モノ・カネをもって世の中に影響を与える大企業にも、真に起業家精神あふれる方々がいるものだと、大変な中に希望を見出す出来事でした。

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