「もしも世界が、ファッションショーだったら」オートクチュール編

前回は、パリ・ウィンメンズ・コレクションにおいてのファッション・トレンドと、モデルの人種はどう世界経済と関係してるのか? について説明してきました。今回は、現在のオートクチュール(高級オーダーメイド衣料店)と世界経済について解説したいと思います。
「『もしも世界が、ファッションショーだったら』ウィメンズ編」を読む

世界中で200人のためだけのファッションショー

現在もオートクチュールのコレクションは、パリでは年に2回開催されています。オートクチュールはオーダーメイドとほぼ同義ですが、パリの場合にはクチュール協会が指定する様々な規定を満たしているブランドのみオートクチュールと名乗り、コレクションを発表することが許されています。

オートクチュールブランドは、1930年代には約70のブランドが存在していました。しかし現在は約15程度。顧客に関しても、1940年代には2万人いたのが、2000年代に入り200人程度にまで減少していました。

その一方で、躍進したのがプレタポルテです。受注生産ではなく卸売りを目的に、ブランド側があらかじめ在庫をかかえる前提で生産する「高級既製服」とも訳されるのがプレタポルテ。顧客はS、M、Lなど任意のサイズの中から自分の身体に一番フィットするものを購入し、すぐ持ち帰ることができます。これは今日のいわゆるアパレル店舗で普通に行われていることです。

このプレタポルテが台頭し始めた1960年代から、オートクチュールは衰退しつづけます。その原因は価格にもありました。例えばブラウスやスカートで100万円〜、シンプルなスーツでも300万円〜。凝ったドレスともなれば1000万円。なによりも一番の問題は、すぐに購入し着られるわけでなく、半年〜1年待つ必要があることにありました。

赤字でもオートクチュールを続ける「からくり」

現在オートクチュールを発表しているブランドの中で、採算が取れているブランドはほとんどないと言われています。オートクチュールだけでは赤字なのです。損得勘定で考えると即刻中止すべきなのですが、プレタポルテのみしか発表していないブランドと比べると、オートクチュールを制作するブランドには格式があります。この格が別の業態につながるので、ブランドはオートクチュールを中止しないのです。

それは香水や化粧品といった商品のライセンスビジネスです。ライセンスフィーによる利益と、クチュールによる赤字とを相殺しても黒字になるので、コレクションを発表し続けているブランドがほとんどです。

戦争とファッション

衰退の一途をたどるオートクチュールですが、2000年代に入りさらに衰退が加速していきます。その原因は戦争です。欧州でのオートクチュール需要が減るなか、唯一の需要は中東地域にありました。オートクチュール全体の売り上げの30%以上は中東地域の人たちだったと言われています。

イラク戦争、湾岸戦争、9・11の報復戦争など、戦争や紛争のたびにアラブ系の方々がパリまで買い物に行くことができなくなりました。このためブランドは顧客を減らしつづけ、結果的に休止にまで追い込まれていきました。戦争の被害はファッションにも影響していたのです。さて、このまま終焉しそうだったオートクチュールですが、2010年代に入り復活の兆しを見せます。新富裕層の登場です。

オートクチュールは再ブレイクへ

IT系の起業家やベンチャー企業の経営者、投資家などの配偶者たちが新たな顧客に加わりました。そして富裕層の中のミレニアル世代も新規顧客に加わりました。その新たな顧客たちの誕生によって、それまでの顧客平均年齢が40代だったのが、30代前半まで下がりました。

彼女らが求めるのは、これまでのようなフランスの階級社会で必要な華美で豪奢なオートクチュールではなく、もっと洗練され若々しく現代的なオートクチュールでした。そのニーズを満たすデザインに変わったクチュールが発表され始めました。誰よりも合理性を求めそうな彼女たちが1年も待たされる洋服に魅了される理由は、”デザイナーが自分のためだけに服を作ってくれる”という特別感のある「体験消費」にあるようです。

新しい世代がオートクチュール市場を活性化させている

新たな顧客のおかげで前年に比べ2ケタの成長をするブランドも現れています。一時期、顧客が200人まで落ち込んでいたのが、現在は4000人にまで回復していると言われています。それでも全盛期の2万人に比べれば、まだまだ厳しい世界なのでは? と思いますよね。ただ、かつての顧客の平均オーダー数が5着程度だったのに対し、現在の顧客は平均20着程度購入するとのこと。顧客数は減っても、客単価が約4倍なのです。

この若い世代たちは、現在のオートクチュール顧客の40%を占めていると言われています。今まで閉ざされた世界だったオートクチュールのコレクションには、中東圏に加え中国、韓国、インドからのセレブリティやインフルエンサーが招待されるようになっています。新富裕層やミレニアル世代にとっての新しい解釈が、オートクチュール市場を活性化させています。

<まとめ>
・オートクチュールブランドは、その格式高さを使ってライセンスビジネスを展開することで経営を成り立たせている
・オートクチュールの衰退には、戦争や内紛の影響も多大にあった
・オートクチュールは、新富裕層やミレニアル世代には体験消費と解釈され需要が拡大している