第1回 囲碁とはどういうゲームなのか

  • 3分でわかる・読むだけでおもしろさがわかる 大人のための囲碁入門 / 大橋 拓文Noritake
数千年の歴史を持ち、時代も国も超えて愛されてきた囲碁。囲碁棋士の大橋拓文さんが、一般的な囲碁の印象をがらりと変える目から鱗の裏話とともに、囲碁の基本的なルールを教えます。読むだけで囲碁のおもしろさがわかる、初心者のための囲碁入門です。

みなさんはじめまして。大橋拓文です。私は普段、盤上で目を白黒させながら日々勝負の世界に身を置く「囲碁棋士」です。みなさんにはあまり馴染みのない職業かもしれません。しかし、この連載をご覧になっているあなたはきっと、これから囲碁をやってみようかな、と考えていらっしゃる方でしょう。ようこそ、奥深き囲碁の世界へ――失礼、少し先走りました。

囲碁は黒と白の戦い、そう、モノクロの世界ですが、実は理解が進むほどにカラフルに変化し、ロマンのある、そしてちょっぴり(いや、大いに)戦略的なゲームです。

突然ですが、ここで問題。大久保利通、アインシュタイン、川端康成、ビル・ゲイツ――。彼らに共通するものは何でしょう?

正解は、「囲碁」。まさかと思われるでしょうけれど、本当なんです。時代も国もジャンルも異なる彼らを虜にしたのが、囲碁でした。数千年前に中国で生まれたと言われる囲碁は、5世紀ごろ日本に伝わりました。枕草子や源氏物語にも囲碁のシーンが登場し、伝来後は、女性や貴族にも好まれていたことが分かります。

最近、お隣の将棋界では観る将棋ファン、いわゆる「観る将」という呼び名が登場しています。囲碁のほうでも「観る碁」のための囲碁入門ができないかと考えました。この連載では、観て囲碁が分かるようになるために、囲碁の根っこの話から始めます。ルールはプレーするためのものですので、後半で説明します。囲碁がどんなゲームなのか、観て分かるようになるためには根っこを理解することが大切です。この連載を読み終わった後には、

①囲碁の面白さが「なるほどそういうことなのか」とわかり、
②ちょっとだけ囲碁が打てるようになります。

明日から周囲の人に「ねえ、囲碁って実はこうだったって知っていた?」と話したくなること間違いなし。

では、ここでもう一度。ようこそ、奥深き囲碁の世界へ――。

囲碁の勝敗のつけ方

初対面の方とお会いした際、私が囲碁棋士と名乗ると多くの方は「囲碁には興味があるけど、どうしたら勝負がつく(勝ちになる)のかわからない」とおっしゃいます。たしかに囲碁は終局(=勝負がつく)がわかりにくいゲームです。たとえば将棋は王将を取れば勝ちですね。オセロだったら置く場所がなくなったらおしまいです。

では囲碁はどうでしょうか?

第1回では囲碁の勝敗のつけ方と根っこの決まり事を紹介します。そしてその後に実際の対局を見ていきます。囲碁の流れと考え方をイメージしていただくのが狙いです。

まず、囲碁は、「碁盤」と黒と白の「碁石」を使って行われ、石は線と線の交点に打っていきます。一度打った石はその場所から動かすことはできません。公式戦では19×19の広さを持つ19路盤が使われます。

黒と白が交互に打ち合い、終局した場面が図1です。

図1

ここで、黒と白、お互いの境界線で囲まれた陣地を数えます(図2)。

図2

黒で囲まれた▲のところが黒の陣地、白で囲まれた◯のところが白の陣地です。これを1つずつ数えていくと、「白の方が“1個と1個の半分”だけ多い」という結果になります。囲碁用語でいうと、「白の1目半勝ち」です。囲碁の陣地を数える時の単位は「目(もく)」と呼びます。

ここでポイントなのは、「囲碁は黒を持った人から最初に打ち始める」ということ。陣地の取り合いなので、先に打てる人の方が有利です。したがって、公平を期すために、黒を持った人は、白を持った人に対してハンデ(6目半。半は引き分けをなくすためのもの)をあげます。これを「コミ」と言いますが、詳しくはまたあとで。

相手の石を囲むと取れる

このように、勝ち負けは陣地の大きさによって決まりますが、囲碁の「囲」にはもう1つの意味があります。「相手の石を囲むと取れる」のです。取れるというのは文字通り、碁盤から取り上げることを指します。

図3の白石は、どれも周りを黒に囲まれています。これらの白石は黒に取られてしまいます。

図3

要するに、囲碁の根っこは

①陣地を囲い合ってそれが多い方が勝ち
②相手の石を囲むと取れる

この2つだけです。意外とシンプルですね。この2つをマスターすれば、囲碁を見たときに、何をやっているかが分かるようになります。

囲碁は陣取りゲームなので、最終的な勝敗は陣地の大きさで決まるため、石を取られても即負けというわけではありません。しかし、この石を取れるという決まりによって、囲碁は単純な陣取り合戦から戦略的で奥深いゲームになってしまうのです。
普通に考えると、石を取られて盤上から自分の石が減ると、それだけ不利になりますよね。ところが、囲碁では「石をあえて取らせる」つまり「捨て石」を使った方が有利になる場面があったりします。勝つためには、限られた資源(石)で効率良く陣地を囲っていく戦略が求められるのです。

一局の流れを見てみよう

囲碁の根っこがわかったところで、次は囲碁の流れを実際の対局に沿って見ていきましょう。まず、囲碁には「序盤」「中盤」「終盤」があります。それぞれに求められることは、

①序盤(布石)……構想力、イメージ力
②中盤(戦い)……戦略、応用力、柔軟性
③終盤(ヨセ=最後の仕上げ)……計算力、正確さ

このようなものです。段階によって求められる要素が刻々と変化していくため、それぞれの場面に合わせて臨機応変に対応していかなくてはいけません。ではまず、戦略の要素がわかりやすい「序盤」から「中盤」にかけての場面を見てみましょう。

図4

図4はいわゆる布石が一段落したところです。実は、一般的に使われている「布石」という言葉は、もともと囲碁の用語なんですね。
黒から交互に打ち進め、白46手目まで進行し、お互いに23個……(おっと、黒はすでに1個取られているので22個でした。ここまでの進行ですでに戦略的捨て石があるのです)つまり45個が盤上に置かれています。

図5

黒は実線の右辺(辺=碁盤の端の長い部分)、左上隅、左下隅の3ヵ所陣地にしようと囲いを作っています。

それに対し白は、点線の右下隅から左横の下辺にかけて1ヵ所、右上隅からさらに左横の上辺にかけての2ヵ所で、どちらも細長い囲いです。序盤ではこのようにお互いに縄張りを張るように、全体のバランスを見ながらざっくりとした囲いを作ることに重点を置きます。

続いて、中盤戦です。ここから戦いが始まっていきます。

図6

黒1と上辺に打ちました。黒1の狙いとしては、上辺の白の構えを崩し、白に大きな陣地を作らせない考えです。しかし、白も黙って侵入されたままでいるわけにはいきません。白2、黒3、白4、……と続き、黒7まで進みました。

黒1、5、7の3子(子=盤上においてある石の数え方)を白2、4と左上の白▲の4子で挟み撃ちにしようか、などと戦略を考える場面です。

中盤戦ではこのように黒白お互いの石が接触し、戦いが勃発します。相手と自分の狙いが絡み合って複雑になることもしばしば。

図6からだいぶ進み、図7のようになりました。

図7

おや、いつの間にか上辺に黒の陣地ができています。図5では、上辺が点線で囲われたように白地になりそうでしたが、黒が侵入に成功。黒地に変わったのがわかりますね。

しかし、黒が一方的に大成功だったかというと、そうではありません。黒が1、3と上辺に手をかけて補強しているうちに、白は2、4と打ち、中央から下辺にかけて点線で囲われている場所に大きな白の模様を作りました。黒が作戦の目的を達成している間に、白は上辺を黒に与え、中央から下辺にかけて陣地を作りにいくという柔軟な対応を取ったのです。よって、全体の形勢は互角といえます。

このように、全体をよく見てバランスを取ることが重要です。ある部分だけに一生懸命になっては、いつの間にか相手に別の場所で大優勢を築かれてしまいます。人間は視点を定めてしまうと、そこにこだわってしまうことがありますが、徳川家康や戦国武将は囲碁を打つことで全体を見ることを学んでいたのかもしれません。

この連載では囲碁の戦略性やおもしろさを伝えるために19路盤を使いますが、これでは広すぎて心配な方もいらっしゃるでしょう。ですがご安心ください。囲碁には初心者の方が実践しやすい9路盤というものがあります。

具体的な打ち方はこれを使っていきますので、まずは9路盤で打てるのを目標に楽しんでいきましょう。