ミドリムシの夢を追いかける人生に苦しさなんて存在しない【後編】

  • 上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・ユーグレナ 出雲充社長 / 出雲 充

2012年の株式公開からわずか2年で時価総額が10倍になるなど、目覚ましい成長ぶりで話題を集めるユーグレナ。大学発ベンチャーであり、ミドリムシという微生物(藻の一種)を扱うユニークさ、バイオテクノロジーを使って食料・環境・エネルギー問題を解決するという志の高さもあって、市場から注目されている会社だ。創業者である出雲社長に、ミドリムシの事業にかける夢を語ってもらった。

ミドリムシの夢を追いかける人生に苦しさなんて存在しない【前編】を読む
ミドリムシの夢を追いかける人生に苦しさなんて存在しない【中編】を読む

お金がなくて本当によかった

ユーグレナは2014年12月に、大学発ベンチャーとして日本で初めて東証一部に上場を果たしました。前編でも触れましたが、現在の株主は約8万5千人。東証一部上場企業の平均の株主数は約2万2千人なので、本当に多くの方がミドリムシのポテンシャルを理解し、応援してくださっています。本当にありがたいお話です。

いまではパートナー企業からも、市場からもご支援いただけるようになったので、研究開発費用は潤沢です。設立のきっかけとなったバングラデシュに事務所を置き、栄養問題を解決すべく活動を始めていますし、国産のミドリムシをはじめとする藻類から抽出した燃料でジェット旅客機を飛ばすという夢に向かって、実証プラントを建設して準備を進めています。夢を現実に移行しようと具体的に活動している今、振り返ってみると、過去の試練でムダになったことは一つもありません。むしろ、すべての経験が貴重な財産となっています。

たとえば、創業当時にまったくお金がなかったことは、私たちにとって幸運でした。スポンサー探しに奔走しながら、ミドリムシの素晴らしさをどうすればわかってもらえるか、相手の心に響く伝え方を学ぶことができたからです。
もしあのときお金があったら、ミドリムシ入りの商品を作って大量にコマーシャルを打って、一時的な話題にはなったでしょうが、今ほど多くの人々が共感し、株主になってまで応援してくださることはなかったでしょう。

提携企業も限られていたと思います。というのも、お金がない時期は研究する場所も機械もないから、大企業に必死になってお願いをします。相手の負担にならず機械をお借りするために、「御社が作業を休む土曜日の夜10時から月曜の朝8時まででいいから、使わせてくれませんか」と言うと、相手も「なんて頑張っているんだ」となり、気持ちよく使わせてくれる。こういうことが続くと、段々こちらも“お願い上手”になります。こうやって気持ちの良い協力関係を築くコミュニケーション術は、パートナー企業とのビジネスを進めるうえで、役に立ちます。

お金がなければ知恵を使って、工夫するしかない。その工夫が私たちを成長させてくれた。だから本当に、私たちはお金がなくて幸せだったのです。

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自分を夢につなぎとめてくれたもの

スポンサー探しをしていた2年間の話をすると、「よくあきらめずに続けましたね」と言われます。確かに、ミドリムシのポテンシャルを疑うことはなかったし、夢を追うことへの不安はありませんでしたが、私だって人間です。どの会社からも相手にされない状況が長く続くと、心が折れそうになりました。

朝から4社をまわってビジネスモデルを説明し、全社から断られて帰宅する。アパートのドアを開けて1人になったとき、精神的疲れがピークに達します。「今日もダメだった」「ミドリムシに申し訳ない」とつらい気持ちが押し寄せてくる。そんなとき、私を夢につなぎとめてくれたのは1枚のTシャツでした。
そのTシャツは、私が初めてバングラデシュを訪れて栄養失調の現実を知り、何とかしたいと思ったときに買ったものです。これを着て、師と仰ぐグラミン銀行の創設者・ムハマド・ユヌス先生と一緒に写真を撮った思い出もある大切なもの。洋服棚にずっとかけてあるので、一日の終わりに着替えるとき、必ず目に入ります。

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Tシャツを見るといつも、自分が人生の夢をみつけた瞬間から、今に至るまでのことが一気によみがえる気がするのです。そしてユヌス先生のことを思い出します。先生は76歳で、いまも貧困層の人々をゼロにしようと活動を続けている。先生が夢をあきらめずにいるのに、なんで私が先にやめるなどと言えるのか。明日もう一度だけやってみよう。そう思って、翌日4社を訪問する。その繰り返しでした。

何かをあきらめずに続けられるかどうかは、“能力”の問題ではありません。まず、自分の先をいく師匠となる人がいるかどうか。そして、夢をもったときの自分を思い出すアンカー(碇)があるかどうか。私の場合は、1枚のTシャツが、ふらふらと楽なほうに流れようとする自分をしっかりと夢につなぎとめるアンカーの役割を果たしていました。

トップがみんなに支えられる逆ピラミッド型の組織

私は決して、強いリーダーシップでみんなを引っ張っていくタイプの経営者ではありません。周りのみんなから支えられながら、一緒に夢を追いかけるのが性に合っています。見てください、この垂れた目。応援したくなるでしょう(笑)?

数学の天才で、世界で初めてのミドリムシの屋外大量培養を成功させた鈴木は、今も研究開発のトップとして能力を最大限に発揮してくれています。ずば抜けた営業センスをもつ福本も、日々ミドリムシの可能性を人々に伝え、次のビジネスを生んでくれています。途中から取締役として参加してくれた永田は、財務や事業戦略のプロ。30代前半という若さで組織と資金面の適正さをチェックし、仕切っています。このほか、社員はみんな秀でた能力を持っていて、専門分野においては私よりよっぽど優秀です。「本当にすごい」と思って任せるので、優秀な人ほど頑張ってくれます。ユーグレナは逆ピラミッドの形をしていて、一番上の厚い層が社員。その下に経営陣、そして私。みんなの頑張りによって、「ミドリムシで地球を救う」という夢が支えられているのです。

では、このような組織でなぜ私がトップにいるのか。その必然性はどこにあるのか。それは、私にしかできないことがあるからです。

「ミドリムシで地球を救う」

この言葉を誰よりも胸を張って、一点の曇りも疑いもなく、言い続けてきたのが私だからです。相手が一国の首相であろうと近所の小学生であろうと、まったく同じように、私は夢を語り、ミドリムシのすばらしさを伝えようとするでしょう。この思いの強さ、迷いのなさが、私がトップであるゆえんだと思っています。

ミドリムシは約5億年もの時間を生き、進化を続けてきた奇跡の生物です。人類が招いてしまった地球の食料・エネルギー問題を、生物の大先輩であるミドリムシが救ってくれるなら、こんなに素晴らしいことはない。

夢は現実になる。昨日不可能であったことを、今日可能にする。そのことを証明するために、私は今日も仲間たちと一緒に走り続けています。地球上から栄養失調や環境汚染がなくなり、ミドリムシが喜ぶ日が来ることを、心の底から願っています。

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ミドリムシの夢を追いかける人生に苦しさなんて存在しない【前編】を読む
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