私のマンガ家人生はお金のために始まった【後編】

  • お金を語るのはカッコいい・三田紀房のお金の話 / 三田 紀房

「賞金がほしくてマンガ家になった」という驚きの前編に続いて、中編ではものづくりに対する考え方と、投資について語ってくれた三田紀房さん。いよいよ後編では、シリーズ600万部を売り上げた『ドラゴン桜』の大ヒットで、お金に対する考え方がどう変わったかを伺います。

私のマンガ家人生はお金のために始まった【前編】を読む
私のマンガ家人生はお金のために始まった【中編】を読む

『ドラゴン桜』で「複利」の効果を実感

マンガ家は当たりはずれの大きい商売です。1つ大ヒットが出ると、全巻で何十冊もある単行本が一気に売れ、あれよあれよという間に大金が入って来る。一方で、人気が出なくて打ち切りになるような連載が続くと、段々と新しい企画の声がかからなくなり、失業ということになってしまいます。

前回お話した通り、私は『ドラゴン桜』の成功で億を超える印税を得ました。そのとき、初めて自分の仕事で「複利」の効果を実感しました。

複利というのは、利子を元本に組み入れて利益を増やしていく計算法です。
たとえば、100万円で債券を買って、1年で5%増えたとします。その利子である5万円を元本に組み入れると、1,050,000円になります。そしてまた1年で5%(52,500円)の利子が出たら、2年後には1,102,500円になる。それを元本に組み込むと、3年後には1,157,625円に……というふうに、利子を元手にして利益を増やしていくのが複利です。

その反対が「単利」で、元本に対してのみ利息を計算します。100万円の元本はずっと変わらないので、利息が5%であれば、1年後は1,050,000円、2年後は1,10,000円……と、毎年5万円ずつ増えていきます。

四角い積み木の上に決まった量の積み木を乗っけていくのが、単利のイメージ。複利は、丸い雪だるまのようなもので、転がせば転がすほどスピードを上げて大きくなっていく。

『ドラゴン桜』の場合は、単行本が売れた後に、ドラマ化や受験英語を解説する『ドラゴン・イングリッシュ』といった関連本の発売によって、私が直接制作に関わっていないものからも著作権収入を得られました。『ドラゴン桜』を2次利用するコンテンツがどんどんできて、その利益の一部が私に入って来る。これはまさに、複利の力で元本が増えていくようなものです。

このとき、私の妻は「“このお金はいったいどこから来たの?”というセリフ、一回言ってみたかった!」と喜んでいました。私がせっせとマンガを描いて入って来る単行本の印税は、労働の対価であって、理由がわかるお金。複利的な収入はそうではなく、レバレッジを効かせて増えていく。これが本当に儲かるということだと話す彼女の説明に、投資の本質がよくわかっているなと感心しました(笑)。

幸い、私はそれまでに社会人として経験を積み、マンガ家としても遅咲きだったので、大金が入って金銭感覚が狂うということはありませんでした。そこで立ち止まらず、さらに面白いマンガを描くために、稼いだお金を設備投資に回したのは良い選択だったと思います。仕事で得たお金を「自分のもの」と勘違いするのが、商売をダメにする第一歩ですから。

insert01 会社員の多くが意外と経済の知識がない

働いて得たお金を“現在”でなく“未来”のために使うということ。
複利の力で効率的にお金を増やすということ。

私がマンガ家という商売を通して学んだ2つのことは、投資の原則そのものです。そして今、『モーニング』で連載中の『インベスターZ』は、まさにその投資をテーマにしたマンガ。連載を始めてからあらためて、投資について学べばより多くの人が豊かな人生を送れるようになる、と思うようになりました。

『インベスターZ』の主人公は中学一年生で、学校の運営資金のために3000億円の資産を運用する秘密の部活「投資部」のメンバー。ぶっ飛んだ設定ですが、何でもありなのがマンガのいいところです(笑)。
彼らは子どもなので、投資を通してイチから経済の仕組みを学んでいく。「そもそもお金って、いつの時代に誰が作ったんだろう」と主人公が言えば、お金の概念が生まれた4500年前にさかのぼり、史実が展開されます。読者は投資部のメンバーと一緒に、学びながら成長し、時には投資の勝負にハラハラする――。そんな設定になっています。

このマンガ、大人が読んで「勉強になる」って言われることが多いんです。それくらい世の中の大人って、会社でバリバリ働いている人であっても、意外と経済の仕組みを知りません。たとえば、「1ドルが100円から110円になるのは、円高か、円安か?」という質問。これは 経済の超・基礎知識ですが、あなたはぱっと答えられますか?

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正解は「円安」です。実はこのレベルのことを、一般的な大人も知りたいと思っている。でも今さら人には聞けないし、経済の専門書を買っても読むのはしんどい。「中学生が投資をする」という設定の面白さ以外に、売れているのはそういう大人たちのニーズに応えているからだと思います。

「バスから降りられない」大人にならないために

人は誰でも、経済と関わりながら生きています。電気やガス、水道といったインフラはもちろん、朝起きて歯を磨くための歯ブラシだって、企業が市場から資金を集めて人を雇い、工場を建てて生産するという経済活動の結果、あなたの手元に届いています。ですから経済について知識を得るというのは、あなたの生活を成り立たせているものの背景を知ることであり、実はとても価値があることです。

それなのになぜ、多くの大人が経済に無関心なままで平気なのか。おそらくそれは、周囲も同じレベルだからだと思います。これは日本人の特徴だと思うのですが、「みんな一緒」ということで安心してしまう。でも、本当にそれでいいのでしょうか?

2016年は年明けから株価が下がり続け、一時期は15,000円を割る日もありました。それまではアベノミクスの効果もあって順調に推移していて、2015年は20,000円を超える高値がついていたので、まさに青天の霹靂。テレビの街頭インタビューなどでは、個人投資家が「大損した」といって騒いでいました。それを見ていて、私はふと「路線バスから最後まで降りない人の思考と同じだな」と思いました。

つまり、駅に行くのに路線バスに乗っても、駅前が渋滞で混んでいたら、賢い人は1つ手前のバス停で降りてさっさと歩きます。一方、世の中の多くの人は、降りて歩くほうが早いとわかっていても「みんな乗っているから」と言って何となく最後まで乗って行く。時間の損失より、みんなと同じ行動をとる安心感を優先してしまうのです。株も一緒で、「みんなまだ売っていないから」と言ってぐずぐずと売り逃し、大損してしまう。
そうではなく、いいと思ったことは自分で判断してさっさと動くのです。経済の知識も同じで、周囲が知らないからこそ、あなたが少し学ぶだけで差が出るはずです。

私はマンガ家になるとき、「みんながマンガ家になるために何をしているか」なんて、考えもしませんでした。ただ必死に、ペンと紙を用意して見よう見まねで描きました。デビューしてからも、他人と自分を比べたことなんてありません。ただ面白いマンガを描き続けることだけを考えて、気が付いたら同じころデビューしたマンガ家がどんどんいなくなる中、今でも現役です。

こういう例があるのですから、怖がることはありません。周囲のことなど気にせず、自分の意思でバスを降りられる大人になること。それが、成功への第一歩なのです。

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