第4回 囲碁のルール「着手禁止点」と「コミ」

  • 3分でわかる・読むだけでおもしろさがわかる 大人のための囲碁入門 / 大橋 拓文Noritake

連載の第1回から3回までは、

① 陣地を囲い合ってそれが多い方が勝ち
② 相手の石を囲むと取れる

という2つの根っこから囲碁を見てきました。

この連載は囲碁の入門と謳っておきながら、ここまで「ルール」という言葉はあえて使いませんでした。そして本日、第4回で待望? のルールの登場です。
第3回「囲碁の醍醐味、からみあう戦略と戦術」を読む

根っことルールは何が違う?

囲碁は数千年前の中国で発祥したとされており、現在は世界中にたくさんのプレーヤーがいます。この長い歴史の中で、囲碁の「根っこ」だけは変わらずに共通のものとしてあります。しかし、勝敗を決するために必要とされた「人間が決めたルール」が、実はいくつかあり、そしてそれは時代や国によって少しずつ違います。具体的に言えば、引き分けをなくすための決まりのようなものです。

根っことルールは何が違うのかと問われた時に、他の盤上のゲームを見てみるとそれがよくわかります。

インドが発祥とされる将棋系のゲームは、西洋にも発展し、チェスに形を変えました。アジアには中国将棋(シャンチー)、韓国将棋(チャンギ)などがあり、そして日本の伝統である日本将棋があります。

将棋系に共通することは、「相手の王様を取った方が勝ち」という根っこです。駒の動きなどのルールは、その土地の風土に合わせて人々が工夫したことが伺えますね。将棋系はそれぞれのルールによって特色が出ていますが、囲碁は時代や国が違っても、ほとんど同じ形態で楽しまれています。つまり、根っこの存在感が強いゲームと言えそうです。

さて、根っことルールの違いがわかったところで、今回と次回では実際にプレーする場合のルールについてお話しします。「はじめからルールの説明をしてほしかった!」という方もいらっしゃるかと思いますが、囲碁にとってルールは枝葉。根っこがわかっていれば、枝葉は簡単に理解できます。

着手禁止点

図1

囲碁は基本的にどこに打っても良いのですが、白の立場から見ると、AやBの場所は石を置いてもすでに活路がなく、打った瞬間取られる形になってしまいます。こういう場所を「着手禁止点」と呼び、白は打つことができません。
ただし、黒が打つことはできます。黒は打っても取られる形にはならないからです。

図2

たとえば、図2も白から見るとAはすでに包囲されている(=活路がない)場所なので、着手禁止点です。

では、次の図3はどうでしょうか? 黒と白の両方の立場で考えてみましょう。

図3(問題)

いかがでしたか? まずは黒番(黒石を打つ人)から答え合わせです。

図4(解答1)

黒1に打つと、黒石6個の集団になりました。しかし、その集団は周囲を白石に囲まれて活路がないため、打った瞬間取られる形になってしまいます。したがって、「黒にとって黒1は着手禁止点」です。

図5(解答2)

今度は白の立場で考えてみます。白1は周りを黒に囲まれて着手禁止点のように見えますね。ですが、黒の形をよく見てください。白1に打つことによって、黒5子も活路がなくなっています。この場合は白1で黒5子を取れる、つまり黒5子の活路をすべて塞いでいるので、白1に打つことができるのです。白1に打つと、

図6

このような形になります。相手の石を囲むと取れる、という根っこの決まりが強く、着手禁止点のルールよりも優先されているのがわかります。

理解を深めるために次の図7を見てください。

図7

白が1に打ったところです。ここで「あれ? ちょっとおかしいな」と思われるかもしれません。そうなのです。白1の周りにはすでに黒の壁ができており、脱出できそうにありません。
しかし、白1は必ず黒に取られてしまう運命にありますが、まだ活路が1つだけあいているため、ルール上は打っても良い場所になり、着手禁止点ではありません。
そうは言っても、取られることがわかっていてここに打ちたい人はいませんよね。ですが、不思議なことに、周囲の状況が変わると白1が良い手になることがあるのです

図8

図7に、白石を3つ加えました。さて、先ほどと何が違うのでしょうか?

図9

白1と同じ場所に打ちました。図7では周囲をすべて塞がれて取られる運命にあった白石ですが、図9では、よく見ると黒△の活路がなくなっています。したがって、白は黒△を取ることができるのです。面白いですね。微妙な配石の違いで立場がガラッと変わってしまいました。

公平にするためのルール「コミ」

対局を黒と白、公平にするための大切なルール、それがコミです。第1回からちょくちょく登場していますが、詳しく見ていきましょう。

囲碁は初手を黒から打ち始めますね。限られた盤面にお互いが陣地を作る以上、先に打つ方(黒)が有利なのは皆さん想像に難くないと思います。
したがって、それを公平にするために、最後に陣地を計算する際、「黒は白に6目半あげる」というルールがあります。そして、これを「コミ」といいます。「6目はわかるけど、半って何?」という疑問にお答えしましょう。

たとえば、終局して陣地を計算する段階で、黒地が50目、白地が44目あったとします。コミが6目だけですと、引き分けになってしまいますね。「半」というのは、英語だとハーフポイント。つまり、「6目半=6.5目」ということになります。「半目」をつけることにより、引き分けをなくしているのです。

黒地が50目、白地が44目で6目差でしたが、コミを含めて計算すると、白地が44目+6.5目=50.5目(50目半)になりました。すると、結果は「白の半目勝ち」となります。これがコミというルールです。

ちなみに、この6目半という数字は、これまでの歴史と棋士の公式戦のデータから決められたもので、時代や国によって多少違いがあります。日本でコミが導入された当初は4目半でしたが、その後、しばらくして5目半に。そして、私がプロになった直後に6目半になり現在も定着しています。

昨今話題の「囲碁AI」は、コミ7目半で設定されており、初手の勝率は黒47%、白53%でやや白が有利とされています。したがって、現在広く用いられているコミ6目半は、ちょうど良いハンデといえるでしょう。囲碁AIがなぜコミ6目半ではなく7目半を採用しているかについては、これを述べるだけで何冊か本が書けてしまうほど深い理由がありますので、また別の機会に。

囲碁のプロ制度を最初に作ったのは、皆さん驚かれるかもしれませんが、徳川家康です。江戸時代には「御城碁(おしろご)」と呼ばれる晴れ舞台がありました。当時の囲碁にはコミがありませんでしたが、どうやって公平さを保っていたのでしょうか。

江戸時代は1局だけで勝敗を決するのではなく、黒白交互に手番を入れ替えて何局も打ち、勝ち越した方を勝者としていました。大規模な勝負碁では、将軍の意向に反して遠島を賭けた60番勝負、というのもありましたね。コミというのは、近代になり、トーナメント戦で1局ごとに決着をつけるために導入されたものなのです。

今回は、囲碁の根っこからルールについてお話ししました。根っこさえしっかりしていれば、ルールが少々変わっても囲碁は囲碁。たとえば、着手禁止点のルールも原始の囲碁にはありませんでした。

ルールはあくまで競技用で、根っこの考え方はどこにでも、それこそ宇宙の彼方にも存在し得ると思っています。夢のようですが、いつか宇宙人と囲碁を打ってみたいですね。その時はもしかして、立体的な3D碁盤かもしれません。