レストラン企業が成功したのは、「本気で人を大切にした」から【前編】

  • 上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・ひらまつ 陣内孝也社長 / 陣内 孝也

1軒のレストランから始まり、いまやフランス料理・イタリア料理を中心に国内外で30数店舗を展開する、ひらまつ。料理・サービスがマニュアル化できない「高級レストラン」で多店舗展開を成功させ、上場している珍しい会社だ。陣内孝也社長が語る、「人を大切にして成長してきた」会社の本質とは。

原動力は、人を思う気持ち

「社員を大事にする」という企業は多いですが、その中で、経営者が心からそう思っている企業はどのくらいあるでしょうか。

当社は創業以来、本気で社員と向き合い、その成長を見守ってきました。高級レストランというのは、料理もサービスも個人のスキルによるところが大きく、決してマニュアル化できません。ですから、社員1人1人の成長なくしては、出店も増やせない。

つまり、高級レストランという業態は「人」に依存しているといえるでしょう。さらに当社が特殊なのは、創業者の平松博利が経営者となった動機が、「社員を幸せにしたい」という想いだったことです。

当社は1982年、東京・西麻布に平松が開いた1軒のレストラン「ひらまつ亭」から始まりました。24席の小さなお店でしたが、シェフ・平松のフランス料理の腕と、マダム役の奥様の温かいサービスが評判となり、あっという間に行列ができる店になります。

伝説の店となった「ひらまつ亭」

しかし、この時点では平松はあくまで料理人、レストランのオーナーでした。仕事には厳しいけれど情に厚く、私たちからすればすごくカリスマ性のあるリーダーでしたが、会社を大きくする経営者という感覚は、まだなかったと思います。

きっかけは、1989年。ひらまつ亭に起きた、ある悲しい出来事でした。

そのころひらまつ亭には、平松が将来を期待し、「四天王」と呼ぶ4人の料理人がいました。その中の1人で私の1つ上の先輩であった料理人がいました。彼は私が失敗したら一緒に謝ってくれるような、心優しい人でした。

24歳でセンスの良さを見込まれ、調理場を仕切り、いずれは地元の名古屋で店を持ちたいと夢に向かって修行に励んでいた。しかし、そのさなかに悪性腫瘍が判明。検査のため帰郷したのですが、半年も経たないうちに帰らぬ人となったのです。

「部下の健康管理をもっとしっかりやっていれば、命を落とさずに済んだかもしれない」。

平松は、強い後悔の念にかられました。ご両親の元を訪れた際、「いつか息子が店を出すときのために」とこつこつ集めていたというお酒のコレクションの存在を知り、さらに自分を責めます。1年間、散々悩んだ末に、平松は「いったん料理人をやめる」と宣言。つらさをぶつけるかのように、猛然と経営の勉強を始めました。

上場を含め、社員が安心して働ける会社をつくろうとしたのは、このときからです。それから、レストランの出店を続け、何人もの料理人たちが自分の店を持つことができるようになりました。平松は経営者として、それをバックアップすることに全力を尽くします。すべては、大切な社員の願いを叶えてあげられなかった無念を晴らす気持ちからでした。

そしていまも毎年必ず、平松をはじめ、当時を知る社員や役員らで彼の命日に手を合わせに行きます。地元・名古屋に出店した際には、レストランに彼の写真を掲げました。そういう姿をずっと見てきて、私は「人を大切にするとは、こういうことか」と知ったのです。

レストランを増やしてきたのは、野心ではなく、能力のある社員に店を持たせるため。
上場したのは、社員が安心し、誇りを持って働ける環境をつくるため。

平松は創業以来、一貫して社員を大切にし、それを経営で実践する姿を私たちに見せてくれました。当社の原動力は、ここにあります。

人生を変えた、創業者の一言

「人を大切にする」という以上、社員が一人前になるまで教え導くのが、上に立つものの務めです。先ほど申し上げた通り、高級レストランの経営は、人の成長なくしてはできませんから。

平松の教育者としての態度は、驚くほど真摯です。社員1人1人と真剣に向き合い、能力を開花させようとする姿は、まるで実の父親のよう。指導は厳しいですが、根本には愛情があり、最後まで決して見放しません。

私自身、その教えに導かれた1人です。

今から約30年前。私は辻調理師専門学校のフランス研修を終え、就職先を探していました。料理好きの母に育てられ、テレビ番組『料理天国』に出てくるフランス料理に憧れた子供時代。それ以来、私は「フランス料理のシェフになる」という夢に向かって、ひたむきに進みました。

ひらまつ亭のドアを叩いたのは、フランス料理への憧れからです。私もいつかは独立して、夫婦でああいうレストランを開きたい。そう思って面接を受け、見習いとして店に入ることが許されました。

当時、平松は30代。店で看板シェフとして腕を振るいながら、料理人やサービス人を育てようと情熱を燃やしていました。身体中からオーラが出ていて、近寄るのが怖いくらい。ひらまつ亭への入社は、そんな平松の元で夢をかなえる絶好のチャンスでした。

しかし、私は入社2年目で、壁にぶつかります。

一流の料理人の世界は、想像していた以上に厳しかった。調理場に入った私は、ミスを重ねてしまいます。周りのスタッフの仕事に気を取られて、手元の集中力が散漫になっていたようです。そのうち、「お客様のため」ではなく、「失敗したくない」という気持ちが先に立つようになりました。

大好きだった料理をするのが、怖い。「そもそも、自分は料理人に向いてないんじゃないか」という考えが頭をよぎる……。自信を失い、悩む毎日でした。

ある日、とうとう大きなミスをしてしまいます。それを見た平松は私を呼び出し、言いました。「周りを気にしすぎて、自分の料理ができていないんじゃないか」。さらに、こう続けます。「お前が一流のシェフになり、自分で店を持つのは難しいと思う。でも、一流のサービス人になら、なれるかもしれない」。

子供のころからの夢を否定され、ショックを受けました。しかし、その言葉を聞いて、どこかで正直少しホッとしていたような気もします。

料理人はアーティストのような存在で、鋭い感性と集中力が求められます。一方、私は他人のことがつい気になるタイプ。料理は好きでしたが、好きすぎて判断が甘くなるところもありました。うすうす気がついていた「限界」を、尊敬する上司から率直に指摘され、心が軽くなったのです。

平松の一言で、私はサービスに転向しました。サービス人になってみると、弱点だと思っていた周囲への気配りや視野の広さが、活きるようになりました。料理人が1皿にかける熱意をよく知っているから、それをお客様に伝えようと努力もできる。やればやるほど、自分にとってサービス人は天職だと思うようになりました。

平松は、見習いの私を真剣に見ていてくれました。だから、正しい導きができたのです。あれから35年、代表権を譲った平松は「ひらまつ研究所」を立ち上げ、いまは料理人・サービス人の教育などに専念しています。創業者として、最後まで重視したこと。それが、人を教育し、正しく導くことでした。

社員が素質を花開かせ、幸せに働くことができるかどうかは、上に立つ人間にかかっている。自分が経営者になってからも、このことは肝に銘じています。

まかないを見れば「関係」がわかる

私は2016年に、平松から社長を受け継ぎました。当社はいまや、フランス料理・イタリア料理を中心に30数店舗、ホテルを5店舗経営し、700名余りの従業員を抱える上場企業です。渡されたバトンは、とても重い。

グループのレストランの1つ、「ラ・フェットひらまつ」

しかし、どんなに会社が大きくなり、事業の幅が広がっても、迷うことはありません。創業から変わらない理念こそが当社の軸であり、何かあれば、そこに立ち返ればいいのです。

――「レストランは、家族」。

最初の店をオープンしたときから、お店をオープンする度に言い続けている言葉です。すばらしい料理に加えて、温かいサービスや、設え(しつらえ)。それらが渾然一体となってつくりあげる空気が、レストランの価値を決める。その空気をつくるのは、現場で働く人にほかならない。

だから、料理長が亭主、サービス人が女房役、その下のスタッフが子供達という「家族のような関係」を作る。そうすれば、レストランは成功するという考え方です。

一見、当たり前のように聞こえるかもしれませんが、これができてないレストランは意外に多い。まかない1つとっても、それは明らかです。忙しさのあまり、手が空いた時にパッと食べて仕事に戻ることが習慣化している店。「シェフが偉くて、サービス人はその下」という序列があり、スタッフがバラバラに食べている店……。こんな話をよく聞きますが、これでは「家族のような関係」は築けません。

当社ではどんなに忙しくても、スタッフ全員が1つのテーブルを囲むようにしています。その場でシェフが料理への想いを語り、サービス人がお客様の感想を伝える。コミュニケーションを取り、レストランに対するみんなの気持ちを1つにする、大切な時間です。

まかないは、社員教育の場でもあります。もともとフランス料理・イタリア料理は、ゆったりと時間をかけて、大切な人との会話を楽しみながらいただくもの。そんな豊かな食文化を、レストランを通して日本に広めたいと考えました。そのためにはまず、スタッフ自身がその大切さをわかっていなければいけません。

最近は、当社に入ってくる若い子に聞いても、人と向き合って食事をする機会が少ないと言います。買ってきたお惣菜を1人で食べるとか、友達とカラオケで遊びながら食べるとか……。便利でモノがあふれる社会ですが、食事の様子は、豊かさとは程遠いようです。ですからなおさら、会社の中で、豊かな食文化の喜びを経験してもらう必要があります。

私が社長に就任して、今年で3年目となりました。時代に合わせたレストランのリニューアルや、新事業の立ち上げなど、やることは山ほどあり追われる日々が続きます。

そんな中で、「ちょっと最近、社員と接する時間が足りないんじゃないか。お前はサービス人から社長になったんだから、もっとお前らしく社員と向き合えばいい」と平松に言われてはっとしました。

カリスマ性も、ゼロから事業を立ち上げたバイタリティも、試練を乗り越えてきた胆力も――。私はどれをとっても、創業者にかなうことはないでしょう。

それでも私には、成し遂げるべきことがあります。当社の創業からの哲学を受け継ぎ、今の時代に合った形で私は私らしく会社を更に成長させる。どんな苦労をしても、それをやり抜かなければいけません。

なぜなら、私もこの株式会社ひらまつで育った「子供」の1人だから。
この会社に勤め、こうして自分自身の人生を見出した人間として、この会社で、社員1人1人が自分を活かし成長していける新たな組織を創り上げることこそが自分の使命。そんな強い想いが、今の私を突き動かしています。

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