レストランのプロ集団だからできる、「新しいホテル」の形とは?【後編】

  • 上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・ひらまつ 陣内孝也社長 / 陣内 孝也

1軒のレストランから始まり、いまやフランス料理・イタリア料理を中心に国内外で30数店舗を展開する、ひらまつ。料理・サービスがマニュアル化できない「高級レストラン」で多店舗展開を成功させ、上場している珍しい会社だ。いま同社は、ホテル事業に力を入れている。レストランで成功したノウハウを、どうホテルに活かすのか。陣内孝也社長に聞いた。
レストラン企業が成功したのは、「本気で人を大切にした」から【前編】を読む

料理をメインに据えたホテル

いま、当社が新規事業として力を入れているのが、ホテルです。2016年、私が社長に就任した年に三重の賢島、熱海、箱根の仙石原に3店舗をオープン。2018年に入って沖縄・宜野座に1店舗をオープンし、いまも京都や軽井沢などで、次々と開業準備をしています。

コンセプトは、「滞在するレストラン」です。賢島なら伊勢海老やアワビ、熱海なら相模灘の魚介類といった、地元の新鮮な食材をたっぷりと使い、当社のレストランで長年修行したシェフが腕を振るう。ここでは、おいしいワインと料理でお腹がいっぱいになった後も、その余韻と共に温泉やジャグジーバスの付いた客室でそのままくつろいでいただくことができます。帰りの満員電車で現実に引き戻される……ということもありません(笑)。

参考にしたのは、フランスの「オーベルジュ」という、郊外の宿泊施設を備えたレストランです。フランスでは中世の時代に、大自然の中に出かけて行き、地産地消の料理を楽しんで宿泊もできる施設ができました。日本では、似たスタイルの施設に「旅館」がありますね。すばらしい日本料理を出す、洗練された旅館はたくさんあります。しかし、本格的なフランス料理やイタリア料理を楽しめる宿泊施設は、まだまだ日本には少ない。

そこで、オーベルジュと日本のおもてなしを組み合わせた「西洋旅館」ともいうべきホテルを、われわれが作ることにしたのです。レストランを経営し、たくさんの人を育ててきた当社だからこそ、できること。お客様からもご好評いただいており、オープン2年目にして、ホテルの稼働率やご利用単価が社内の目標を上回るなど順調に推移しています。

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料理はもちろんのこと、レストランで経験を積んだサービス人の行き届いたおもてなしも、当ホテルの特徴です。実は、ホテルを開業するにあたって、いわゆる「業界で経験を積んだプロ」は参加していません。もともとレストランで働いていたスタッフが異動し、ホテルのサービスをイチから勉強しています。

なぜ、自分たちの手でホテルを作ることにこだわるのか。ホテル業界から人を呼ぶ方が、よっぽど近道だと思われるかもしれません。その説明をするには、レストランから事業を拡大してきた当社の歴史を、少し振り返る必要があります。

自分たちの手で始める理由

1982年、平松博利が東京・西麻布にフランス料理レストラン「ひらまつ亭」をオープン。当社はこれを機に、フランス文化に触れる場としてレストランを展開してきました。さらに、日本で初めてインターネットカフェを立ち上げたり、レストラン・ウエディングの事業化や、フランスのカフェ文化を日本に根付せるなど、事業を通して新しい文化の発信を続けてきた会社でもあります。

これらを表面だけで捉えると、事業をどんどん多角化する野心的な会社に見えるかもしれません。しかし、これまでの事業はすべて、「レストランを通して、フランス料理をはじめとした、ヨーロッパの豊かな食文化を伝える」という理念に貫かれています。

前編でもお話ししましたが、大切な人と向き合って、会話しながら食事をする時間の「かけがえのなさ」を広めるのが、当社の理念です。家族や大切な人とお互いの存在を認め合い、ゆったり食事をする習慣があれば、心が荒む(すさむ)こともなくなるのではないでしょうか。

そうした理念を実現するために、当社は事業の幅を広げ、様々な人に楽しんでいただける場の創出に努めました。例えば、1991年に事業化したレストラン・ウエディング。きっかけは、レストランの常連だった1組のカップルが「デートや記念日で訪れた、思い入れのあるこの場所で結婚式をしたい」とおっしゃったこと。当時はまだ、レストランで結婚を祝う習慣は日本にありませんでしたが、当社はお二人のリクエストに応えることにしました。

当時は珍しかった、レストラン・ウエディング

結婚パーティーの日、貸し切りにしたレストランで、当時料理長だった平松がメニュー紹介をしました。その時、平松は列席者を見回して思ったのです。「日ごろのお客様とはまったく違う方々だ」と。

おじいちゃん、おばあちゃん、大切な家族やご友人。フランス料理を初めて食べて、「マナーが大変だと思ったけど、そんなに気にしなくていいんだ」「バターやクリームが重い料理だと思っていたけど、おいしいじゃないか」と言ってくださる。またそれをいろんな人に話してくださる。これは食文化の普及を目指す当社にとって、非常に意義あることだと気付いたわけです。

その後、レストラン・ウエディングの事業化を開始しました。これをみて、「レストランだけで飽きたらず、もうけに走った」と揶揄する人もいたようです。しかし、それは本質ではありません。あくまでも、豊かな食文化の普及のために始めたことですから。

当社でのウエディングは基本的に、社員自らが運営します。料理はもちろん、サービスや、準備段階のコンサルティングも、社員が自分たちの手で創り上げることに意味がある。「豊かな食文化の普及」という理念につながることですから、人任せにしてはいけない。この姿勢は、カフェやホテルなど、他の事業もすべて同じです。

新しいホテルをオープンする際も、開業スタッフがみんなで空間を作ります。家具を運び入れ、磨き、椅子に座ってみる。

料理人もサービス人も、お客様と同じ目線で料理を食し、サービスを受けてみる。そうなって初めて気付くことがたくさんある。

こうして「自分たちの手で作る」ことは、当社においてはすべての基本です。いきなり外からノウハウを入れても、「レストランが作るホテル」はできません。何度も言いますが、自分たちでやるからこそ、意味があるのです。

ホテルは、当社がレストランを経営しながら、長年温めていた夢でもありました。宿泊することで、より長い時間、料理とサービスを楽しんでいただく。これはまさに、われわれが提供できる「豊かな食文化」の最高の形です。これからホテル事業を通して、創業からの夢を完成に近づけたい。そのためにも、社員みんなが1つ1つの仕事を、そして自分自身を磨いていかなければいけません。

サービス人出身の経営者として

創業者の平松は、一流の料理人であり、なおかつ組織をまとめ上げるリーダーとしてのカリスマ性もあった。私はサービス人出身で、平松とはタイプがまったく違います。まさか2代目として経営を受け継ぐとは、思ってもみませんでした。

2016年、平松は自分が元気なうちに後継者を育てるため、代表権を譲ると宣言しました。平松は常に、「現場の意思」を重視します。新しいレストランを出店するときも、スタッフに裁量をもたせ、自分たちがどうしたいかを考えさせる。後継者選びも同じで、当時の取締役4人に、「次の社長は誰がいいか、よく話し合って決めなさい」と言いました。

平松がどんな腹づもりをしていたのかは、わかりません。相談の結果、私が社長に就任することを決め、それを報告したところ、反応は「あ、そう」とただ一言(笑)。平松自身、私にやらせるつもりだったのでしょう。そして、「経営者は、つらいことが多い。僕は、命を削るような思いも経験した。それでもいいか」と覚悟を聞かれました。

その場では「はい」と答えましたが、実際に就任してみると、やっぱり悩むことだらけです。比べても仕方ないのですが、どうしても「平松のようにはなれない」と痛感させられることもある。そんなとき、平松からこんな言葉をかけられました。

「僕はここまで、人に頭を下げずにやってきた。それは自分の性格だ。でもお前は、サービス人として人に頭を下げてきて、それがうまくいった人間。だから、そういう社長になればいいじゃないか」。

この言葉を聞いて、ああそうかと、肩の荷が下りました。人と比較せず、自分らしい社長を目指せばいい。じゃあ、「サービス人らしい経営者」とは、どういうものだろうか。

私の解釈では、「相手を理解し、信じること」がサービスの本質です。

現場でサービスを仕切っていた時代、いろいろなお客様と出会いました。中には、無理難題なリクエストをなさる方もいる。そんなとき、サービスのトップである私が「嫌だな」と思った瞬間に、部下たちにそれが伝わります。結果、そのお客様はスタッフみんなから疎まれて、満足できずにお帰りになってしまいます。

そうではなく、サービス人たるもの、目の前のお客様のいいところを進んで見つけなくてはいけません。どんな方だって、努力を重ねその方なりの経験を積み、今日があるはずです。そのことに敬意を払い、信頼できる部分を引き出すのです。

嘘や妥協は、必ず伝わります。相手を心から好きにならないと、その人は絶対に心を開いてくれない――。これは私がレストランのサービス人として経験を積む中で、学んだことです。

そしてもう1つ、サービス人に絶対必要なのは、「優しさ」です。例えば、赤になりそうな信号を渡っているお年寄りを見たときに、「危ない」と察知できること。こういう感性がまず必要で、さらに、とっさに手を引く行動に移す。これができる人は、サービス人として大きく花開く可能性があります。

サービスとは、人を信じる仕事。
そして、人に対する優しさを表現する仕事。

その道を追求してきたからこそ、なれる経営者の形がある。そう信じて、自分なりの武器を活かした経営をしていきたいですね。

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