若い人は「生き様」を優先しなさい。ファッションはその次でいい【後編】

  • お金を語るのはカッコいい・生き様とお金 / 三浦 義哲

紺色のロゴが印象的なセレクトショップ、「シップス(SHIPS)」。三浦義哲社長は独学で経営を勉強し、小さな店からシップスを成長させた。そんな三浦社長がいま、気になるのは「若者の生き様」だという。ファッションとお金、そして生き様について、熱く語ってくれた。
「シップスらしさ」は言葉にした瞬間にうそになる。【前編】を読む

問題は「お金のあるなし」じゃない

――前回は、三浦社長がSHIPS(シップス)を成長させるまでの歴史を伺いました。今回は、現代のファッションビジネスを取り巻く環境について聞かせてください。最近は若い人が洋服にお金をかけず、ファストファッションが人気です。その中でトラッドを掲げるシップスは、どうやって洋服を売っていくのでしょうか。

ちょっと待っていただけますか。その質問ですけどね、私はいまの若い人の問題は、「洋服にお金をかけるか、かけないか」じゃないと思っているんです。お金のあるなしと、どんな洋服を選ぶかは、関係ない。お金と洋服って、本来はあまり結びつかない世界だと思います。

それより大切なのは、その人がどんな価値観を持っているか。つきつめていうと、どんな生き様をしているか。私はその点で、若い人が心配でならない。

欧米と日本の若者の着るものを、比べてみましょう。私は洋服の仕入れで、30代のころからしょっちゅう欧米に出かけています。その感覚から言うと、アメリカもヨーロッパも、10代、20代の若い人はごく当たり前の、質素な格好をしていますよ。

若いころは将来のために勉強したり、必要な技術を身につけたりする時期ですから、やることがたくさんある。もうちょっと地位を得て、時間もお金も余裕ができてから、ファッションにこだわり始める人が多い気がします。

それに比べて、日本の若い人のファッションには、ちょっと違和感を覚えます。ポリシーがないまま、メディアが右といえば右、左といえば左。周りと同じ流行を追いかけて、疑問も持たずに奇抜な格好をしています。それだけいまの日本は、モノもお金も余っているのでしょう。しかし、この状況が本当に豊かなのか、ちょっと考えものだと思います。

早いうちから「仕事」の力を養うべき

いまは小、中、高と自動的に上がっていって、多くの人が目的もなく大学に入り、就職活動をする。その時分になってようやく、仕事について考えるわけですね。しかし、それは単なる「企業選び」であって、本当に自分の天職が何か。どういう生き方を目指すかを、つきつめるわけじゃない。

これでは、自分の頭で、人生について考える機会があまりに乏しい。もっと早い段階で、「自分はどんな人間か」「世の中でどんな能力を発揮して生きるのか」と、自問自答する機会を、親や学校が持たせてあげるべきです。人生の軸を見つければ、そこまで刹那的な行動を取らないと思います。

いまやアメリカも教育制度が変わって、ハイスクールを出たら働く子が多い。日本も、20歳過ぎまで殻に閉じ込めて、そこからいきなり社会に出すような制度は変えた方がいい。

実際、当社は高卒の社員を採用していますが、十分、社会人として通用します。これは別に特殊な例じゃない。中学校を出たら、洋服を作れるかもしれない。ラーメンを作ったり、大工として家を建てたりできるかもしれない。そういうことに気づかせてあげる職業コースが、もっと高校にあっていいと思いますよ。

私は普段から、若い社員に「自分の頭でものを考えなさい」と繰り返し言っています。まずは自分自身が、ブレない生き様を持つこと。それが洋服のスタイルを作っていくということを、仕事を通して教えているつもりです。

――三浦社長ご自身は、教師を辞めて(前編参照)、独学で勉強しながら、経営者としての生き様を作って来られました。一方で、カメラや船など、非常に多趣味でいらっしゃるそうですね。

私は30歳で母親の店を継いで、40歳過ぎるくらいまで、やりたいことなんて全然できなかった。お金がなかったし、店が忙しくて、いつもそのことで頭がいっぱいでしたから。写真を撮ったり、車で遊びに行ったりするのは好きでしたが、本格的に打ち込むのは無理でした。

40過ぎから少し余裕ができて、やっといろんな趣味に時間とお金を割けるようになった。そしてとうとう2年前、75歳のときに船舶免許を取りました。

一発合格、すごいでしょう。試験前は、船舶免許を持っている男性社員に社長室へ来てもらって、ロープの結び方とかを指導してもらって……(笑)。

これからは、船でどこかに行きたくなったら自分の力で行けます。若い人に頼らなくても、自分で運転すればいい。世界一周なんて、言いだすかもしれないよ(笑)。

あのね、そういう夢って、持っていていいと思うんですよ。豊かさって何かというと、少しずつ、自分でできることが増えていくことじゃないかな。自分の生き様を、伸ばしていくというか……。自分で稼いだお金でそういうことができるなら、最高じゃないですか。

生き様やスタイルは、簡単に手に入るものじゃないと思います。男女問わず、お会いして「かっこいいな」と思う服装をしているのは大体、きちんとしたキャリアを築いている人。その人がどんな仕事をして生きてきたのかが、洋服に出る。そこに至るまでに様々な努力、苦労を重ねてきたというのが、ファッションににじみ出るんですね。

逆にいうと、一生懸命に自分の生き様を探していれば、いつかお金も、ファッションもついてくる。だからあまり若いうちから、外側ばかり気にしすぎない方がいい。いずれ、内面が充実した時にこそ、本当のおしゃれができる。シップスは、そんな人に選ばれるブランドでありたいですね。