第5回 囲碁AIも困惑? 永遠に終わらないコウの話

  • 3分でわかる・読むだけでおもしろさがわかる 大人のための囲碁入門 / 大橋 拓文Noritake

前回の最後に、囲碁の根っこはとても普遍的なので、宇宙にも囲碁はあるかも! という夢をお話ししました。宇宙人ではありませんが、2016年3月には、囲碁AI(人工知能)「アルファ碁」が世界チャンピオンの李世ドル九段と対戦し勝利。全世界に衝撃が走りました。

囲碁の変化数は、宇宙に存在する原子の数よりも多いと言われています。これまでは、コンピュータが囲碁のプロに勝つには「少なくともあと10年はかかる」「いや、永遠にそんな日は来ないのでは?」と言われるほどでしたが、ディープラーニングが囲碁に効果的で、AIが爆発的に強くなりました。

そしてアルファ碁のあと、AIがどのように発展したか、皆さんご存知でしょうか? アルファ碁を開発したグーグル系列のディープマインド社は、AIをエネルギー問題や医療の分野で活用しています。グーグルのデータセンターの管理をAIに任せたり、日本の医療機関と協力して、乳癌の検診にAIを活用したり。AIの進歩はまだしばらく続きそうですね。

実は私、そんなディープマインド社の代表、デミス・ハサビス氏に会って、話をする機会がありました。碁の話になった途端、とても楽しそうで、私としても嬉しかったことをよく覚えています。

前置きが長くなりましたが、今回は囲碁を面白く(複雑に、とも言いますが)している「コウ」についてお話することにしましょう。コウは囲碁AIも苦手なので、ちょっとむずかしいかもしれませんが、気楽に読んでみてください。
第4回「囲碁のルール『着手禁止点』と『コミ』」を読む

着手禁止点のおさらいと「コウ」

前回は「着手禁止点」と「コミ」についてお話ししました。今回ご紹介する「コウ」をおさえてしまえば、ルールは一通りコンプリートですので、もう一息です!

図1

白にとってAは着手禁止点ということはもう大丈夫ですね。では、次の図2を見てください。

図2

白はAに打つことはできますか?

図3

前回述べたように、白1に置けば黒△の活路をすべて塞いで取ることができるため、「相手の石を取れる場合は囲まれている地点にも打って良い」わけですが、

図4

黒△を取った後、この形になり、今度は黒の番です。

図5

もし黒がAと打って白△を取ったとすると、図2とまったく同じ形に戻ってしまいます。そうすると、永遠にこの形を繰り返して終わらなくなってしまいます。

この永遠に終わらない形を「コウ」と呼び、漢字で「劫」と書きます。これはもともと仏教用語でとても長い時間の単位だそうです。一説によれば1劫は43億2千万年とか。未来永劫、永遠に終わらないという意味が込められています。
しかし、ゲームとしては終わらないのは困りますね。何年も同じ形を繰り返して決着がつかないなんて、人間にはやってられません!

そこで、「コウ」には特別ルールがあります。それは「同型反復の禁止」。つまり、「一度出現した局面にもう一度戻ることを禁ずる」ということです。言葉だけですと、はてなマークが浮かんでしまいますので早速、実際の対局に沿って見てみましょう。

図6

丸印で囲ったところが、「コウ」の形です。白4は活路が1つしかないため、次に黒に白4の右に打たれると取られてしまいます。つまり、

図7

黒1です。白△(図6の白4)の活路がすべて塞がれて、取られてしまいました。

図8

図7の白△が取り上げられた形です。ここでもし、白がAに打てると、黒□を囲んで取ることになりますが、すると、図6の形に戻ってしまうのがおわかりでしょう。

ここで同型反復禁止の出番です。囲碁は過去に出現した局面に戻ることが禁止されています。図8で白がAに打ってしまうと、図6とまったく同じ局面に戻ってしまうため、白にとって、現在はAの場所には打てません。
なのでいったん、別の場所に打つことになります。

図9

白1に対して、黒は2と打った局面です。ここではじめて白は、

図10

白1と打つことができます。なぜなら、黒△を取った形が、図6には戻らないからです。そう、白1、黒2が追加されたことで、初めて見る局面になるのですね。

つまり、コウの形は、取られた後にすぐ同じ場所を取り返すことができず、別の場所に打ち、相手も別の場所に打ってくれた時に改めてコウの場所に打つことができます。したがって、

図11

今度は黒の番ですが、白同様、すぐに黒はAの場所に打つことができません。打ったら図9に戻ってしまいますね。ですので、

図12

黒は同じ形を繰り返さないように、黒1と別の場所に打ちました。もし、白が2に打ってくれたら、黒は3とコウを取り返すことができます。

囲碁には、例外的に同じ形を長い周期で繰り返してしまう「三コウ(コウの形が3つ絡み合ってる形)」や「四コウ」「長生(コウではないのに、同じ形が繰り返されてしまう形)」といった珍しい形があり、その形ができた場合は特別に「無勝負」と定められています。1万局に1局くらいしか登場しないので、プロ棋士でも無勝負を経験した人はとても少ないです。

もし、このような珍形が気になる方は、囲碁の総本山「日本棋院」があるJR市ケ谷駅の、改札近くの床を見に来てください。珍形の中でも特に珍しく、縁起が良い「長生」が描かれています。