野球ファンを増やす手立てはまだある。低迷期にも、野球の可能性を信じていた【中編】

  • お金を語るのはカッコいい・古田敦也さんに聞くお金と野球と仕事の話 / 古田 敦也

近年、観客動員数を伸ばしている野球観戦。各球団が球団に足を運んでもらおうと、さまざまな企画を打ち出していることが功を奏しています。しかし、古田敦也さんがヤクルトスワローズのキャッチャーとして活躍していた1990年代から2000年代にかけては、どの球団も地元ファンを増やす努力を積極的におこなっていませんでした。15年以上前から、地元密着の球団を理想とし、選手兼監督時代には経営陣に提案を続けてきた古田さん。古田さんの目に現在の野球ビジネスは、どんなふうに見えているのでしょうか。
初任給18万円でやりくりしていたときの感覚がいまでもある【前編】を読む

「野球は落ち目」。そう言われるのが悔しかった

−−現在は地上波でのプロ野球中継も少なくなり、一見、野球の人気が低迷しているように思えます。しかし、観客動員数は増えていると聞きました。

そうなんですよ。2017年のシーズン総観客動員数は、プロ野球史上最多となりました。2005年に比べたら、26%も動員が伸びているんです。

−−その背景には、球場観戦をする地元ファンを増やそうという球団の努力があったと思われます。そして、古田さんはヤクルトスワローズの選手兼監督をされていた2006年、地元密着型の球団にしたいとチーム名に「東京」とつけられましたよね。あれはすごく先見の明があった変更だと思います。

当時は、地域名をつけることにはむしろネガティブな空気でした。全国に顧客がいる企業がオーナーなのに、地域名を入れたら、他の地域でその企業の商品が売れなくなるんじゃないかという雰囲気。それに、球団経営は放映権ビジネスだと考えられていたので、観客動員を増やすよりも、いかにテレビ中継の放映権で利益を得るかということに、重きが置かれていたんです。

でも、そんなやり方が頭打ちになるのは目に見えていました。それよりも、球団が魅力的な存在になり、観戦のおもしろさを球団側から発信することで、ファンを増やす。このほうが持続的に成長できます。球場に足を運んでもらうには、地域性を出し、地元の人達に愛されるということが非常に大事なんです。

−−2006年頃は、そういう動きがなかったのでしょうか。

まったくと言っていいほどなかったですね。ファンと繋がるには、当時は発信ツールが少なかったということもありますが、球団側のアプローチは全然足りなかった。だから、僕は経営側にあれこれ提案しました。今となってはわかってもらえてるんじゃないかな、と思いますけどね。

−−監督が提案しても通らないことなんて、あるんですか?

実際に決定権を持っているのは、球団社長ですからね。まずは社長に許可をもらわないと物事は動かない。だから、何度も粘り強く提案しました。その結果、実現したこともいくつかありますよ。でも僕は、その時も、野球が盛り返すチャンスはあると思っていたんです。だって、お客さんを集めるための方策はたくさんあるはずだから。

−−その当時は、本当にお忙しかったと思うのですが、何がモチベーションとなってそんなにがんばれたのでしょうか?

単純に、「プロ野球の人気がなくなってきた」と言われるのが悔しかったからです。当時は、野球なんて斜陽産業だ、とはっきり言う人がたくさんいました。新しくスポンサーになってくれそうな企業の経営者が、「こんな右肩下がりの業界に、誰が投資するんだ」と言っているのを見て、悲しかったですね。

地元密着で売上を上げる、進化した球団の姿とは

−−今はソフトバンク、DeNA、楽天と、球団オーナーの企業の顔ぶれも大きく変わりましたよね。

これも自然な変化だと思うんです。昔は鉄道会社がいちばん勢いがあった会社だったので、鉄道会社が球団を保有していた。鉄道会社のほうも、数十年前はどんどん路線を拡大して、路線のまわりの不動産を売るために知名度が欲しかった。でも、もう知名度を上げる必要がなくなったのであれば、球団という資産は手放してもいい。

そして現在、さらなる知名度やブランド力を必要としているIT企業が買っている、と。これはプロスポーツの球団としては、当たり前の姿だと思います。

−−今、横浜DeNAベイスターズの人気もすごいです。

そう。人気がありすぎて、観戦チケットが買えないような状況なんですよ。連日3万人近くのお客さんを集めているって、すごいことですよ。これはやはり、新興企業が新しいアイデアを取り入れて、自分たちの得意分野とスポーツビジネスを組み合わせたからこそ、成功したんだと思います。

−−ちなみに、球団社長というのは、球団オーナーとは別なんですか。

そうですね。球団社長は、文字通りその球団の社長です。球団も、50〜100人くらいの社員を抱える会社なんです。社長は球団の人気をどうやってアップさせていくか、どうやって支出をおさえるか、といったことを考えて経営をしています。一番の支出は選手の人件費です。球団によって幅はありますが、だいたい25億から60億くらいだと思います。当然、年俸の高いスター選手ばかりを獲得しようとすると、人件費が膨らんでしまうわけですね。

だから、まだ年俸の高くない、若手を育てることで人件費をおさえれば、その分、利益が上がるわけです。広島カープは、人件費がたしか25億くらいで、昨年188億くらい売り上げてますから、相当利益が出てるはずですよ。

−−すごいですね。しかもリーグ3連覇という結果も残しています。

特定の親会社を持たない市民球団から始まった、というのも地元のファンを惹きつける要因なのかもしれませんね。少し前から「カープ女子」なんて言葉もありますが、地元の熱狂的なファンを集めることに成功した先駆けだと思います。

やはりスポーツビジネスにおいて、地域性というのは不可欠なんですよ。しかも、それは親会社の本業には、特に影響ありません。楽天は日本全国、ひいてはグローバルで展開していますが、仙台に球団があるからといって、他地域の人が楽天を使わない、なんてことはないでしょう。むしろ、仙台を盛り上げている企業ということで、他地域の人からも好感度が上がっているはずです。

球団は、もっと増やせる

世界的に見ても、プロスポーツクラブは中核都市にあって、その町を盛り上げる役割があるんです。そして、それが本来の姿だと思います。地域に愛されることで、企業のイメージもよくなるんです。

−−サッカーのJリーグは、J1、J2、J3全体で60近いチームがあります。対して野球は、セ・リーグとパ・リーグを合わせて12球団。素人ながら、これはもっと増やせるのではないか、と思ったりもするのですが。

増やせます。球団を増やすのは、日本語では球団拡張、海外では「エキスパンション」と呼ぶんですけど、僕は完全にエキスパンション派です。絶対増やしたほうがいい。

−−では、なぜ増えないのでしょうか。

でも、エキスパンションは否定派の方が多いんですよ。旧来の球団関係者は、野球ファンのパイを一定だと考えているのでしょう。だから、球団を16球団、18球団と増やすと、一球団の取り分が減っていく。だから、むしろ少ないほうがいいという感覚があるんですよね。

−−だから、2004年のプロ野球再編問題が起こったんですね。あのときも、球団経営側は球団数を減らす構想を掲げていて、古田さんを会長とする選手会はそれに反対されていました。

そう、球団を減らしたほうが健全経営できるとおっしゃる人が多かったんです。でも、野球はエンターテインメントなんです。この業界は盛り上がっていて、どんどんおもしろくなっていきますよ、ということをお客さんに発信し続けなければいけない。それなのに、コンテンツを減らすようなことをするなんて、愚の骨頂だと思いました。

−−たしかに、球団もコンテンツだということを考えると、供給量が多いほうが盛り上がりそうです。

そうなんです。コンテンツが減ったら、パイは縮小する。じゃあパイが縮小したら、もっと球団を減らすのか? それは負のスパイラルですよね。だったらその逆に、ファン自体を増やすことを考えないと。

現在、地域でいうと北陸にも四国にも球団はありません。そう考えたら、増やすチャンスはまだまだあります。自治体だけで運営するのは難しいかもしれないので、スポンサーを探す必要はありますが。でもカープがあれだけがんばって、単体で黒字を出しているんだから、可能性はありますよ。

−−ここまで考えられている古田さんが球団社長をされたら、どんな球団になるのでしょう。見てみたい気もします。

いやあ、さすがに球団社長のオファーはこないでしょう(笑)。でも、やってくれっていわれたら、喜んでやりますよ。

古田敦也さんのサイン色紙を抽選で3名様にプレゼントいたします。
ご希望の方は、FROGGYのTwitterアカウント(@froggysmbcnikko)をフォローのうえこちらの投稿をリツイートして応募してください!
応募期間は11月15日~12月5日です!

※応募にあたってはFROGGY SNS利用規約をご確認の上、ご応募ください。

こちらのプレゼントは終了いたしました