先が見えない時代だからこそ、「あまのじゃく」がトップになれる【後編】

  • 上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・鎌倉新書 清水祐孝会長 / 清水 祐孝

人生の締めくくりに向けた「終活」を、インターネットを使ってサポートする。そんなビジネスで業績を伸ばしているのが、鎌倉新書だ。清水祐孝会長は20代で家業を継ぎ、赤字の零細出版社を東証一部に上場するまで成長させた。きっかけは、事業を「情報加工業」と定義し直したこと。その思考プロセスからは、他の業種であっても多くのヒントが得られるだろう。
赤字の仏教書出版社を上場まで導いた、「定義づけ」の力【前編】を読む

紙をとるか、ウェブをとるか

「社長! 社内が大変です。どうにかしてください」
出張先の私に、1本の電話が入りました。慌てて話を聞くと、出版部門とインターネット部門の社員が、取っ組み合いのケンカをしているというのです。

前回お話ししたように、私は2000年に情報サイト「いい葬儀」を立ち上げ、親から継いだ仏教書の出版社をネットビジネスに変えようとしていたところでした。「いいお墓」「いい仏壇」とサイトを次々に開設し、情報を増やすものの、なかなかマネタイズできない。

インターネットで芽が出るまでに7〜8年、売上がゼロという時代が続きました。その間はインターネットにかかる費用を、出版の売上でまかなうことになります。私は、「いずれインターネットの時代がくる」と信じていたのでなんとかガマンできましたが、現場はそういうわけにはいきませんでした。

紙の編集者は締め切りに追われて、毎日終電までがんばっている。一方で、インターネットの担当者はパソコンの前に日がな一日座っていて、定時でさっさと帰っていく。そのうち、編集者がインターネットの担当者に「倉庫に在庫を取りに行け」などと、用事を言いつけ始めたそうです。「どうせ暇なんだろう」「稼いでいるのは自分たちだ」という編集者の気持ちが、背景にありました。そういうことが続いて、とうとう大げんかになってしまった……。

私は会社に戻って、社員のみんなにこう話しました。「これからの時代、伸びるのはインターネットだ。こっちでいくしか、会社の将来はない」。紙の編集者は、さぞかしがっかりしたでしょう。理不尽に思い、心の中で私を責めたかもしれません。1人、また1人と辞めていき、とうとう全員が入れ替わりました。

さすがに、私もつらかった。自分はインターネットの将来性を信じているけれど、その思いを社員とは共有できず、長い間がんばってくれた人たちを辞めさせてしまった。重い気持ちになりましたが、幸い、そのあとに入った編集者はみんな、先輩であるインターネットの担当者たちに反目せずに働いてくれました。そうこうするうちに、突然、チャンスが訪れたのです。

顧客からのニーズに気づいた瞬間

ある日、当社に1本の電話が入りました。その方は、東京・町田の病院でお父様を看取られた直後で、葬儀場を探していました。「いい葬儀」のサイトから当社の連絡先を見て、「ここなら」と思って電話をかけたそうです。「この土地の人間じゃないから、どうしていいかわからない。お宅なら、葬儀社を紹介いただけるんじゃないかと……」。

当時、「いい葬儀」は葬儀マナーなどのノウハウが中心で、葬儀社の情報は載せていませんでした。そこで、条件に合いそうな葬儀場を紹介したところ、とても感謝されました。紹介を受けた葬儀社も大喜びで、一石二鳥とはまさにこのこと。当社が仲介したことで両者に喜んでいただける、win-winの出来事だったのです。

このとき、「なるほど」と思いました。地方に住んでいれば、いざ葬儀といった時に「親戚はここでやった」とか、「町内会長さんに聞けば教えてくれる」とか、なんらかの地縁があるでしょう。しかし都会に出てきて地縁の薄い方だって現代には大勢います。高齢化が進む中で、そうした方がどんどん亡くなっている。「葬儀に困っている」とおっしゃった電話の主のような方を手助けすることが、求められていると思いました。

葬儀社やお墓、仏壇というのは、地域密着が基本で、あまり大きい会社はありません。土地ごとにお弔いの風習が異なるので、全国で一律のサービスにはできないのです。そのため、宣伝はいまでも「地元の駅に看板を出す」「電柱ごとに看板を出す」といったアナログな方法が取られています。

実はそこに、インターネットの可能性がありました。各地に細かい事業者がたくさんある業界だからこそ、葬儀場探しに困っている方と葬儀社をマッチングするのに、インターネットが役に立つ。

供養業界に向けて出版物を売るビジネスモデルから、一般の方々と事業者をつなぐ「マッチング・サービス」にシフトする。そこには、大きな需要があるはずだ。そう確信しましたが、事業者の方々は口をそろえて「いやー、うちのお客さんはインターネットなんて見ないよ」と言いました。

そこで、親しい事業者の方に「無料でいいから、試しに情報を載せてみて」とお願いしていきました。同時に、24時間対応できる電話窓口も設けて、体制を整えました。しばらくはポツポツと連絡が入るくらい。そのうち、徐々にサイトを見に来る方が増えたので、登録を有料に切り替え、紹介料もいただくことにしました。

鎌倉新書が運営する、葬儀総合サイト「いい葬儀」

2010年を過ぎたあたりからでしょうか。わからないことはネットで検索するのが、当たり前になった時代。当社のサイトの認知度が上がってマッチングの成功が増え、毎年30%ずつくらい売上が伸びるようになりました。すると、より多くの事業者が登録を申し出てくださる。ようやくビジネスが、「いい循環」に入ったのです。

当社は、人生の最期を迎える方のお手伝いをし、喜んでいただくことをひたすら目指してきました。その結果、現在は約900社の葬儀社と提携し、仏壇は約5000店舗、墓地・霊園は約8000件を網羅。「シニア×IT」で独自のポジションを築き、2015年に東証マザーズ上場を果たしました。

2017年には東証一部に市場を変更し、いまはポータルサイトを基盤に、新しいサービスを増やしているところです。ご自宅での介護や看取りを手助けするサービス、形式にとらわれず故人をお見送りする「お別れ会」のプロデュース、相続のご相談サービス――。困っている方々のお手伝いをする領域は、まだまだ残されています。

「あまのじゃく」が生きやすい時代になった

小さいころから、気がつくと周りと違うことをしていました。小学校の卒業文集では、担任の先生に「あまのじゃく」と書かれたくらい。それが果たしてポジティブな意味だったのか、いまとなってはわかりませんが……(笑)。まあ確かに、いつも先生が言うことを「ホンマかいな」と眉唾で聞いていたことは事実です。

でも私は、別に人と反対のことをしたかったわけじゃないんです。学校や親から言われることに対して、「なんのためにこれをやるんだろう」と、俯瞰的に考えるクセがあっただけ。周りの人が考えないこと、あるいはちょっと考えてやめてしまうようなことを、私はずーっと考え続ける。だからいまでも、議事録をとるのが苦手なんです。気になったところを考えているうちに、話がどんどん先に進んでいっちゃうので(笑)。

大学受験のときも、全部を網羅して勉強するのはムダだと思い、出題率の高い問題はどれかを研究しました。的を絞って、効率的に勉強しようと考えたのです。常に作戦から入る……というとかっこいいですが、要するに怠け者なんですね。

勉強も仕事も、長時間がんばることができないから、全体を把握して頭を使う。1日10時間コツコツ頑張っても平気な人っているじゃないですか。そういう人に勝つには、価格を下げるか、自分がもっと長時間労働をするしかない。私はそれをやりたくないから、別の戦法を考える。

そういう性格が、実家でいきなりビジネスモデルの変革を迫られたとき、役に立ったと思います。他社との「差異」をつくり出すことこそが、ビジネスの基本ですから。

高度成長期のように護送船団方式を良しとする社会に生まれていたら、私は完全にアウトだったでしょうね。そういう世の中では、粘り強く長時間働くタイプが勝ちます。だから私は、変化の激しい時代に生まれたことを感謝しています。父から与えられたのは借金でしたが、その緊張感も、自分を伸ばすために必要だったと思います。

いつの時代に生まれるかはコントロールできません。そういう人間の力の及ばないことを「運」というのでしょう。私は特定の宗教は信じていませんが、人知を超えた“何か”はあると思っています。そして、私がたまたま運に恵まれたのだとしたら、少しでも他人様や社会に貢献することで、お返ししなければと考えています。

当社が「シニア×IT」というポジションを得たことは、何か目に見えないものから、「もっと社会の役に立てよ」と背中を押されている気がしてなりません。「シニア×IT」を軸に、もっともっと、当社ができることを突き詰めていきたい。

その際、絶対に欠かせないのが、ビジネスの本質を見抜くことです。例えば、お墓は「石材を売る」のが本質ではなく、「手を合わせる場所を提供する」のが本質で、そう考えれば形が変わっても未来にそのビジネスは残っていく。

世の中を見回していて、伸びているベンチャーがあったら、そのビジネスの本質を考えてみるのです。そこには必ず、現代の人々が求めているものがある。そうやっていつも、目の前にある事象を流さずに、「なぜ、なぜ、なぜ」としつこく考えていく。そうすると、背景にある重要なテーマが見えてきます。

本質的な思考を怠らず、たどり着いた結論を信じ抜くこと。それがビジネスモデルを作る上で、もっとも重要だと思います。だからもし、あなたが1つのことを考えすぎて周囲から浮いてしまう「あまのじゃく」だとしたら、それはチャンスです。いまの時代、あなたにしかできない仕事がきっとある。私はまさに、それを体現してきたのですから。