第7回 死んでいる石と、生きている石

  • 3分でわかる・読むだけでおもしろさがわかる 大人のための囲碁入門 / 大橋 拓文Noritake

前回出てきたこの局面(図1)、「白模様の中で黒地を作る」とは、結局どういうことなのでしょうか?

図1

そもそも囲碁というゲームは、

① 陣地が多い方が勝ち
② 相手の石を囲むと取れる

でしたね。陣地を作るには、当り前ですが「取られない状態」でなくてはいけません。

囲碁は相手と自分の戦いですが、一局の中で様々なドラマが盤上に繰り広げられており、私は常々、石たちがまるで生きているように感じています。もしも第1回でこのような話をしたとしたら、おそらく「え、どういうこと?」と思われる方がほとんどでしょう。しかし、ここまで読んでくださった方には、「なんとなくわかる気がする」と思っていただけたらとても嬉しいです。
第6回「アートな脳を刺激する革命的上達法」を読む

取られてしまう運命にある石~死に石~

図2

図2は白石が活路をすべて黒に塞がれて、取られてしまう場面です。第3回で説明したように、石は呼吸ができなくなる(活路がなくなる)と取られてしまいます。人間のようですね。そう、石にも人間のように「生き死に」があるのです。取られてしまうと明確に「死んだ」状態だとわかりますが、中には取り上げられずに盤上にあるのに「死んでいる石」もあります。

図3

中央と下辺の白▲はどちらも「取られて」はいませんが、逃げられないのはおわかりいただけると思います。どちらも周囲を黒石に囲まれて脱出できない形です。これを「死んでいる」状態といいます。つまり、「取られてしまう運命にある石=死に石」となります。

では、いよいよ本題。死に石の反対で、「絶対に取られない石」を「生き石」といいます。
もちろん、最終的に陣地を作るためには、生き石であることが必須条件ですね。絶対に取られない形とはどんな形でしょうか? 読み進める前に想像してみてください。

絶対に取られない石~生き石~

図4

図5

図4と図5の黒石は、まわりを白に囲まれて外に脱出することができません。一見、黒は絶望的な状況に思えますが、実はこの黒石、「絶対に取られない石」なのです。よくよく見るとどちらの図もAとBが白にとって着手禁止点になっていますね。たとえば、

図4-1

白1は黒△に囲まれた場所なので、入ることができません。白の着手禁止点です。

図4-2

こちらの白1も、図4-1と同様に白にとって着手禁止点のため、打てません。ここで重要なのは、「2部屋に黒地がわかれている」ということです。この「2部屋にわかれている」状態を「二眼(にがん)」といいます。新たな用語が出てきました。
陣地として囲った1部屋を「一眼(いちがん)」と呼び、「眼(め)がある」という表現をします。もしこれが一眼しかなかったらどうなるか。たとえば、次の図6を見てください。

図6

ここに白を打たれるとどうなるでしょうか。

図6-1

白1に打たれると、白1も黒石に囲まれた形ですが、その前に周りの黒石を取ることができるため、着手禁止点ではありません。この黒石は「一眼」しかないため、白に取られてしまいます。

では、次の図7の黒石は「生きているでしょうか? それとも死んでいるでしょうか?」

図7

白1と打ち、黒2と白1を取っても(図7-1)、

図7-1

白3と打たれて全部取られてしまいます(図7-2)。

図7-2

右下隅の黒石も同じ理屈です。黒地の中で白が打てる場所は2ヵ所ですが、「区切られていない」ので「1部屋」となり、黒は一眼で死んでいます。つまり、白は何も打たなくても、このままで黒石は「死に石」なのです。

二眼であれば絶対に取られない

改めて、二眼を確認してみましょう。

図8

この形は二眼です。これならば周囲を白にどれだけ囲まれても、黒は取られることはありません。生き石です。そして、この黒の形は「2目の黒地」として数えます。陣地とは、結局のところ、すべてこの二眼にいきつきます。

では、図1に戻りましょう。

図1(再掲)

この黒1から5は、「白模様の中で二眼を作りにいった」と言うことができます。このまま打ち進めて、最終的に次の図のようになりました。

図9

図1の黒1から5まで打った石が黒△の大集団となり、見事に○の場所に二眼を作ることに成功しました。これでこの黒は安泰です。他の陣地もよく見てみると、眼の形がたくさんできています。左辺の黒や、中央の白の形が見つけやすいですね。

囲碁AIと「眼」

余談ですが興味深い話をご紹介しましょう。「AlphaGo」の新しいバージョンに「AlphaGoZero」というものがあります。文字通り、ルールだけをプログラミングして、ゼロの状態から自己学習するのがAlphaGoZeroです。これまでのAlphaGoを含むすべての囲碁AIは囲碁の知識、たとえばこの二眼も、人間がプログラミングしていました。

ところが、自己学習するAlphaGoZeroは、はじめのうちはこの「二眼で生きる」ということを知らないのです。公開されているAlphaGoZero同士の自己対戦の棋譜を見てみましょう。

図10
※引用元:https://deepmind.com/blog/alphago-zero-learning-scratch/

碁盤は361ヵ所しか打つところがないにも関わらず、429手打たれた局面です。どうしてこんなに長く打っているのでしょうか。

その理由はあとで見るとして、430手目に注目してみましょう。次は白番です。右辺の白▲は二眼があるため、生きている形ですが、なんと、白は430手目にここに打ちました!(図11)

図11

自らの眼を埋めてしまう、大悪手です! これで右辺の白の大群は一眼となり、死んでしまいました……。いわゆる「自殺手」というものです。もし、実際の対局でこのような手を打ってしまったら、ショックから立ち直るのに1年ほどかかりそう……。

この後も、AlphaGoZeroは石の生き死にが理解できないままお互いに取ったり取られたりを繰り返しました。だから、碁盤は361ヵ所しか打つところがないにも関わらず、こんなに長く打っていたのですね。そして最終的には、次のような図に。

図12

驚愕の541手完、黒勝ち、という結果になりました。目がちかちかしてしまいそうな、地図のような形のでき上がり。もしかして原始の囲碁はこんな感じだったのかもしれません。

ここで注目したいのが、最後まで打ち合った形がどちらも眼の形になっているということです。ここまでくれば、二眼がぼんやり理解できるのでしょうか……このような自己対戦を繰り返すうちAlphaGoZeroは「二眼」の概念を獲得し、どんどん強くなっていくのです。

そういえば、生物も「カンブリア爆発」と呼ばれる進化の大きなきっかけは、「眼」を獲得して獲物を取れるようになったからだとか。生物も囲碁も「眼」を得たところから進化が始まる……発想が飛躍しすぎなのは承知の上で、囲碁は生命の縮図なのでは!? なんて思う今日この頃です。