仕事とは「やりたいことだけ」をやることだ【山井社長インタビュー前編】

  • 上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・スノーピーク 山井太社長 / 山井 太

ハイエンドなアウトドア用品の製造販売で熱狂的なファンを持つスノーピークの本社は、広大なキャンプ場と工場、ストアを併設している。山井太(やまい とおる)社長はじめ全員がアウトドア好きで、自社製品を愛している。「ピュアでロマンチック」な会社の経営は、どういうふうに成り立っているのだろうか。

「いいもの」への憧れが強い子どもだった

雨の中での撮影? 平気ですよ。キャンプでは雨も風も日常ですから。
アウトドアが大好きで、これまでの人生で1000泊以上をテントで過ごしています。最近は仕事が忙しく、プライベートでキャンプに行く時間がなかなか取れないので、そういうときは会社の敷地内のキャンプ場にテントを張って泊まります。今年(2016年12月取材時)も15回くらい、テントから出勤しました。そんな社長、全国を見渡してもなかなかいないでしょうね(笑)。

会社を創業したのは父。登山用品や釣具の製造を手掛ける「山井幸雄商店」が、スノーピークの前身です。父はロッククライミングが好きで、休日になると谷川岳などに出かけては、その経験をものづくりに生かしていました。そのときから会社は大きく変わりましたが、「自分がほしいものを作る」というDNAは受け継いでいます。

本社に飾ってある創業当初の看板

私は幼いころからきれいなものへの憧れが強く、一流のものを鋭敏に感じるところがありました。
大学を卒業して就職したときも、「いいものを追求したい」と思い、ラグジュアリーブランドの商社に入りました。仕事を通して、創業からのストーリーや製品・サービスの背景にある志など、ブランドというものの素晴らしさを知り、自分でもそういうビジネスをしてみたいと考えるようになりました。

であれば、実家の商売で実践すれば話が早い。ハイエンドのものづくり、高付加価値なブランドの構築をアウトドア製品でやってみたい。そう思って新潟の実家に帰ったのが、1986年。父の会社に入社するにあたって2つのことを決めました。

「自分が心から欲しいと思う商品とサービスだけを作る」
「スノーピークを自分にとって理想のブランドメーカーにする」

幸い本社のある新潟の燕三条は、江戸時代以来、金属加工を営む長い歴史を持つ地域です。鋳造や鍛造など、素晴らしい技術をもつ会社が数多く集まる産業集積地で、高いレベルのものづくりができる。80年代はグローバリズムによる価格競争に追い込まれ、せっかくの技術を安い下請け仕事に使っている会社もありましたが、私は「高付加価値のものづくりをする!」と主張しました。

後で聞くと、突然帰ってきて大きなことを言う27歳の若者のことを、地域や社内の人々は「変わり者」と見ていたようです(笑)。

初心を忘れないために「やらないこと」を徹底

入社してすぐ、最高の材料と技術を使って「これ以上ない」と満足できるテントを作りました。価格は、16万8000円。当時、国産のテントといえば9800円と1万9800円のラインくらいしかなく、風が強く吹けばつぶれ、雨が降れば雨漏りするような代物で、私はまったく欲しくありませんでした。そこで理想のテントを作ってみたら、周囲からは「高すぎる」「オーバースペックだ」と笑われました。しかし、ふたを開けてみるとよく売れた。私と同じように、「もっといいものが欲しい」と思っている人たちがいたのです。

それからずっと、社員のみんなと「心から欲しいと思う」ものづくりを追求しています。いまは直接開発に携わることはありませんが、企画段階から話を聞き、スノーピークのロゴマークを与えるべき商品かどうかを決めるのは、私です。このとき、一点の曇りもなく「欲しい」と思えるか。この判断ができるのは、私が誰よりも自社商品のヘビーユーザーであり、アウトドアを楽しんでいるからだと自負しています。何といっても、これまでにスノーピーク製品を1000万円分以上、自分で買って使っていますから。うちは社員全員がアウトドア好きですが、その中でも私は突出しています。

とはいえ、人間は弱いですから、初心を忘れないために「絶対にやらないこと」を決めて自分を律しています。たとえば、他人のまねをする。簡単にモノが壊れる。デザインが悪い――。こういうカッコ悪いことは、絶対にしません。商品はすべて「永久保証」で、壊れたら修理できる体制を整えています。

スノーピークはすべての部品をそろえ、修理する

ユーザーの側から見て賛同できる、感動できる会社でありたいと思い、その方法を模索しながら、30年かけてスノーピークを「自分にとっての理想のブランドメーカー」に近づけてきました。私も社員も、ユーザーを幸せにする会社になろうと、ピュアでロマンチックな気持ちで開発を続けています。

そんな理想的な会社が、現実にあるのかって?
確かに、ピュアでロマンチックな夢を追い続けるのは、簡単なことではありません。むしろそういう会社の経営は、注意が必要です。正しいことをやっているという気持ちが強いと、それだけで満足して、結果にこだわらなくなってしまうからです。そして、ビジネスでなく遊びや自己満足になってしまう。気を付けて経営しないと、あっという間に破綻します。

正しいこと、美しいことには、結果が伴うべきです。本当にユーザーを幸せにしているのであれば、喜ばれた結果としてお金が支払われ、企業が成長しなくてはいけません。そのことに気付けたのは、業績が低迷したときに散々迷い、悩んだからでした。