顧客の要望をそのまま商品化するのはプロじゃない【山井社長インタビュー中編】

  • 上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・スノーピーク 山井太社長 / 山井 太

ハイエンドなアウトドア用品の製造販売で熱狂的なファンを持つスノーピークの本社は、広大なキャンプ場と工場、ストアを併設している。山井太(やまい とおる)社長はじめ全員がアウトドア好きで、自社製品を愛している。「ピュアでロマンチック」な会社の経営は、どういうふうに成り立っているのだろうか。
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ユーザーの声が突破のきっかけになった

1993年から99年まで、スノーピークは低迷期を経験しました。86年に私が入社してからは、ハイエンドのものづくりや、週末に車にアウトドア用品を積んで気軽にキャンプを楽しむ「オートキャンプ」を提唱したのがブームとなり、会社は順調に成長しました。「自分が心から欲しいと思うものづくり」は間違っていなかった。そう実感した矢先、オートキャンプのブームが去って売り上げが落ちました。そのまま6期連続の減収。いったい、自分たちの存在理由は何なのか。私も社員も迷い、悩みました。

状況を少しでも変えたいと思い、1998年にユーザーの方と一緒にキャンプを楽しむイベント「スノーピークウェイ」を始めました。焚火を囲み、皆さんと率直に話し合う中で、スノーピークのハイエンドの商品の良さは支持されているけれど、「値段が高い」「取扱店の品ぞろえが悪い」といった不満があることがわかりました。

ユーザーの不満をどうすれば解消できるかを真剣に検討した結果、流通の仕組みを変えるしかないと思い至りました。ものづくりが間違っていたわけではなく、仕組みが間違っていたのであれば、それを正せばいい。そこで問屋に卸し、販売店に委託していた流通を自社で担う、いわゆるSPA(製造小売業)への業態転換を行いました。大変な改革でしたが、販売網を自社で持つことで品ぞろえを良くし、流通コストを削減した分、商品の価格を下げることができました。

この基盤がなければ、いまのスノーピークの成長はありません。

顧客の想像を上回るためにマーケティングはしない

もう1つ、「スノーピークウェイ」を続ける中でわかったことがあります。私たちは製品のヘビーユーザーであり、開発について考え抜き、こだわっている。それゆえ、一般のユーザーの方と感覚が「ずれる」傾向があるのです。

以前は、自信をもって発売した商品が3年間ほとんど売れず、仕方なく廃番にし、それから少し経ってから「あの商品がほしいがカタログにない」と連絡が来ることがありました。要するに、リリースが早すぎたのです。

いまはユーザーの方々と交流する中で、キャンプ道具の流行や使い方をつぶさに観察し、「この商品はもう機が熟したから、販売しよう」という判断ができるようになりました。ですから、100出せば90くらいは当たるようになった。それでも10くらいは、あえて「早すぎる」ものを出しています。90が当たっていれば、10くらいとがったものを混ぜておいても、経営は成り立ちます。やっぱりそれくらいは、とがったものを私たちもやりたいですから。

スノーピークは常々、「マーケティングをしない会社」と言っているのですが、それは「顧客の声を聞かない」ということではありません。むしろ、顧客の声はものすごく聞いています。リアルとインターネットを合わせれば、これまで数十万人の方々から意見をいただいている。それでも、ユーザー側から具体的に作ってくださいと言われて商品を開発したのは、せいぜい1~2回です。

なぜなら、私たちは開発のプロだという矜持があるからです。ニーズはもちろん聞きますが、それに応えるだけだと、「やっぱりこういうのが出た」という感想だけで、予想を上回る驚きや感動は生まれません。たくさんの顧客の声を聞いて、さらにジャンプする。それができるのは自分たちだけだという、プライドを持って仕事をしています。

低迷期こそ本質に立ち返るチャンス

前回お話した通り、私たちのようなピュアでロマンチックな会社は、組織が崩壊しないように「仕組み化」し、あえて結果にこだわることがとても大切です。

結果が出ないということは、想いが正しくてもプロセスが間違っているとか、商品・サービスの質が人々の感動に至るレベルに達していないとか、必ず何か原因があります。それをしっかり押さえていないと、理想が強いゆえに、現実を見ないということになってしまう。

例えば、新しくオープンした店舗の社員には外に出てチラシをまいて認知度を高めるとか、ニッチな分野だけでなく広くアウトドアの知識をつけるとか、ファンをつくるためのノウハウを提供します。マニュアルではないので押し付けませんが、素直に学ぶ社員は結果が出てボーナスに反映されるし、そうでなければいつまでも年収が上がらない。社員の評価は感覚的にではなく、シビアに結果を見て決めています。

役員に対しても同じで、結果が出なければ一度降格します。その後、何度もリベンジはできるので、「1年間がんばったけど、残念ながら結果が悪かった。一度役員からは外れるけど、また早く戻ってきてくれ」と言って、拍手で送り出します。実際、10カ月で再び役員に戻った人もいます。結果をしっかり見て、良ければ評価するし、だめならいったん下がってもう一度挑戦してもらう。そういう健全なフィードバックをし、組織のモラルを保ちながら挑戦する文化を醸成しています。

振り返ってみると、いまのスノーピークの土台ができたのは業績が低迷した時期でした。悩み考えた結果、”想い”を”結果”につなげる組織・仕組みができていきました。

役員もふくめフリーアドレス制で毎日席が変わる

この低迷期にはもう1つエピソードがあります。96年に三条青年会議所の理事長になって、飲み代を人生で一番使いました。ふだんと桁が変わるくらい(笑)。

私は20代で地元に帰ってきて、先輩たちから随分とお世話になりました。そのお返しのつもりで飲み代を全部持っていたら、いつもは帰る人たちが2次会、3次会とずっといる(笑)。よくあれだけ飲んだものだと思いますが、おかげで腹を割っていろんな話ができて、メンバーと深い信頼関係が生まれました。その中に、いまのスノーピークを支えている協力メーカーの社長が大勢います。見返りなんて何も求めていなかったけれど、私たちの信頼関係をつくったあの飲み代がなければ、スノーピークのものづくりはいまのレベルに達していなかったと思います。

2000年からの10年間、アウトドア市場が2分の1に縮小する中で、スノーピークは平均7%の成長を保ち、売り上げを2倍にしました。マーケットが底を打ち、反転し始めた2011年からは、5年で約30%の成長という結果を残しています。

人も会社も、壁にぶち当たったときがチャンスです。そのときにどれだけ「本質的な問い」ができるかで、後に大きく成長するか、そのままで終わってしまうのかが決まるのです。