ロマンを貫いて一部上場までたどりついた【山井社長インタビュー後編】

  • 上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・スノーピーク 山井太社長 / 山井 太

山井太(やまい とおる)社長が立っているのは、新潟県三条市の小高い丘の上にある約5万坪の本社の一角。ハイエンドなアウトドア用品の製造販売で熱狂的なファンを持つスノーピークの本社は、広大なキャンプ場と工場、ストアを併設している。社長はじめ全員がアウトドア好きで、自社製品を愛している。「ピュアでロマンチック」な会社の経営は、どういうふうに成り立っているのだろうか。
仕事とは「やりたいことだけ」をやることだ【山井社長インタビュー前編】を読む
顧客の要望をそのまま商品化するのはプロじゃない【山井社長インタビュー中編】を読む

IPOは新しい夢を実現する手段だ

スノーピークは2014年に東証マザーズ、翌年に東証一部に上場をしました。規模の拡大を目指すようで「スノーピークらしくない」とも言われましたが、私はまったくそんな風に思っていません。ユーザーを幸せにするという会社の存在意義をピュアにロマンチックに追及するという姿勢は、ぶれていない。いや、むしろさらにその存在意義を深掘りしていった結果、IPOという流れにいきついたのです。

2014年の役員合宿で、「われわれの事業は将来どういう方向に向かうべきか」を議論しました。その中で「人間性の回復」という言葉が出て、それだ! と思いました。家族でキャンプに行くと、お父さんもお母さんも子どもも、自然の中で体を使って遊んで野生を取り戻して、ピカピカになる。まず個人の回復があり、それから家族単位での絆が深まって、たまたま隣にいた家族同士ともつながって、小さなユニットから少しずつ幸せが広がっていく。キャンプという原始的な生活がもたらす効用。それは確かに、「人間性の回復」です。

では、私たちはどれくらい「人間性の回復」を社会に広めることができているのか。日本のキャンプ人口(キャンパー)は全体の約6%で、まだまだ少ない。キャンパーを増やすことはもちろんやるべきですが、都会で生活する非キャンパーが自然と触れ合う機会を増やし、人間性を回復するきっかけづくりだって、われわれの使命ではないか。そういう考えの下、「アーバンアウトドア」という事業の次のステップを思い描きました。

従来のアウトドアは、都会から自然の中に出て行きます。一方、アーバンアウトドアは、都会生活の中に自然を持ち込む。自宅の庭やバルコニー、近所の公園など、身近な生活の中に自然を感じる商品を、シーンと共に提案するのがアーバンアウトドアです。屋外でお茶を楽しむマットやコーヒーカップの販売はすでに行っていますし、ウッドデッキや屋上でのアウトドアなど、住宅メーカーと連携するプランも始まっています。

文明社会が発達すればするほど、人間はどこかで自然に返り、野生を取り戻す反動に駆られます。都会生活を送っている人たちの人生にも、スノーピークが関わっていって、「人と自然をつなぐ」役割を果たしたい。われわれがやるべきことはたくさんあります。そのためにIPOをし、ファイナンスのパワーを得ました。大きな夢に挑戦するロマンチックな会社にとって、ファイナンスのパワーが増えるのはプラスしかありません。

上場してから、社外で講演をする機会が増えました。どうしても時間は取られますが、それでも若い起業家やビジネスパーソンの前で自分の考えを話すことは、大切だと思っています。ロマンを貫いても一部上場までいけるんだと知ってもらって、自分もそんな会社をつくりたいと思う人が増えれば、素晴らしい。

当社にインスパイアされた人が100人いたら、その中の2~3人とは、いつか事業を一緒にやるときがくる。そういうアライアンスって鉄のように強固な関係で、理想を同じくしているから、すごくいい仲間になれるんです。

ファンを裏切るくらいなら会社をつぶすほうを選ぶ

私は預金口座に入っているお金を、「自分のもの」だと思ったことがありません。会社の資産は、夢を実現するために多いほうがいいけれど、私自身は生活費があればいい。それを上回るお金は、一応ストックはしてあるけど、ずっと所有していたいとは思いません。会社に万が一危機が訪れたら、全部使う気でいます。

会社に対するスタンスも同じで、私は社長である一方、大のスノーピークファン。ですからスノーピークの価値を毀損することは、自分をふくめ多くのファンをがっかりさせること。“社長という地位にいるから”ではなく、ファンとして絶対にそれはしたくない。「人間と自然をつないでユーザーを幸せにする」という存在理由を達成できなくなるとしたら、会社をつぶすほうがいいとすら思っています。もちろん、上場企業の責任の重さは十分にわかっていますから、そんな状況にしないよう最大限の努力をしています。しかし究極的には、どの会社も、自分たちが描ける「最高の存在理由」に向かって挑戦するのが本来の姿。それが描けないのなら、存在すべきでないと思うのです。

スノーピークには、1989年に作って以来、一文字も変えずに貫いてきたミッションがあります。

「私達スノーピークは、一人一人の個性が最も重要であると自覚し、同じ目標を共有する真の信頼で力を合わせ、自然指向のライフスタイルを提案し実現するリーディングカンパニーをつくり上げよう。」

これはその一文ですが、最近この中の「ライフスタイル」という言葉を、「ライフバリュー」に変えることにしました。いまはどの会社も「ライフスタイル」と言っていて、ちょっと陳腐化してしまった気がするし、これからわれわれがやろうとすることは、人間性の回復によって“ユーザーの人生の価値を上げる”こと。であれば、ライフバリューという言葉のほうがぴったりくると思い、約30年ぶりのバージョンアップを図ることにしたのです。

大きいことを言わせていただくと、1人1人の人生の価値を上げることによって、地球をもっといい惑星にしたい。スノーピークという会社があることによって、人間の生活が豊かで素敵になっていけば、地球の幸福度が上がる。それってもう、最高にピュアでロマンチックな存在理由ですよね。

スノーピークの跡取りとして生まれていなかったら、何をやっていたか? きっと起業して社長になっていたと思います。人から言われたことをやるのではなく、自分の夢を思い描いて、実現していく。私は社長という仕事が、大好きなんですよ。