初期投資4000円ではじめた民泊ビジネスで成功するまで〜鶴岡真緒さんインタビュー【前編】

  • リアル投資家列伝・資金ゼロからの民泊ビジネス / 鶴岡 真緒

英語を話せないばかりか、資金もなく、所有不動産もないシングルマザーでありながら、「民泊」で126%もの利回りを達成。著書も出版し、講演でもひっぱりだこの鶴岡真緒さん。彼女が「民泊」を始めたきっかけから成功の理由についてうかがっていきます。

東京オリンピック開催決定が「民泊」のきっかけに

2013年9月のIOC総会で、2020年夏季オリンピックの開催地に東京が選ばれた瞬間の光景は、多くの日本人の脳裏に焼き付いていることだろう。鶴岡さんが「民泊」を始めようと思い立ったのは、その直後だった。

「たくさんの外国人が日本にやってくるから、ホテルが足りなくなるはず。せっかく日本に来てくれたのに困ってしまうだろうから、わが家に泊めてあげられればいいねと娘と話していたんです」

当時、中学生だった娘さんと鶴岡さんは、親子2人で力を合わせゲストハウスをスタートした。
お金を稼ぐことが目的でもなく、あくまで善意から「民泊」を考え始めたのだ。

「それで、娘と2人でいろいろと考えてみたんです。『ホームページを作ってみようか。でも、誰も見てくれないかも?』とか、『空港にプラカードを持って迎えに行こうか?』とか、あれこれ話しながら、何かいい方法はないか考えていました。そして、それから数ヵ月後にAirbnbの存在を知ったんです」

当初はAirbedandbreakfast.comという名で2008年8月に設立されたAirbnb。ゲストルームとして自分の部屋を貸したい人と宿泊先を探している人をマッチングさせるウェブサイトだ。なお、「bed and breakfast」は欧州でよく見かける民宿のような簡易宿泊施設である。

初期投資4000円で月5万円が最初の目標

「集客と集金からトラブル対応まですべてやってもらえるのに、Airbnbに支払う手数料は宿泊料金のたった3%だけです。すごいと思った反面、普通のビジネスではありえない話なので、ホントは何か裏があるんじゃないかと疑いましたね。だから、すでにAirbnbで部屋を貸している人のブログをいくつか探して、10人ぐらいに直接連絡を取ってみたんです」

結局、そのうちの2人と実際に会って話を聞き、信頼できるサイトだと確信した鶴岡さんは、直ちにAirbnbに登録し、サイト上に掲載した。2014年4月のことで、その4日後には早くもゲスト(宿泊者)が訪れたという。

「ダメならすぐに止めればいいという軽い気持ちで始めて、事前の準備は、ほとんどお金をかけず、無料で譲り受けたものや、リサイクルショップを活用。1泊1人当たり3500円の宿泊料金で最初は月5万円を目標にしましたが、翌月には8万円も稼げて、さらに数ヵ月後には10数万円に達しました」

これまでにトラブルやクレームも皆無

こうして想定以上に得られたお金を元手に鶴岡さんは次々と新しい部屋を借り、それらも訪日したゲストたちに提供することで、「民泊」による収入は雪だるま式に増えていった。

「自分が住むことが前提なら、日当たりの悪い物件などは避けがち。でも、『民泊』が目的なら、ゲストたちはただ泊まることだけが目的なので、多少条件が悪い部屋でも差し支えありません。だから、不動産仲介業者にはあえて、『なかなか借り手が見つからない部屋を紹介してください』とリクエストしていました。空室を抱えて大家さんも困っているので、敷金・礼金を免除してくれたり、家賃を下げてくれたりと、好条件で契約できるからです」

ただ、わずかな初期投資で自分の部屋が利益をもたらすようになるとはいえ、それでも言葉が通じない異国の人々を自宅に招き入れることに抵抗を感じる人は少なくない。加えて、ゴミ捨てのマナーがひどい、深夜に騒ぐなどといったトラブル絡みの話にマスコミは焦点を当てがちだ。
しかし、鶴岡さんはまったく不安を抱くことがなく、トラブルにも一切巻き込まれていないという。

「私は人が大好きだから、地方から親戚や知人が泊まりに来るのと同じような感覚で、ゲストを迎え入れることがホントに楽しみでしたね。これまでに一度もトラブルは発生していませんし、備品がなくなったこともありません。そればかりか、私の部屋に泊まってくれたゲストの半数以上が出発前にちゃんと部屋を掃除してくれます。シーツを洗濯して干しておいてくれる人までいるんですよ」

Airbnbのサイトに掲載されている写真を見れば一目瞭然だが、鶴岡さんが提供している部屋はいずれも清潔感に溢れている。もともとそのような宿泊場所を求めてやってくるゲストであるし、日本を満喫してほしいという心を込めながら整えた部屋だからこそ、散らかしたままで立ち去る人はまずいない。

「民泊ホームステイ型」から「簡易宿所ゲストハウス型」へ

しかも、鶴岡さんはあらかじめ注意事項を英語の冊子(インフォメーションブック)にまとめて、部屋に招き入れる際に見せている。それがあればトイレの使い方やゴミの分別方法などもわかるし、共有スペースでお喋りして近所に迷惑をかけることもないという。
冊子には注意事項だけでなく、近所の飲食店情報も載せている。そういった徹底したサービスからも、ゲストたちは鶴岡さんのおもてなしの心を感じとっているようだ。

ところで、2017年通常国会で「民泊新法」が提出される。この法案が通れば、ホテルや旅館への配慮から、「ホームステイ型」の場合は年間営業日数の上限を180日にするという条件付きの解禁となる。一方で簡易宿泊所の許可を受けた「ゲストハウス型」には、そのような制約がない。こうした民泊の転換期に鶴岡さんはどう対応するのか。

「実はゲストハウスを立ち上げました」

鶴岡さんはすでにステップアップしていた。

京都の廃墟アパートを「ゲストハウス」に

2016年の6月から鶴岡さんは、京都で「ゲストハウス型」の「民泊」の立ち上げを始めた。アパートなどを一棟丸ごと借り、合法の簡易宿所として運営するのだ。
当初は苦戦したが、桜が咲き始める季節からフル稼働となって安定的に収益をもたらすようになるという。
この簡易宿所は、廃墟と化していた古いアパートを借りて準備にかかった。

「低予算に抑えたかったから、ほとんどがDIYによるリフォームです。しかも、ブログやSNSを通じて声をかけて、ボランティアで手伝ってくれる人を集めました。手伝ってもらう代わりに、私が蓄積してきたノウハウをすべて教えてあげるという条件です」

業者に依頼すると700万円程度の資金が必要だと言われたが、5ヵ月の歳月を費やしてボランティアたちと壁紙や床材の貼り付けなどに精を出し、約200万円の予算でリフォームできたという。そしてその旧廃墟アパートは、月に70万円前後の収益をもたらすゲストハウスに生まれ変わる。

「私が京都でやっているような取り組みは、全国で問題化している空き家対策にもなると思うんです。賃貸物件の家賃は築年数が経つほど下がるのが常識ですが、手を入れて『民泊』に活用すれば、もっともっと収益が上がるようになるのですから」

とはいえ、鶴岡さんが「民泊」に最も求めているのはリターンではない。先に述べたように、彼女は人をもてなすことに何よりの喜びを感じており、「190ヵ国超の地元の家で、暮らすように旅をしよう」というAirbnbのコンセプトに共感したことからすべてが始まっている。