「保険」を再定義する会社、アニコム【後編】

  • 上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・アニコムホールディングス 小森伸昭社長 / 小森 伸昭

ペットだって、人間と同じような保険サービスが受けられる――。日本で「ペット保険」という新しい市場を切り拓いた会社、アニコム損保。2000年の創業以来ずっと、保険料収入で国内シェアトップを維持し続けているが、創業者の小森伸昭さん(アニコムホールディングス社長)が見据えるのは、ペット保険を超えた、これまでにない「予防型」の保険会社。それはまだ誰もやっていない次世代型の保険会社なのである。
「保険」を再定義する会社、アニコム【前編】を読む

「やらない」人生から抜け出すのは簡単

新しいことを始めたい。試練を乗り越えたい。挑戦をしたい。
誰にでも、こんな瞬間は訪れます。でも、なかなか一歩が踏み出せない人もいる。どうしたらいいのか。自分はこう考えるんですね。「やっていない」人がいるとしたら、その人は「やっていない」と「やる」の境界にいるだけなんだと。その境界って、極めて細い線でしかないんじゃないでしょうか。

たとえば、ある学生さんが「あー、もっと勉強すればできたのにな」と言っている。これを聞いて、あなたはどう思うでしょうか。「やればいいじゃないか」とは感じませんか? 勉強は誰もが好きなものじゃありませんし、苦手な科目を想像すると「いやだなあ」と尻ごみするのもわかります。でも、この場合に学生さんが「勉強をしない」から「勉強をする」状況に移行するのは極めて簡単なんです。「やる」ことを始めた瞬間に、「やっていない」状況は過去のものになるからです。

自分は理系ですから、このことを物理学に置き換えて説明したいと思います。
ノートとペンの2つがあれば、「やる」「やらない」の境目を再現できます。まず、ノートの上にペンを置きます。この時点では、なんの力も加わっていませんからペンは動きません。

では、ノートの端を持って傾けていったらどうでしょう。傾きが緩やかな間は、ペンは同じく微動だにしません。しかしある傾きを超えた瞬間、ペンは動き始め、ノートから転がり落ちていきます。この、止まっているものが動く瞬間にかかる最大の力を、物理学で「最大静止摩擦係数」と呼ぶんですね。

自分は、この係数を超える人生を送りたいと考えて、これまでのチャレンジをしてきたのではないかと思うんです。現代社会って、とても快適で、変化しなくても案外快適に生きていけるものです。ところが、これは生物としては大きなリスクなんじゃないかとも思うんです。なぜなら、人が人である本質は、「環境に適応し、変化してきたこと」にこそ、あるからと思うのです。そしてこの変化に適応するための行動は、ペンが動き出すのと同じで、きっかけとしてはほんの些細なことかもしれないんですよ。

ペットを飼うのは「別の命」とつながること

私は小さなころから変わった子どもでした。何でも突き詰めて考えるところがあって、大人になってもそれは変わっていません。その前提で、こんな話を聞いてください。

アニコムを起業するきっかけが、「予防型の保険会社をやりたい」だったというのは前回お話しをしました。ただ、この仕事をするうえで大切にしているのは、”生命の多様性”ということです。アニコムのエントランスには、旧石器時代の人類による「アルタミラの洞窟壁画」のレプリカを描いています。古代人類の手形の周囲に、鹿や馬が描かれている。よく生物多様性と言いますが、これを現代の人とペットの関係に置き換えると、非常に興味深いことが起きているんですよ。

どういうことかと言うと、まず、人がタンパク質を摂取するために飼っている家畜がいる。または、ロバのように人のために労働をする動物もいます。これらの動物は人とつながっています。
でも、ペットと人のつながりは、まったく違います。人は彼らを食べるためでもなければ、働かせているわけでもなく一緒に暮らしています。彼らは自らの命をまっとうしたまま、人とつながっているんです。いま、人にとってこういう存在はどれだけ貴重かということです。

科学技術が発展し、便利な社会になりました。いま、人はたいていのことは単独でできるようになっている。独りで生きていけるから、未婚の方は増えていますし、結婚していても子どものいない方だってたくさんいます。近所づきあいも減りました。

こうした中、社会の無縁化で孤独を抱える人は増え続けてきたんです。ひとりでいるのは寂しい。しかし、親兄弟と同居するのは面倒だ。どれだけ仲がいい友だちともケンカで関係を悪くするかもしれない――。その点、ペットは現代人にとって最高の友だちかもしれないんです。急にお金を貸してくれ、なんて言って人を困らせたりしませんからね(笑)。無縁化の進んだ社会を生きる現代人にとって、ペットは心の隙間を埋めるというよりは、別の命とつながる手段を提供してくれる存在なんですよ。生物は、どれだけ別の命とつながることができるのかが重要であり、その手段が多様であればあるほど、その生物は豊かで強いものになる。人の命を豊かにしてくれるのは、食べ物や労働力になる家畜だけではないと思うのです。ペットという存在は家畜には担えないつながりを人に提供してくれる存在なんです。

ペット保険の会社の経営を通して、「ペットってなんだろう」と考えざるを得ません。ペットという命を考えることは、人のことを考えることでもあるんだろうな、と感じます。

無数の「ありがとう」が集まってお金になる

最後に「お金」の話をさせてください。アニコムは、保険加入者から毎月お金を頂戴しています。社員に給料も払っていますし、新規事業への投資もしています。経営に関わっていると、お金のことを常に考えています。これまでずっと物事を突き詰めるお話しをしてきたので、お金のことも視点を変えて見てみましょう。

お金って何だろうなと考えると、「ありがとう」というエネルギーの加算体なんだろうと感じますね。面白い社会実験があって、どの国の子どもでもいいんですが、「お金を描いてみて」と言うと、たいていは正円か四角を描きます。そして中心に数字を書くんですね。お金の平均的なイメージって、どうやら数字なんです。

次に、「このお金を誰かが持っているモノと交換してみて」と促すと、誰もが「ありがとうございました」という言葉を添えるんですね。「ばかやろー」と言ってお金を交換する人はまずいない。こう考えると、お金は「ありがとう」の加算体なんだと感じます。1万円、10万円、100万円という金額は、無数の「ありがとう」が積み重なった結果なんです。あなたの財布に入っているお金は、誰かから託されたポジティブなエネルギーかもしれないんです。普段、お金をやりとりするときにこんな視点を持ってみると、これをどう使うか、意識がまるで変わってくるかもしれませんよ。

アニコムの保険料収入は253億円を超えました(2015年)。このお金も、加入者のみなさんから頂戴した「ありがとう」の加算体です。このエネルギーをムダにしちゃいけません。これを土台に、新たな保険会社のモデルを完全構築できるかどうか。法人として成熟したアニコムの実力が問われるだろうと思っています。大人になったいま、育ててもらった社会にどんな価値を提供していけるのか。いまアニコムという会社は、やりがいに満ちあふれた会社になっています。