第1回 メガネで集中度を測る。「集中力」を見える化したらわかってきたこと

今よりも、仕事ができるようになりたい。それは量を増やしたい、質を上げたい、あるいはその両方だとして、それをかなえるために、私たちは、何をすればいいのでしょうか?
スポーツで成績を伸ばしたい場合は、肉体を鍛え、練習を積めばいい。では、デスクワーカーが今より仕事の成果を上げるにはどうしたらいいのか。
答えは「頭の使い方を知り、思考力を鍛える」です。私たちが普段、仕事で使っているメインツールは「頭」。それにも関わらず、その使い方をまるで知らないという不思議な状況にあります。どうしたら集中力を高められるか、普段どのように目の前の課題を解いているか、どうしたらアイデアが生まれてくるのか、あなたは意識できていますか? おそらく、「なんとなく」やっている方がほとんどでしょう。

この連載では、その「なんとなく」を論理的に解説し、思考力を高めるための方法論をお伝えしていきます。方法がわかれば、再現できる。何度も繰り返すことで、思考力を鍛えることができるのです。ではまず、仕事の生産性を上げる重要なポイントとなる、集中力の話から始めていきましょう。

金魚よりも集中力の低い現代人

私たち現代人の集中力はどれくらい続くと思いますか? マイクロソフト社の研究チームが2015年に発表したレポートには、集中力に関する衝撃的なデータが紹介されています。現代人が連続して集中できる時間は平均8秒、というものです。ちなみに、金魚は9秒です。餌を注視したりしている時間がそれくらいあるということですね。

「まさか、金魚に負けるなんて」と思うかもしれません。でも、少し自分に置き換えて考えてみてください。1点を見つめ、何か一つのことを考えてくださいと言われた場合、すぐに別のことを考えてしまいませんか?
職場で一つの作業に集中するのは、さらに困難です。平均的なビジネスパーソンは、1時間に30回メールチェックをしていると言われています。IT系の企業では、MessengerやLINE、グループウェアなども加えると、数分に1回通知がくるなんてことは当たり前でしょう。移動中もずっとスマホを見て行動していますよね。
きっと、宇宙人が地球を観察しているとしたら、人とスマホのどちらが主人なのか、わからなくなるのではないでしょうか。私たちは情報を消費しているのではなく、情報に消費されていると言っても過言ではありません。人が情報を消費する時代は、とっくに終わってしまったのです。

さて、こんなに気を散らす情報があふれる時代で、仕事に集中して成果を出すにはどうしたらいいのでしょう。
集中力を上げたい、と思ったときにするべきこと。それは、今自分がどのくらい集中しているのかを数値化することです。それには、「集中力」を測る測定器が必要になります。
ダイエットでも、自分の今の体重を知ることができないと、何キログラム痩せればいいのか、その体重を減らすには何をすればいいのか、計画が立てられませんよね。何かの目標を達成するには、自分の現在地を知り、行動して、それがどういう結果をもたらしたかフィードバックを受け、やり方を修正してまた行動して……と繰り返すことが必要です。いわゆる、PDCA(plan-do-check-act)サイクルをまわす。

しかし日常の仕事に関して、そういう数値的なフィードバックを受けたことはほとんどないのではないでしょうか。日々の仕事というのは、基本的にDoばかりなのです。事前にあまり計画も立てないし、終わった後にチェックもしない。もちろん売上等の数字は出ますが、「仕事のやり方」についての数値的フィードバックはほとんどないのです。

集中力は「まばたき」で計測できる

では、集中力を測る装置、とはどういうものでしょうか。私たちが目をつけたのはメガネです。なぜなら、集中力は「まばたきの回数」や「視線移動」などで測ることができるからです。
テトリスをプレーしている人のまばたきの頻度を調べた実験(※)からも、それがわかります。まだ序盤でブロックが積み重なっていないときは、まばたきの頻度が高いのですが、上の方までブロックが積み重なってピンチになってくると瞬きの頻度は低くなる。人は集中するとまばたきが少なくなるのです。まばたきの頻度から、集中の深さを測ることができます。

※小川ら(2015)ヒューマンインターフェースシンポジウム2015

しかし、ずっと目を開いていると、目が乾いてきて逆に集中できなくなる。たまには、まばたきも必要です。つまり、集中している状態というのは、低い頻度で安定したリズムのまばたきをしている状態なのです。それを実証するために、私たちは特殊なメガネを使ってベテランと新人の茶筒職人のまばたき安定度を比較しました。
仮説は、ベテランのほうが集中できているだろうというものだったのですが、結果もずばりその通り。新人はまわりから話しかけられたりすると、すぐまばたきの安定度が落ちてしまいます。でも、ベテラン職人は時間が経つにつれて安定度が上がっていく。継続して集中できていて、時間の経過とともに集中の度合いが高まっていきます。

集中が継続するというのはどういうことかというと、リラックスできているということでもあります。集中とリラックスは、シーソーのように片方が高いと片方が低いというイメージをもたれているのですが、そうではありません。
生理学的に説明すると、集中しているときは交感神経がはたらいていて、リラックスしているときは副交感神経がはたらいている。これは、どちらかが活性したらどちらかが不活性になるというものではなく、両方活性させることができるのです。リラックスしていると、長時間集中することができます。

そして、集中力の深さを測るための最後のポイントは、姿勢です。まばたきが安定するためには、呼吸を安定させることが必要。それには、正しい姿勢をとることが必要です。子どもの頃、授業中などに「背筋を伸ばしなさい」と言われたことはありませんか。これはただ見栄えを良くするためでなく、集中力を持続するという意味があるのです。

「アタマ」「ココロ」「カラダ」で数値化

さて、この「まばたきの頻度」「まばたきの安定度(リラックス度)」「姿勢」の3つで、集中力を測れるということがわかりました。ここで、まばたきを計測するのに使ったメガネについて簡単に説明しておきましょう。
このメガネは、メガネブランドJINSが開発した「JINS MEME」というものです。JINS MEMEには3点式眼電位センサーと加速度センサー、ジャイロセンサーがついていて、それによりまばたきや視線移動、体の動きを補足できるようになっています。

私たちはJINSと協力して、「まばたきの頻度」「まばたきの安定度」「姿勢」を「ポイント」という単位で表示するアプリ「JINS MEME OFFICE」を開発しました。集中したい時間を設定して、JINS MEMEをかけて作業をすれば、その時間内でどれだけの時間、集中状態にあったかが表示されます。一見まじめに机に向かっていても、まったく集中できていなければそれがわかってしまうのです。

しかも3つのポイントを見れば、どこに問題があって集中できていなかったかもわかります。まばたきの頻度は「アタマ」、まばたきの安定度は「ココロ」、姿勢は「カラダ」のポイントとして表示されます。
「ココロ」に問題があるときは、呼吸をゆっくり整えればいい。集中していると息を止めてしまう人がいるのですが、それだと継続性が落ちてしまいます。また、「カラダ」に問題があるときは姿勢を正せばいいのです。「アタマ」のポイントを上げるのは、少し難易度が上がります。まばたきの頻度が多いということは、目標行動の設定が適切ではない、ということです。つまり、自分の実力に対してものすごく難しいことをやっているか、あまりに簡単すぎることをやっているか、どちらかということ。自分の実力より少しだけ上の目標設定ができれば、まばたきの頻度は低くなり、「アタマ」のポイントは上がります。

これをどう適切に設定するか、というのは、次回お話する、「フロー」という超集中状態に入る方法と深く関わってくるので、そこで説明しましょう。

それでは、今回のポイントをまとめておきましょう。

●集中力は、「まばたきの頻度」「まばたきの安定度」「姿勢」の3つで測れる
●低い頻度で安定したリズムのまばたきをしている状態が、集中力が高いとき
●集中力を高めるポイントは、呼吸をゆっくり整え、姿勢を正し、適切な目標行動を設定すること

次回は、目の前のことにすごく集中できていて、能力を最大に発揮できているような状態「フロー」について説明していきます。