「世界初の株式会社」ができた理由がグルメすぎる

あなたは、経済の歴史をどれだけ知っていますか? 株式会社はいつごろできたのか。投資という行為はどうやって生まれたのか。紐解いてみると知らないことばかりです。学校では習わない「お金の歴史」について、投資家で『金融の世界史』著者でもある板谷敏彦先生に聞きました。

企業に永続性をもたらしたきっかけ

――このシリーズでは、「投資の歴史」についてお話を伺っていきます。といっても、あまりになじみがない分野で、市場がいつからあるかなどイメージしづらいです。

「歴史」といってみなさんがイメージするのは、おそらく国家の成り立ちや戦争の歴史でしょう。学校の授業では、太平洋戦争に至るまでの政治的な流れは習っても、その間の株価がいくらだったのか、そもそも株式市場は開いていたのかなど、ほとんど触れられません。経済は人々の生活を支える大切なものなのに、歴史小説なども武将ばかりが出て来て、「お金」の話が出てこない。
そのくせに、今どこかで戦争や政権の危機が起こると、新聞やテレビでは「ロンドンやニューヨークの株や為替は暴落していないか」と大騒ぎになる。暴落の度合いで事件の世界に及ぼす影響の重大さを知ろうとする。結局「お金」の話で政治を語ってはいませんか。
欧米の経験深い投資家と話をすると、折に触れ「1929年の恐慌時には~」「ローマ時代には~」などと、歴史が持ち出されます。お金の歴史の知識は、当然もつべき教養なのです。私は、ヘッジ・ファンドを作った後、投資家のために必要な金融史の知識を本にまとめました。金融史の中でも投資の歴史は、人々の欲望の歴史であると同時に、人類が国債を発明し、会社を誕生させ、才能あるものに資金を提供して社会を発展させてきた、知恵の歴史でもあります。現在のしくみを理解するうえでも、歴史を知るのはとても有効です。

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――今回は、株式会社の起源について教えてください。確か、世界初の会社は「東インド会社」だと授業で習いました。

そうですね。1600年に世界初の株式会社であるイギリス東インド会社がイギリスで設立されます。後にインドで植民地経営を行い、アヘン戦争の引き金をひいたことでも有名な会社です。しかし金融史を紐解くと、「近代的な会社」という意味では、2年後に設立されたオランダ東インド会社のほうが重要かもしれません。

――オランダ東インド会社の何が「近代的」だったのでしょうか。

当時は航海に出資して、無事に船が戻ってきたら利益を分配し、配当としてもらうというのが株式投資の考え方でした。一航海ごとに出資を募るというプロジェクト的な動きをしていて、イギリス東インド会社も例外ではありませんでした。しかし、オランダ東インド会社は長期的なスパンで確実に利益を得るために、ジャワをはじめいくつかの島にコショウの貿易拠点を作ろうとしました。そこで大きく儲けるためには利益の回収に時間がかかるから、今後のすべての航海を「1事業」とみなし、出資を募ったのです。

――なるほど、何往復もしないと、元が取れなかったんですね?

そうです。そうして「じゃあ10年、20年ね。いや、ずっとだ!」と投資スパンが長引いていって、今日の株式の永続性が生まれたわけです。「会社は継続するものだ」という近代的株式会社の概念は、このときに初めてオランダで誕生しました。

大航海時代、コショウは肉よりも高価だった

――他国ではどのタイミングで会社ができたんでしょうか?

会社の起源とされるものは各国で発見されています。たとえばフランスには「バザクル水車」という会社があり、なんといまも続いています。西暦850年ごろに小麦粉をひく水車小屋が造られ、1150年に会社の権利を小口化して売っていたとされています。株式は英語で「Share(シェア)」と言いますが、水車が生み出す利益をみんなでわけあう仕組みは、現代の株式会社と根本的に同じですよね。日本で言えば、西暦578年に聖徳太子が百済から宮大工を招いたのが起源とされる社寺建築の「金剛組」は、いまや1400年以上の伝統を持ち、日本どころか「世界最古の法人」と言われています。

――きちんと記録に残っているんですね。

もっと古いものが見つかれば更新されていくのが、歴史というものですけどね。ただ、それでもオランダ東インド会社のような永続的な投資を前提とした会社は、他国ではなかったとされています。

さて、ここで少し豆知識を。そもそも東インド会社は、何を目的に作られたんでしょう。

――コショウ! 肉を腐らせないためにコショウが重宝された時代なので、高価なコショウを求めて航海に出たと習いました。

コショウ貿易を目的としていたことは、正解です。ただ、コショウは当時、肉よりも値段が高かったのです。つまり、コショウを買えるほどの富裕層は、もともと腐りかけの肉を食べる必要がなかった。コショウは肉の保存目的ではなく、「よりおいしく肉を食べたい」というグルメを目的に流通したのです。

グルメへの欲を満たすために、人はわざわざ危険な航海をして、東インドまでコショウを取りにいくようになった。そして、航海が成功する度に莫大な利益が生まれたことから、金儲けを目的に事業に出資する人が出てきた。それが株式会社の始まりです。

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――株式会社の誕生理由は、食欲だったんですね。

正確には、「高い値段でも購入したい」という食欲を狙って、出資者が金儲けをしたということですけどね。

アメリカ大陸の発見で加速した食文化のグローバル化

――東インド会社が誕生する前、まだ大航海時代と呼ばれていたころは、誰が出資していたのでしょうか。

大航海時代の冒険者たちはスポンサーを募り、それに対してヴェニスやジェノヴァの商人が、率先して出資していたことが知られています。あのコロンブスも成功にたどりつく前に、何度もスポンサーを募っては失敗しています。誰も見たことがない未知の大陸を目指すわけですから、出資を引き出すには高いプレゼン能力が求められたはずです。彼らは、今で言うベンチャー起業家のように、出資者に対して自分の事業(航海)がいかに魅力的でもうかるかを、必死にプレゼンしたのではないでしょうか。イギリスではエリザベス女王も出資していたので、相手も強敵だったことでしょう(笑)。そうして航海が儲かることがわかると出資したい人が増えて、やがて会社化していったのでしょうね。

――コショウを探しに行って、新しい大陸を見つけた。金銀財宝をヨーロッパに持ち込んだことは知られていますが、他にもインパクトのある物は見つかりましたか?

1492年にコロンブスがアメリカ大陸に到着したことで、アメリカ大陸にしかなかった物品も世界中に広まるようになります。このことが、ヨーロッパの人口増加の一因にもなるのですよ。世界の食文化は、このころから飛躍的にグローバル化していったと言われています。たとえばトマトって、どこの国から始まったと思います?

――やっぱりイタリアじゃないでしょうか? トマトソースの料理が多いですよね。

いえ、トマトはアメリカ大陸から発見されてヨーロッパに伝わりました。ジャガイモやトウモロコシ、唐辛子やたばこも同じです。食文化というのは意外と後になって定着したものが多く、パスタは中国からシルクロードを渡ってきたという説がありますから、もともとのイタリア料理にはトマトソースもパスタもなかったはずなんです。

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――ジャガイモや唐辛子も、コロンブスの航海の副産物なのですね。

ドイツ料理にはジャガイモがなかったし、インドのカレーには唐辛子がなかった。その代わりに、イタリア料理の生ハムをメロンにくるんで食べるレシピは、ローマ時代からあったと言います。

――それこそ最近な気がするのに!!(笑)

「有限責任」によって活性化する株式市場

冒頭で触れたオランダ東インド会社は、「会社は永続するもの」という概念以外に、もうひとつ重要な近代的株式会社の要素を生んでいます。
それは、無限責任から有限責任への切り替えです。「無限責任」だと、仮に航海が失敗して船が沈んだ時、借りた船の場合だと、株主が全額弁償しなければいけませんでした。

――金額がかなり大きくなりそうですね。

もちろん超高額なものですから、出資者は支払い能力がある人に限られます。審査も大変厳しく、出資希望者に経済力があるかどうか、わざわざその土地や家を見に行ったとも言われています。こうなると、取引に参加できるのは常に富裕層だけだったため、大きな資金も集まらず、当然ながら株式の取引も活発になることはなかったそうです。

そこで、株式の「有限責任化」が始まります。無限責任の支払い能力を限定せず、広く一般からも出資者を募るようになったので、企業は出資者の審査に時間をかける手間がなくなりました。お金持ちでなくても出資ができるようになり、市場が活性化しました。結果、アムステルダムの取引所では商品、為替、株式、海上保険、先物取引など、いち早くさまざまな金融商品が取引されるようになったと言います。

――それだけオランダで株式市場が発達したのに、現代において「金融立国」と言うとイギリスです。なぜオランダは金融トップの座をイギリスに受け渡してしまったのですか?

英蘭戦争の結果イギリスが勝って制海権を得たこともありますが、オランダの問題は、大陸の一部であり戦争の影響を受けたということです。

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イギリスはナポレオン戦争の戦禍を逃れたこともあり、その後の産業革命の飛躍の時代に経済の中心として栄えていきます。こうしてオランダが株式会社発祥の地であり、投資環境も最先端をいっていたという印象が、徐々に薄れていったのだと思います。

――株式会社の始まりは食欲が起こしたこと、各国の食文化の歴史は意外と浅かったことなど、発見ばかりでした。ありがとうございました!!