「1番」だから、自分も周囲も笑顔でいられる【前編】

  • 上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・GMOインターネット 熊谷正寿会長兼社長・グループ代表 / 熊谷 正寿

「インターネット産業で1番になろう」を合言葉に、ドメインやネット決済などのネットインフラ、WebサイトやSNSなどのネット広告・メディア、そしてFX取引などのネット金融事業を展開し、多くの分野でトップをひた走るGMOインターネット。同社の創業者であり、会長兼社長・グループ代表を務める熊谷氏は、インターネット事業を開始してから21年間、会社を成長させ続けてきた経営者であると同時に、アートのコレクターでもある。前編は、アートとビジネスの関係についてのお話を紹介する。

オピーの作品に強く惹かれる理由

――GMOインターネットグループの会議室フロアには、受付から会議室内、廊下まで、至るところにジュリアン・オピー(イギリスを代表する現代美術作家)の作品が飾ってある。力強い描線と、鮮やかな色彩に満ちた作品の数々。応接に案内されるまでの間、惜しみなく展示されたオピーの作品を見ながら、スタッフのテンションは上がりっぱなしだった。

作品をきちんと見ていただいて、とてもうれしいです。この部屋にあるジュリアン・オピーのLEDを使った作品は、実際にオピー本人が来てアイデアを出し、空間を見てサイズも決めてくれました。デジタルの画面が絶えず動いていて、鯉や竹林といった日本らしい有機物が生み出されていく。シンプルで素晴らしい作品です。

先ほど寄っていただいたウェイティング・ルームにも、彼の作品があったと思います。あれは新作の動画で、生け垣の間を縫うように伸びた一本の道や高速道路を、見る人の目線がずっーと追いかけていく。「終わりのない道」というモチーフが当社にぴったりだと思い、購入しました。

アートには若いころから興味があって、旅行に行っては美術館に立ち寄っていました。資産が少しできてからは、直感的に魅かれる作品をいくつか買ったりもしていました。最初はいろいろなアーティストの作品を思いつくままに集めていたのですが、ある日、「これでは永遠に1番になれない」と気がついて、方針を立てることにしました。

私は5100人を超えるグループのパートナー(社員)に対して、常日頃から「業界で1番のプロダクト、1番のサービスを提供してください」とお願いをしています。経営者としてさまざまなメッセージを発信していますが、最終的にはすべて「1番になる」という目標に集約されるくらい、強調しています。それなのに、個人所有のコレクションとはいえ、私がやっていることで「1番ではない」ことがあっては、発言と行動が一致しません。これではいけないと思い、趣味のアートでも、1番を目指すことにしたのです。

当時、興味があるアーティストの中でも、オピーは特別でした。人間という非常に複雑なものをモチーフに選び、その特徴をとらえながらも、究極にシンプルな作風に落とし込んでいる。人生も経営も、人間のやることは複雑です。真正面から取り組もうとすると、とても手に負えません。だからこそ私は、前に進むためのシンプルな行動原理を持つべきだと考えています。オピーの作品は、そういう感性が自分とぴったり合うんです。

オピーの作品は、「インターネット的」でもあります。われわれが事業にしているインターネットは、中身を突き詰めていくと「0と1の集合体」に帰結する。複雑に見えて、構造はシンプルです。そういうデジタル時代の感覚も、彼は身につけている。さらに、オピーはグローバルに活躍するアーティストで、常に新しい挑戦をしています。起業家精神に通じるような挑戦的な生き方からも、私は経営者として刺激を受けています。

いまの自分にしっくり来るのは、ジュリアン・オピー。そう思って彼の作品だけに集中してこつこつ集め、気がつくと世界で1番のコレクターになっていました。

周囲のみんなが喜ぶ顔がみたい

「お金の使い方」には、その人の人間性が出ます。家族のために家を建てる人、高級車やブランドのバッグを手に入れる人、寄付をする人……。
私は50歳を過ぎてから、自分を突き動かすものが何か、はっきり自覚しました。それは、「周りの人を笑顔にすること」。人に喜んでもらうことが最大の趣味で、お金もそのために使っています。

ですから、集めたアート作品は多くの人に見ていただきたい。アートを倉庫にしまって、値上がりを待つ投資家もいますが、私はそうはしません。私にとってのアートは、「お金もうけのための投資対象」ではないからです。

特にパートナーには、日常的に本物のアートに触れることで、感性を磨いてほしい。インターネット事業で大切なのは、ものをつくる力です。クリエイティブな発想や、美しくて使いやすいシステムを設計するデザイン力、緻密さなど、アートによって養われる感性は、われわれの事業に大いに役に立つ。そう思って、オフィスというパートナーの一番身近なところに、オピーの作品を飾っているのです。

パートナーが感性を磨き、ユーザビリティあふれる、美しいプロダクトやサービスを提供した結果、どうなるか。お客さまが喜んでくださり、パートナーがやりがいを感じます。そういう良循環を繰り返し、そのプロダクトやサービスが業界で1番になれば、パートナーはやりがいとともに、誇りをもって仕事をするようになります。結果として会社にも利益が出て、ステークホルダーの皆さんに還元できる。そうやって、当社に関わる人たちが笑顔になるのが、私の最大の喜びです。

私は「仕事が趣味」と公言しています。ワーカホリックだとは思いません。なぜなら自分にとって、仕事が一番、人を喜ばせることができるから。ゴルフをするとか絵を描くとか、人にはそれぞれの特技があると思います。私の場合はそれが「経営」で、人を笑顔にできる可能性が一番高い。ですから引退するまでは仕事に集中し、1人でも多くの人を喜ばせることができるよう、全身全霊で取り組もうと思っています。

引退したら? そうですね、料理を極めたい。料理はプライベートで人を笑顔にできる最もいい手段です。おいしい料理を家族や仲間と食べるのって、本当な幸せなひとときです。時間ができたら、ぜひ料理を勉強したいですね。まだまだ先の話ではありますが……。

「愛」という行動原理をいかに増やすか

GMOインターネットグループは現在、連結100社を有し、うち9社が上場しています。子会社は上場させずに経営するほうが効率的だと言われることもありますが、私はこの仕組みが正しいという持論があります。

ダーウィンの進化論で、「生き残ったのは強いからじゃなく、変化に対応したから」という考え方が出てきますよね。まさにその通りで、大きな柱1つに頼るのは、何かあったときに怖いと思っています。グループ会社のそれぞれが上場し、第三者の目でガバナンスを効かせて、自立した組織として利益を上げる。そういう組織のほうが、変化に対応して生き残れると思うのです。

このような組織運営では、それぞれのグループ会社、ひいてはその中のパートナーが自ら考えて動く、「自走式組織」であることが求められます。中央集権で、私がトップダウンで経営できるのは、せいぜい1つの組織。パートナーが私の理念を理解し、自ら動いてくれないと、9社も上場会社があるグループが成り立ちません。

パートナーを自走させるために大切なのは、感情です。人間は感情の生き物で、理屈では動きません。人が自ら本気で何かしようと行動するとき、その動機の多くは「愛」か「憎しみ」のどちらかの感情をともない、それが原動力になっています。当社では、「愛」を行動原理にする人を増やしたい。そのためには、やはり「1番であること」が大切です。業界トップのプロダクト、サービスを提供することで仕事に誇りを持ち、社会に貢献しているという自負を抱く。そうやって、パートナーの心の中に自社への「愛」を増やしていくのです。

それがベースにあったうえで、役員の目標と結果、給料もふくめすべてガラス張りにしています。さらに一般のパートナーも、業務で関わる周囲のパートナーが評価する360度評価を取り入れるとともに、等級ランクをガラス張りにしています。このように、みんなが納得感を得られるようにすることで、やる気が起きやすい仕組みをつくっています。

まずは、組織に愛情をもってもらうこと。誇りを持ち、仲間を大事にしたいと思う風土をつくること。そのために1番であろうと言い続けること。

アートも経営も、私の中ではすべて、同じ哲学のもとに連なっています。