第4回 うかつにデスクに座ってはいけない。仕事前にやるべきこととは

前回、フローに入るには、全部で4つのステップがあるというお話をしました。前回はそのステップの前半の1「強い感情を感じる」と2「一気にリラックスする」を解説しました。1と2が準備体操だとしたら、今回説明する3「目標行動の実施をイメージする」、4「動作に入る前のルーティン」は、具体的なフローに入るための手順です。3は他のステップよりも少し難易度が上がりますが、じっくり解説します。
「第3回 超集中状態『フロー』に入る方法」を読む

目標は高すぎても低すぎてもダメ

強い感情を感じ、一気にリラックスをしたら、次のステップは目の前にある仕事をするのに適切な目標を設定することです。
目標設定をするのは、意外とむずかしいことです。たとえば、「年収を100万円上げる」「営業成績1位をとる」といった目標をたてたとしましょう。しかし、それは、いわば大きな目標であって、いま目の前にある仕事をどうやるのかという目標設定にはなりません。その逆に、「◯時までに◯◯を終わらせる」という小さな目標は、単なるToDoリストですので、適切な目標設定とは言えません。

スポーツでもそうですが、日々の練習はどうしても繰り返しになりがちです。しかしそこで一工夫して、毎回の目標を自発的に考えられるかどうかがその先の成果を左右します。そうでないと、上から言われることを「こなしているだけ」という感覚になってモチベーションが下がっていくのです。

では、どんな目標設定が日々の仕事に適しているのか。それは、今自分ができることの「ちょっと上」の目標を設定することです。ちょっと上の目標とはどういうものかイメージするために、下図をご覧ください。

この図は、縦軸に「報酬のあり方」をとっていて、上にいくほど「外的な報酬」、下にいくほど「内的な報酬」の度合いが増すことを表しています。外的な報酬というのは、「テストでいい点をとる」「サッカーで得点王になる」など、外から与えられる評価や承認による報酬です。一方、内的な報酬とは、「これを知りたい」「サッカーがうまくなりたい」など、自分の内側から生まれる報酬のあり方です。
そして横軸はやろうとしていることの「熟達度」です。自分の熟達度に合わせ、「報酬のあり方を変える」ことが、ちょっと上の目標設定のコツです。

ちょっと上の目標設定をするうえで、この報酬のあり方がどう関係してくるのか。
これはまだ仮説なのですが、フローに入るための目標設定というのは、2つの段階があり、図の真ん中から左が1段階、右がもう1段階上ではないかと考えています。

「楽しい!」「勝った!」だけでは限界がくる

一番左の熟達度が低いときは、「この仕事は楽しい」といったような内的報酬が大切になります。スポーツでも将棋などのゲームでも、はじめは「プレーすること自体が楽しい」という段階がありますよね。そこから、ただプレーするだけでは満足しなくなり、「勝利する」「段位を上げる」などの外的報酬が重要になってきます。自分の熟練度が低い時期は、外的報酬のレベルを少しずつ上げることを目標にすると、よりそのことに集中し、フローに入りやすくなります。

しかし、あるときから外的報酬のレベルを上げるだけでは、限界が訪れるようになります。今やっていることに慣れるタイミングなどが、わかりやすい例です。図で言うと、横軸の中央のところですね。そこまでくると、次に大切になるのはこれまでの自分のやり方に「ゆさぶり」をかけられるかどうかがポイントになります。

ゆさぶりをかける、とはどういうことか。それは、日々の仕事で言うと「いつも大変お世話になっております」という定型文でメールを書くのではなく、「あの人を笑わせるには、どういう出だしがいいだろうか?」というように、自分のなかで「ゆらがせる」目標設定をしていくことです。慣れて、機械的におこなえるようになっていることを、「本当にそれが最適なのか」ともう一度問い直す。

いつもの自分のやり方をゆさぶるためには、「自分にとってそもそも仕事とは何か?」「人生で何を達成したいのか?」と自問することが必要になってきます。
ただやみくもにやり方を変えて、仕事の質を落としては意味がありません。自分の人生の目的はなにか、という大きなテーマにそってゆさぶりをかけることで、内的な報酬の比率が高くなっていきます。日々の仕事の質が上がっている、大きな目的に近づいているという実感がもてるからです。

このワンステップ上の目標設定に到達することが、より深いフローに入るための条件と考えられます。この内的報酬に重きをおくように、仕事の内容を主体的につくりかえていくプロセスを「ジョブ・クラフティング」といいます。

うかつにデスクに座ってはいけない

さて、ちょっと上の目標設定をし、その行動のイメージができたら、いよいよ最終ステップ「動作に入る前のルーティン」です。ルーティンという言葉は、スポーツの文脈で聞いたことがある人が多いのではないでしょうか。野球のイチロー選手が打つ前におこなう一連の動作や、ラグビーの五郎丸歩選手がキック前におこなう動作、あれらのあらかじめ決めておいた一連の動きを「ルーティン」と呼びます。

ここで、あなたの仕事前の行動を振り返ってみてください。オフィスのデスクに座り、おもむろにパソコンを立ち上げ、Yahoo!ニュースやFacebookをぼーっと眺めるなどしていませんか? そのままダラダラとネットサーフィンをはじめてしまうのなら、もうその行動は今すぐやめましょう。

そんなふうにうかつに仕事を始めていては、集中できるわけがないのです。

仕事の実作業を開始するということは、野球選手でいえばバッターボックスに立つようなもの。イチロー選手は、バッターボックスに立つとき、いつも同じ動作で準備をします。このように、作業に適した場所で、自分のコンディションと環境を整え、ルーティンを決めて挑んだほうがいい。たとえば、デスクの上をウェットティッシュで拭く、深呼吸を数回してパソコンを開くなど、ルーティンとしておこなうことはなんでもよく、決めることが大事です。

先ほど例に出した、「オフィスのデスクに座り、おもむろにパソコンを立ち上げ、Yahoo!ニュースやFacebookをぼーっと眺める」は、もう一つダメなポイントがあります。それは、「仕事をする場所で仕事とは(ほぼ)関係ないことをしている」ということです。仕事をする場所で、プライベートのアカウントのSNSやおもしろい動画などを閲覧していると、脳は「この場所は仕事モードでいる場所なの? それとも、遊ぶモードでいる場所なの?」と混乱します。仕事の場所では、仕事以外のことはしないのがベストです。

さらに、もしオフィス内に作業スペースがいくつかあるならば、企画書を作るときはこの場所、メールを返すときはこの場所と、作業内容によって場所を変えるのがおすすめです。私たちの友人は仕事の種類によって使うパソコンすら変え、さらに集中度を上げようとしています。

さて、これで、1「強い感情を感じる」、2「一気にリラックスする」、3「目標行動の実施をイメージ」、4「動作に入る前のルーティン」のポイントを一通りお話ししました。絶対にフローに入れる、とまでは言い切れないのですが、これがすべてできればフローに入れる確率はかなり上がるでしょう。

私たち自身も、これらのステップを意識して仕事をするようにしています。たとえば、論文を読むにしても、うかつには読まない。まず、今本当にそれを読みたいのか、自分の感情を観察します。そして、「読まなきゃ」とか「理解しなきゃ」くらいにしか思っていなかったら、いったん置くんです。
そして、自分はどうしてこれを読むのかということを、書き出してみる。これは、「目標行動の実施をイメージ」のステップです。そこで、「そもそも自分は人生で何がしたいのか」ということまで、遡って考えます。こうすることで、自分自身は集中度を上げることができていると感じています。ぜひ、実践してみてください。

それでは、今回のポイントをまとめておきましょう。

●日々の仕事では、「ちょっと上」の目標を設定をしよう
●自分に「ゆさぶり」をかけるために、「人生で何を達成したいのか?」を自問する
●ルーティンを決めてから仕事をする

次回は、仕事の質をより高めるための感情コントロールについてのお話をしていきたいと思います。