「おもしろ原理主義」のビッグウェーブに、乗り遅れるな!【後編】

  • お金を語るのはカッコいい・バラエティ・プロデューサーが語る未来のお金 / 角田 陽一郎

『さんまのスーパーからくりTV』『金スマ』『オトナの!』など、数々の番組をヒットさせてきたバラエティ・プロデューサー、角田陽一郎さん。インターネットによる「情報革命」が起きつつある現代、従来の広告モデルは崩壊しつつあるという。角田さんが考える新しい広告の姿、そして、未来をつくる「おもしろ原理主義」とは?
99%の人は、まだ「情報革命」の凄さを理解していない!【前編】を読む

「つまらないものですが」なんて、もう古い

いま、社会システムを根幹から揺るがす「情報革命」が起きています。その中で、産業革命以来、うまく機能してきた「お金」や「会社」といったシステムの力が弱くなっていることは、前編で述べた通りです。僕が働くテレビ業界でも、変化の波を感じています。最も大きいのは、広告収入がじわじわと減っていること。特に2008年のリーマン・ショック後は、多くの放送局が減益や赤字決算に転じ、「とうとう来たか」という感が否めません。

従来のテレビをめぐる広告の仕組みは、なぜ通用しなくなっているのか。
それは、情報革命後の社会では、いろんなことが「バレる」からです。顧客が喜んでいるのか、怒っているのか。ある会社の商品が買うに値するか、どうか。あっという間に「本当のこと」がインターネットを通して広まります。

たとえば、遊園地が新しいアトラクションを作ったとします。これまでならば1億円かけてコマーシャルを打っていたのを、そのお金を使ってアトラクションを体験できるキャンペーンを企画する。そのキャンペーンがおもしろければ、お客さんがSNSで情報を広めて、結果的に宣伝になる。このように、1億円を使う用途が変わるのです。

「広告」の概念は、ひっくり返って「告広」になる。つまり、「広く告げる」のではなく、「告げた結果、いいものが広まる」というふうになっていくでしょう。だから企業がお金をかけるのは、広告ではなくて中身のほう。僕はこういう動きを「おもしろ原理主義」と呼んでいます。まず、おもしろいものをつくる。そうすれば、自然と人々に注目され、お金も集まってきます。

これってつまり、ちゃんとやっている会社・人に光が当たり、ズルや手抜きをしている会社・人はそれが世間にバレて生きにくくなるということ。だから個人としても、本当に好きなものを好きと自分の意見をはっきり言ったり、デモに行って怒りや悲しみを行動で表明したりすることが、今まで以上に大切なんです。その態度を表明することが、誰かに届くのですから。

逆に、うわべだけの儀礼的なふるまいは、意味をなさなくなります。日本人はよく、お土産を渡すときに「つまらないものですが」と言うでしょう? あれ、もうなくなると思います。「超おいしいから、ぜひ食べて!」というのが、これからの時代に合う振る舞いになると僕は思います。

いいものでもうけて何が悪い!

僕は「おもしろ原理主義」の流れに、大賛成です。心から「おもしろい!」と感じられる企画を実現したくて、プロデューサーをやっているのですから。そして、広告収入に頼る従来のテレビ業界のビジネスモデルでは、僕はやりたいことを実現させるのが難しかった。なぜなら、そこに「視聴率」という壁があるから。

広告主である企業(スポンサー)は、1人でも多くの人にコマーシャルを見てほしい。だからテレビ局は、視聴率の高い番組を作らないと、スポンサーにお金を出してもらえません。そうすると、社内で番組の企画について採用・不採用を決めるとき、「この人が出れば視聴率が取れる」「この人はいま話題だ」というキャスティング至上主義に陥りがちです。

僕はそうではなく、「この人は天才だ」「会ってみたい」という、自分の心からわき上がる「おもしろい!」を番組化したい。でもそれは「スポンサーからお金をもらえない」という事情によって、阻まれてしまう。もちろん、与えられた環境で精一杯「おもしろい!」を実現していました。でも、心のどこかで、「いい番組づくり」と「お金もうけ」は両立しないのだなあと寂しく思っていました。

そんな僕を変えたのが、堀江貴文さんです。
2005年2月、僕は深夜の社内で1人、経費の精算をしていました。660円のタクシーの領収書を見ながら、「これはどこへ行ったときのかな」と悪戦苦闘していたとき、テレビにニュース速報が流れました。「ライブドアが600億円でニッポン放送を買収!」。

堀江さんは大学の1年後輩で、面識はありませんでしたが、研究室が隣同士でした。僕が660円の領収書で悩んでいるときに、彼は600億円の買収を仕掛けている。「いったい、この差は何だ?」と愕然としました。そして、思ったのです。「おもしろい!」番組づくりの一方で、もうちょっとお金について考えてみようか。いい番組をつくって、さらにもうけてもいいじゃないか、と。

お金は単なる「ツール」でしかない

お金を意識してみると、いままで見ていた番組制作の風景が違って見えました。例えば、『関口宏の東京フレンドパーク』という番組で、アイドルグループ「嵐」が出演して高視聴率をとった回がありました。これはTBSのスタジオで収録されるのですが、もし国立競技場で行えば、7万人は軽く集まるでしょう。3000円のチケット代をいただけば、2億1000万円です。最初にリアルなイベントを有料で開催して、それを後日に番組として無料で流せば、製作費を差し引いても利益が出ます。

こういうふうに「自分で製作費を最初に稼ぐ」発想があれば、スポンサーのために視聴率を気にする必要がなくなる。その視点に、僕はずっと気づかずにいたんですね。

そして、できたのが、独立採算番組『オトナの!』(2012年~2016年6月30日までTBSで放送。現在は、TOKYO MXにて『オトナに!』として放送中)です。実際に、「オトナの! フェス」というロックフェスを開催し、制作費を入場料でまかないました。当然、スポンサーもついていただいていますが、視聴率ではなく、「こういうことやりたい!」「絶対おもしろいと思う!」という企画に共感してくれる企業にお願いをしました。

これってまさに、「おもしろ原理主義」です。自分自身で「おもしろい!」を発信し、共感の渦を生み出していく。そうすると、お金がついてくるのです。番組はテレビ放映だけじゃなく、YouTubeで流すという画期的な手法も取り入れ、たくさんの人に見てもらえるようにしました(残念ながら、TBSでの番組終了後、動画は見られなくなってしまったのですが……)。

そもそも、日本人はお金について「複雑な思い」を抱きすぎだと思います。本当は大好きなのに、嫌いなふりをしている。以前の僕のように、「いい仕事とお金もうけは両立しない」とか……。

でも、いざ独立採算番組を作ってみて、お金って目的を果たすための「ツール」でしかないとつくづく感じました。大事なのは、お金を持つことではなくて、「こういう番組を作りたい」「トロを食べたい」「ハワイに行きたい」という“自分”がいること。その手段として、お金を稼ぐ。それなのに、「稼ぐにはどうすればいいのか」ということばかりにとらわれて、本質を見失っている人が多い。

情報革命によって社会が変化しても、「何かやりたい!」という人がいて、そのために資源を集めるという行為は、変わりません。むしろ、インターネットを使って、「やりたい人」と「お金を出したい人」がつながっていくのが、これからの世界です。

僕はテレビマンだから、「おもしろ原理主義」に向かう時代の空気を、もっともっと煽っていきたい。古いビジネスモデルとともに滅ぶより、新しい未来を、わくわくしながら生きていきたいですね。