第7回 飽きたら仕事はやめていい。超集中状態で考え続ける方法

第1回〜第4回で超集中状態「フロー」に入る方法を、第5回、第6回では、感情をうまく利用して仕事の質を高める方法をお伝えしてきました。ここからは、それを継続して行う方法、つまり仕事において「超集中状態に入って考え続ける」にはどうすればいいか、ということをお話ししていきます。
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考え続けるために重要なのは、「飽きたらすぐやめる」こと

じつは「考え続ける」ということは、私たちを含む研究者が最も得意としています。研究者は何かしらの仮説を立て、それについて考えるということ自体を仕事にしているからです。さらにいえば、ソクラテスとかアリストテレスがいた時代から、「考える」という技術を2000年にわたって、脈々と受け継いできているのです。今回は、そこにプラスして私たちが1年近く考えたどり着いた「考え続ける」ために必要なことをお話していきます。

考え続けるためにもっとも重要なのは、「飽きたらすぐやめる」ということです。

矛盾しているように思えるかもしれませんが、これは最新の研究で明らかになった「疲労」の問題が前提にあります。
疲労というと、運動の文脈で、「筋肉に疲労物質がたまることで起こる」というイメージがあるかもしれません。これまでよく言われていたのは、疲労物質である乳酸が蓄積することで肉体疲労が起きるということ。だから、その疲労物質を除去すれば疲労は回復し、疲労感もなくなる、と思われていました。
乳酸が疲労物質であると提唱したのは、ノーベル生理学・医学賞受賞者である生理学者アーチボルド・V・ヒルです。彼が1929年に発表した論文により、この「乳酸=疲労物質」説は80年以上信じられてきました。

しかし近年、その理論が覆されたのです。カエルやラット、馬などに乳酸を投与しても何事もなく運動し続けるという実験結果が発表されました。これにより、乳酸はパフォーマンスの低下をもたらすという証拠にはならないと結論付けられました。また、乳酸は疲労物質であるから老廃物だ、という見方についても、乳酸は糖質の分解やエネルギーの再利用に働くということも判明しています。

疲労は、脳が生み出した“安全装置”?

では「疲労物質が溜まる」→「疲労を感じる」のではなければ、なぜ人は疲労を感じるのでしょうか。ここで、ロンドン・オリンピックの5000メートル走と1万メートル走で金メダルをとったモハメド・ファラーというイギリスの選手の事例を紹介しましょう。
彼は、オリンピック前は世界ランク10位に入るか入らないかくらいで、そこまで有望視されていない選手でした。しかし、ロンドン開催という地元の大声援もあって、1万メートルで金メダルがとれたのです。その数日後、5000メートルのレースがありました。
当時の映像を見ると、レースの終盤、ファラーは体が左右に揺れて明らかに疲労困憊なのがわかります。しかし、最後の1周で大声援に背中を押され、逆転。見事1位になりました。おもしろいのはゴールした後です。どう考えても、その場に倒れてもおかしくないくらい疲れているはずなのに、ファラーは元気で、カメラに向かってアピールしたあと、なんとピッチに寝そべって腹筋をし始めたのです。

これはいったいどういうことなのか。数日のインターバルで、1万メートルと5000メートルを全力で走ったファラーの体は明らかに疲れているはずです。しかし、達成感とうれしさで脳が疲労を感じていないのです。実際に疲労することと、「疲労を感じる」ことは別の現象です。だから、ゴール後に腹筋までできてしまう。

2012年に、「身体の限界は心臓や肺、筋肉ではなく、脳が決めている」という内容の論文を、運動科学の大家であるケープタウン大学のティム・ノークス教授が発表しました。これにより、これまでの疲労についての考え方がガラッと変わりました。

つまり、「疲労感」は、脳がつくり出した、体に無理をさせないためのアラームだったのです。

こまめに休憩するほうが、長く集中して働ける

では、考えることによる脳の疲労感はどのように生まれているのでしょうか。現在、「脳そのものが疲れる」という現象についても、研究が進められています。そのなかで、長時間、ひとつの頭脳労働をすることで、特定の神経回路を繰り返し使っていると、その部分の神経細胞が疲弊するということがわかってきました。さきほど、体の疲労感は脳がつくり出すという話をしましたが、脳そのものについては、実際に疲労することがあるわけです。

脳の疲弊のサインは「飽きる」という感情で現れます。

それゆえ、「考え続ける」ためのひとつのコツは「飽きたらすぐやめる」ことだと言えます。飽きているときはもう脳が疲れ始めているのです。この「やめる」は、「仕切り直す」「休憩をとる」くらいに考えていただけると、わかりやすいと思います。
脳が完全に疲労するのには、「飽きる」→「疲れを感じる」→「眠くなる」という段階をたどります。「疲れを感じる」のは、脳の眼窩前頭皮質(がんかぜんとうひしつ)という比較的新しく発達した脳の部位で行っています。
ですから先ほどのファラーの事例でみたように、強い感情によってパーンと消し去ることができる。これは肉体疲労だけでなく、脳の疲労も同じです。仕事でも、すごくいいニュースが舞いこんできたら疲れが吹っ飛び、バリバリと働き続けられることがありますよね。

そして、さらに段階が進むと「眠くなる」。ここまでいってしまうと、回復は非常に遅くなります。同じ休憩時間でも、1時間やって10分休む、を2回繰り返すのと、2時間やって20分休むのでは、疲労の度合いがぜんぜん違います。前者のほうが、圧倒的に楽です。「飽きる」の時点で休憩をとったほうが、リカバリーが早いのです。

そもそも何に対して飽きているのか

では、「飽きてやめた」ときに、何をしたらいいのでしょうか。単にぼうっとするのではなく、飽きた時点で「そもそも自分は何に対して飽きているのか」を問い直してほしいのです。脳は基本的に、なんでもすぐルーティン化しようとします。そうした方が楽だからです。これは本能的なものなので、自然のままでは止められません。そこで、飽きない工夫をすることが必要になってきます。

「自分が何に飽きているのか」と考えても、「目の前のこの仕事に飽きている」というところから考えが深められないかもしれません。しかし、そこはもう少し掘り下げてみましょう。仕事の目的がはっきりしないから? 作業自体が繰り返しだから? 取り組む姿勢が悪いから? こうしたことを自問自答できる人ほど、長く活躍できると私たちは思っています。

そう思ったきっかけは、漫画家の浦沢直樹さんにお会いしたときに「描くたびに発見がある」とおっしゃっていたことからです。漫画家は一見、机の前で同じような作業を繰り返す職業にみえます。しかし浦沢さんには、手塚治虫の『火の鳥』みたいな漫画を描きたいという大きな目標があり、それに向けて毎回新しい挑戦を続けていました。そうすれば飽きないでいられるのです。

また、飽きているときというのは、往々にしてその仕事における成果が出ていないときでもあります。そういうときは、「なぜ成果が出ていないのか」と根本にある問題を明らかにすることで、また前向きにその仕事に取り組めるようになるでしょう。

それでは、今回のポイントをまとめておきましょう。

●「疲労感」は脳がつくり出した、無理をしないためのアラーム
●「飽きる」の時点で休憩をとったほうが、リカバリーが早い
●飽きた時点で「そもそも自分は何に対して飽きているのか」と問い直す

次回は、「考え続ける」ためのもう1つの重要なポイントである「考えるための方法論を見つける」についてお話していきます。