第8回 考えられないのは、「問い」が悪いせい? 「考える」を構造化する

前回、超集中状態「フロー」に入って考え続けるためには、「飽きたらすぐやめる」ことが大事だというお話をしました。それに加えてもう1つ、重要なポイントがあります。それは、「考えるための方法論を見つける」ということ。最終回となる今回は、今の時代に必要な「大局観」にたどりつくための方法についてもお伝えします。
「第7回 飽きたら仕事はやめていい。超集中状態で考え続ける方法」を読む

上司が部下に「もっと考えろ」と言うのは不適切

フロー状態を保つには「即時のフィードバック」を得ることが重要だと言われています。単純な動作を高い精度で行うという状況では、うまくいったかどうかが瞬時にわかるため、すぐにフィードバックも得られ、フローに入りやすい。だから、スポーツの文脈でフローの研究は発展してきたのです。

しかし、「考える」ことにおいて超集中状態を保つには、フィードバックが得られにくいという難点があります。「考える」という行為は自由度が高く、やり方が決まっていない人が多いのです。つまり、考えるための方法論を持っていない。これでは、自分がちゃんと考えられているのか、それとも考えられていないのかもわかりません。
出来の悪い企画や資料を見た上司が部下に「もっと考えろ」と言うのは、よくあることでしょう。しかし、それでは適切なフィードバックになっていないことが多いのです。それは「世界を平和にしてこい」と言っているのと同じくらい、やり方のわからないことを命令していることになるからです。

「考える」ということについて、私たちもまだ明確に定義ができているとは言えません。ただ、このシリーズで「考えるとは何か」を考え続けた結果、全体の構造が見えてきました。

まず、思考は「問い」から始まるという話をします。これは研究者ゆえの発想かもしれません。私たち研究者は、疑問が浮かんで、その答えを考えはじめて5秒間何も思いつかない場合は、問い自体が悪いと考えます。問いが悪いと思考をスタートできないのです。
問いが「悪い」というのはどういうことなのか。それは問いが「大きすぎる」「抽象的すぎる」という場合が多いのです。そうなると、考えが進みません。そこで、考えやすいように問いを分割していきます。

問いは、最終的に3つの領域に分類できる

分割する方法はいくつかありますが、私たちがよくやる方法は、まず①前例のない挑戦なのか、②考えつくされた領域なのか、に分けること。このどちらなのかによって、考え方のプロセスが大きく変わってきます。
たとえば、「ヒットするコンテンツとは何か」というのは「考えつくされた領域」の問いです。一方、「火星に行くにはどうしたらいいか」というのは、どちらかといえば「前例のない挑戦」でしょう。さらに、「思考の自由度」という軸をプラスして、図示します。

前例のない挑戦はPrimitiveで、考えつくされた領域はComplexと表記しましょう。進化論的には、物事はPrimitive(原始的)なものから、Complex(複雑)なものに変わっていくと考えられるので、それを応用しています。

まず、前例のない挑戦は自由度が高く、考えつくされた領域は低くなると考えられます。また、縦軸に情報量をとると、考えつくされた領域の方が指数関数的に上がります。これも、感覚的にわかるのではないでしょうか。

さらに問いを構造化していきます。前例のない挑戦(Primitive)、中間、考えつくされた領域(Complex)の3つに分類し、それぞれ必要とされる思考形式を考えたのです。すると、それは「直感」「論理」「大局観」だという結論にたどり着きました。

Primitiveな状況は情報も手がかりもほとんどありません。なので、ここは「直感」を使うしかない。直感というのは好き嫌いに基づく判断です。漫画などの創作物をゼロから生み出す時は、直感が使われていると考えられます。クリエイティブなものは、自分の「好き」が出発点になっていることが多いのです。

PrimitiveとComplexの中間は、一番よくある問いです。ここは「論理」を使って考えるところ。世界の研究者が考えている問いも、基本的にここです。企画やサービス、業務改善の方法などを考えるときもここでしょう。「論理」で解ける問いなので、順序立てた仮定によって結論を導き出す演繹法(えんえきほう)、数多くのデータを集めることで結果を導く帰納法(きのうほう)などを使って考えます。

そして、Complexな問いについては「大局観」を使います。わかりやすく言うと、全体を見て構造を発見するということですね。「大局観」という言葉は、将棋や囲碁などの世界でよく使われる言葉です。将棋棋士の羽生善治さんは将棋の思考法を、直感と読みと大局観だと言っていました。若い頃は読みの力、つまり「論理」が強いけれど、年をとると直感や大局観を使うようになるのだと。
それをヒントにして、この問いの分類が生まれたのです。直感と大局観は近いもののように思えるかもしれませんが、根本にあるものが違います。直感は好き嫌いに基づいており、大局観はロジックの果てに、すでにあるものの構造を発見する思考です。

昭和は「論理」の時代、そして今は「大局観」の時代

そして、「直感」「論理」「大局観」には、それぞれ正反対のものがあります。それは、「思いつき」「経験」「バイアス」です。

「直感」と「思いつき」は何が違うのか。それは、直感には好き嫌いという、思考の方向性を決める軸があるけれど、思いつきにはないことです。だから、再現性がありません。考えるプロは「直感」と「論理」と「大局観」をうまく使いますが、考えるのが下手な人は「思いつき」と「経験」と「バイアス」に基づいて考えています。

さあ、この構造がわかれば、自分がこれから取り組もうとしている仕事の問いは、この3つの領域のどこに位置するのか、ということを考えられるはずです。

そもそもこれまでのビジネスは、ほとんど中間の「論理」で解けたと考えられます。それは、ビジネスがまだComplexに行きついていなかったからです。昔は「食品がすぐ腐る」「夏の室内が暑い」「洗濯であかぎれができる」などの不便や不快をなくすために商品が作られ、それをみんながこぞって欲しがった。メーカーのやるべきことは、早く、大量に、なるべく安く作ること。作りさえすれば売れるので、マーケティングもそこまで必要ではありませんでした。

それが今はどうでしょうか。取り除くべき不便や不快はほとんどなくなり、身の回りには物があふれています。糸井重里さんが西武百貨店のコピーで「ほしいものが、ほしいわ。」と書いたのが1988年です。この頃からすでに、物事がComplexになってきていたのでしょう。

そして昭和までの未来というのは、新しい技術から発想すれば予想できました。だから、「本質」と「データ」を使って物事を論理的に語る大前研一さんの本が、ビジネスパーソンに大ヒットしたのです。「本質」と「データ」をよく見て、問いをつくり、それを解いて、プレゼンテーションする。これが、これまでの仕事でした。
論理というのは、要は「カイゼン」ということなんです。「これまで」と書きましたが、今でもこの領域で仕事をしている人が大半だと思われます。

一方、大局観はイノベーションです。構造を発見して、これまでみんなが気づかなかったことを形にする。組織の中では、「論理」で考える人と「大局観」で考える人が混じっていればうまくいくと思いますが、今の世の中では、論理だけでやれる仕事がどんどん少なくなってきています。品質改善や作業の効率化が進んできたからです。

すべての事象は、2軸で表現することができる

この新しい時代に活躍しているのが、デザインイノベーションファームで商品・サービス開発をしている濱口秀司さんです。濱口さんは、USBメモリなどを発明した今もっとも「考える」ことに特化しているビジネスデザイナーなのです。
大局観の部分の思考が大事だという話は、濱口さんから教えていただいた部分が大きい。濱口さんは物事を俯瞰してとらえ、構造をつかむのがうまいのです。USBメモリを発案した時も、データの受け渡しという事象を構造化して考えたそうです。

まずデータ量を横軸にとって、少量のデータと大量のデータに分けて考える。そしてもう1つの軸の立て方に濱口さんのセンスが光っています。彼は、縦軸に「タンジブル」と「インタンジブル」と設定したのです。ネットワークのような触れないものと、物理的に触れるもの。そうしたら、大量のデータをやりとりでき、かつ触れるものがその時点で存在していないということに気づいたんです。

濱口さんはこうしたマトリクスをつくるのが非常にうまいのです。彼がこうして思考を整理しているのを見て、すべての物事は2軸で構造化できるのではないか、と気づきました。おそらく人間の脳は、3次元以上のことを考えられないのです。だから、物事を構造化するには2軸で十分だと考えられます。

そして、このマトリクスでは「タンジブル/インタンジブル」という軸が鍵になっているように、今まで自分が見えていなかった部分、バイアスを可視化できる2軸は何なのか、を考えるのが構造化のポイントです。よくやってしまいがちなのは、ただ現状を整理するだけのマトリクス。「男/女」「単価が高い/単価が低い」といったような分け方では、バイアスは発見できません。それでは大局観を使って思考しているとは言えないのです。

大局観にたどりつくためのブレストのやりかた

ここまで読んで、自分にはハードルが高いと思われた方もいるかもしれません。大丈夫です。大局観に段階的にたどり着くブレインストーミング(ブレスト)の方法があるので、それをお教えしましょう。といっても、これももとは濱口さんから教わったやり方です。

よくあるブレストは、アイデアを箇条書きで大量に書き出すというものですよね。通常はそこで出たアイデアの中から、良さそうなものを選んで終わりです。しかしここで終わらず、先に進むのが大局観につながるブレストです。

アイデアを箇条書きで書き出したら、次にやるのは視点の発見です。出たアイデア1つ1つについて、これはどういう視点から生まれたものなのかを考えていきます。視点というのは、「なぜこれをおもしろいと思ったのか」「なぜこのアイデアが出てきたのか」ということです。
このアイデア出しのレベル1、視点の発見のレベル2は、質ではなく量で区切って進めることが大切です。ここで良し悪しはジャッジしない。

そして、レベル3ではこの視点がどういう構造から生まれたのかを考えます。たとえば、歴史的に、社会的に、このアイデアはどういう位置づけなのか、ということを考える。すると、イノベーションにつながるアイデアがなんなのか、少しずつ見えてきます。「これは今までになかった」というぽっかり空いている盲点が、明らかになってくるのです。

こうして整理されると、考えるとはどういうことか、わかってきますよね。もちろん、今回ご紹介したのは「考えるとは何か?」という問いに対する1つの視点にしかすぎません。もしかしたら、ここまで読んできて、自分の考えは違うと思われた方もいるかもしれません。「そもそも自分ってどういうふうに考えているのかな?」と振り返るきっかけになったのなら幸いです。

では、今回のポイントをまとめておきます。

●問いは、「前例のない挑戦(Primitive)」「中間」「考えつくされた領域(Complex)」の3つに分類できる
●それぞれの問いに必要とされる思考形式は、「直感」「論理」「大局観」
●今の時代に必要とされている「大局観」にたどりつくためには、ブレストが有効

さて、ここまでで、フローへの入り方、感情の活用法、考えるための方法論について解説してきました。どれも、明日から実践できることばかりです。これであなたは、頭の取扱説明書を手に入れたことになります。私たち研究者は、まだ解けていないおもしろい問いを見つけ、それについて集中して考えているとき「楽しい」という感情が生まれます。そう、自分の頭の能力をフル活用して考えることは、快楽でもあるのです。あなたにも、この感覚を味わってもらえたら何よりです。