「拡大」がいいことなんて、思っていません【前編】

  • お金を語るのはカッコいい・スマイルズ流・これからの会社のつくり方 / 遠山 正道

「Soup Stock Tokyo」「PASS THE BATON」など、新しいコンセプトを打ち出すブランドをつくり続ける会社・スマイルズ。創業者であり社長の遠山正道さんは、「やりたいことをやる」ビジネスモデルを貫いている。事業計画がない、拡大を目指さない、お金はたくさんいらない――。“ふつう”に見えない、スマイルズ流・会社経営の真意とは?

個人的なトキめきがビジネスの動機

スマイルズは、「やりたいことをやる」会社です。
マーケティングの結果ここにニーズがあるとか、これからは〇〇の時代だとメディアがいっているとか、そういう「外側の事象」では、動きません。だってそれって、誰がやってもいい仕事じゃないですか。

私はそういう仕事よりも、個人のトキめきを形にしたい。
「こういう場所があったらいいな」「誰も考えないような企画、思いついちゃった」
こんなふうに、個々人が生きてきた中で培ってきたセンスや価値観を凝縮した企画を、ビジネスにつなげていきたいと思っています。

そもそも、何かを始める動機を「外側の事象」に求めると、うまくいかなかったときにもそのせいにしたくなるかもしれません。「マーケティングが失敗だった」とか、理由をつけてやめてしまうかもしれない。そうではなく、自分の中に発意があって始めたことだったら、「何でうまくいかないんだ!」と悔しがりながらも、心に火がつく。踏ん張って、自分なりの答えを探そうとします。

いまの時代、どんなビジネスも続けるのは大変です。どうせ苦労するなら、「やりたいこと」で苦労したい。外から押し付けられる苦労と、自分の「やりたいこと」を実現するための苦労では、意味が全然違います。

もちろん、「やりたいこと」といっても、独りよがりではいけません。社会から求められる意義や、新しい価値であること、自分がやることの必然性がなくては、ビジネスは成り立ちません。それらを踏まえたうえで、スマイルズは、個人の心の中からわきあがる「これはやりたい!」というトキめきを優先して、ビジネスをつくっています。

個展から始まった起業家人生

私が最初に「やりたいこと」をやったのは、33歳のときでした。三菱商事に入社して10年目。優秀な上司のもとで面白い仕事を任されていたのですが、ある日「このまま定年を迎えたら、満足できないだろう」とふと考えました。「会社」ではなく「自分」を主語にしたときに、心の底から「やりたいこと」をやっていない自分に気がついたのです。

既成概念をとっぱらって、「やりたいこと」を考えたとき、絵の個展が浮かびました。私は絵が好きで、学生時代にアルバイトで描いたりもしていました。とにかく、やってみよう。商社マンとして働きながら、個展に向かって1年間で70点の作品を描き上げました。大変だけど楽しい日々。そして個展で作品がすべて売れたとき、私は「やりたいことをやる」人生の一歩を踏み出したのです。

それ以来、私はずっと頭の中にある「やりたいこと」を形にし続けてきました。
スマイルズは、三菱商事の社内ベンチャーとして始まりました。1999年に立ち上げた最初の事業は、食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」。これは、女性がスープをすすってほっとしているシーンがふと浮かんだのがきっかけです。

当時、私は企画書に、「Soup Stock Tokyoはスープを売るがスープ屋ではない」と書きました。Soup Stock Tokyoの価値は、目に見えないところにあります。無添加でおいしいスープを飲んでほっとすることで、人々の生活に彩りが加わる。そんなお店をいいなと思う人が増えて、ファストフードのあり方が変わる。

私たちがやりたいことは、「世の中の体温をあげる」ことです。

スマイルズでは、すべての事業がこの価値観に基づいています。店舗数や売り上げは、目的にふさわしいものであればいい。目に見えない価値をみんなで共有して、丁寧にお店をつくるには、手間がかかります。Soup Stock Tokyoの企画書では、「50店舗で打ち止め」とも書きました。いまは60店舗を超えていますが、18年もの時間をかけてのこと。外食としては、かなりゆっくりしたペースです。

スマイルズでは「50億円の売り上げより、100億円のほうがえらい」という考え方はありません。何万人もの社員を率いて経営するなんて、考えただけでぞっとします(笑)。規模が大きくなることよりも、本来やろうとしたことと事業がずれていないかを、重視しているのです。

スマイルズは「共感の集合体」

「やりたいことをやる」会社は、社員にも同じ精神を求めます。上司に言われたことをやるだけの社員は、スマイルズでは通用しません。「世の中の体温をあげる」という価値観に共感したうえで、わくわくしながら自分なりの行動ができる。会社に依存せず、自分の軸をしっかり持っている社員を採用しています。そういう個性が集まって、一緒に「世の中の体温をあげる」ビジネスを考える。21世紀の会社は上意下達の組織でなく、「共感の集合体」です。

「共感の集合体」では、みんながそれぞれ考えて動くので、社長の仕事が減ります。指示しなくてもプロジェクトが進んでいくので、私のところには最近、大きな決裁があまり回ってこないほど(笑)。でも、それでいいのです。私の役割は、細かい意思決定を下すことではないですから。私がやっているのは、みんなが原点からぶれないように「純度を保つ」ことなんです。

たとえば、スマイルズにはネクタイブランド「giraffe(ジラフ)」という事業があります。日本のサラリーマンはなんだか疲れているイメージがありますが、それってカッコ悪い。サラリーマンは社会を支える重要な役割を担う人たちなのだから、もっと自信をもって、元気を出してほしい。会社に首を絞められるのではなく、自らの首をぎゅっと締め上げ、キリンのように高い視点で遠くを見つめれば、それぞれがそうすれば、世の中も良くなるだろう。そんな想いをこめて、「サラリーマン一揆」をコンセプトにつくったのが、giraffeです。

ところが、一時期、giraffeの売り上げが低迷したことがありました。当時、giraffeは男性に向けたネクタイだけでなく、レディースのアクセサリーなども扱うようになっていました。手を広げすぎて、ブランドの純度が保たれなくなっていたのです。そこで、レディースの商品をすべてやめました。giraffeの一人ひとりが「サラリーマン一揆」という原点に立ち返ったおかげで、giraffeはまた、お客さまから愛されるようになりました。

現場はどうしても、商品を売るためにいろいろなことをしたくなります。その気持ちは大切ですが、常に「大きくすることより、やりたいこと」を優先しないと、気がついたらブランドに不純物がたくさん混じってしまう。ですから、私は細かい指示はしませんが、プロジェクトの様子を見ていて「あれ?」と思ったときに反応します。

「そもそも、何のためにやるんだっけ」
「この企画のどこにトキめけばいいわけ?」

私の問い掛けに、社員は考え始めます。
目の前の仕事は、果たして世の中の体温をあげることができるだろうか、と。

どんな仕事だって、現場はすごく大変です。私はこれまで自分でイチからブランドを立ち上げてきたので、よくわかる。リスクだって、必ずあります。それでも、私たちがやる意味があるかどうか。会社の純度を保ち続けるために、何かあれば必ず原点に立ち戻るようにしています。