「事業計画」に頼らないから、面白いことができる【中編】

  • お金を語るのはカッコいい・スマイルズ流・これからの会社のつくり方 / 遠山 正道

「Soup Stock Tokyo」「PASS THE BATON」など、新しいコンセプトを打ち出すブランドをつくり続ける会社・スマイルズ。創業者であり社長の遠山正道さんは、「やりたいことをやる」ビジネスモデルを貫いている。事業計画がない、拡大を目指さない、お金はたくさんいらない――。“ふつう”に見えない、スマイルズ流・会社経営の真意とは?
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計画がないから新しいことができる

スマイルズには、いわゆる「事業計画」がありません。もちろん、会社として目指すビジョンはあります。ただ、それを期間で区切って、予定するという習慣がないだけです。

計画って、立てるとその通りに実行しなくちゃいけなくなりますよね。そうすると、「予定外の新しいこと」が入り込む余地がない。予算を組んで計画を実行して、終わったらまた次の1年。その繰り返しで進んでいってしまう。先日、スマイルズの社員が行政機関への出向から帰ってきました。彼は、しみじみと「うちの会社って、計画がないから、いつでもなんでもできるんですね」と言っていました。

たとえば、スマイルズは2015年からアーティストとして活動を始めました。芸術祭に作品を出展するなど、活動をずっと続けています。会社がアートをつくったところで、コストはかかっても利益は生まないし、社会貢献にもなりません。でも、だからこそ「世の中の体温をあげる」という価値を重視している私たちが、やるべきではないか。モノやサービスを通して価値を売るとはどういうことかを改めて考えるためにも、アートに取り組むことに決めました。

こういう取り組みは、事業計画に入れづらいですよね。「いつまでに何を達成する」という数値目標の枠に入りきらない試みですから。事業計画を遂行するために仕事をしていたら、アートなんてつくっている時間はありません。

スマイルズには計画がないから、いつでも新しいことができるし、変化できる。計画を立てれば安心するかもしれないけれど、その計画に縛られるリスクも大きいと思います。

仕事の「出口」は自分で見つけよう

最初に、「事業計画はないけどビジョンはある」と言いました。これが、スマイルズの目指す姿です。

スタート地点から1つ1つ、「Soup Stock Tokyo」「giraffe」「PASS THE BATON」といったブランドの樹を植えながら、前に進んでいく。
いろんな樹が育ち、それぞれが素敵に色づき、人々の生活に価値をもたらす。
ブランドが成功したとき、そこにあるのは摩天楼のビルではありません。牛と鳥がいるだけの何もない場所。さらに進むと真っ白で、矢印はあなた自身を指しています。

この矢印が意味するのは、「一通り一緒に仕事をしたら、次はあなたの番」ということ。
ほとんどの会社が、事業計画を右肩上がりのグラフで作って、次年度に伸ばしていくスタイルですよね。スマイルズはそうではなく、螺旋(らせん)です。会社という入口から入って、一緒に仕事をして成長し、ぐるっと一周したら次は「自分は何をやりたいか」を考える。社員の人生を、いい形で巻き込み、背中を押す会社でありたいと思います。

そんなスマイルズの思想を具現化している人は、たくさんいます。たとえば、立ち上げのころからの社員で、クリエイティブディレクターの平井俊旭。彼は起業後のいちばんしんどいときを一緒に乗り切ってくれた仲間です。クリエイティブ部門のリーダーとして「Soup Stock Tokyo」を軌道に乗せた後、独立しました。

いまは琵琶湖のそばに位置する、滋賀県高島市に移り住んで「雨上(あめあがる)株式會社」という会社をやっています。地域のブランディングを行いながら、素敵なマンションで一汁三菜を作って、いい感じで頑張っていますよ。

私が目指すのは、彼のような人を輩出していける会社です。会社のためだけに働くのではなく、仕事を通して自分自身の人生を発見してほしい。何のために働くのか。その出口は、自分自身で見つけてほしいのです。

仕事と人生がもっと近づくべき

高度成長期って、仕事と人生が離れすぎた時代だと思います。どんどんモノを作って売って、会社を大きくする中で、「個人」が置き去りにされてしまいました。私はよく、「20世紀は経済の時代、21世紀は文化(価値)の時代」と言っています。経済の時代が終わったいま、もっともっと「個人」にスポットライトがあたるべきです。私がいまいちばん注目しているのは、ユニークなアイデアをもった「個人」。その人たちのやりたいことを応援するのが、とても楽しい。

実際に、スマイルズでは個人の夢をかなえる人が、続々と生まれています。たとえば、「PASS THE BATON」で店長として働いていた、武宏(たけひろし)。彼は、「バーを開きたい」という夢を持っていました。そこで、実力を認めてもらうために「PASS THE BATON」で成績トップを達成し、MVPの表彰式に出た足で副社長に企画書を渡しました。

これだけ本気なら、やらせてみたいと思いますよね。しかも、大きな組織をつくるわけでなく、個人の店舗ですから、出資は300万円くらい。みんなで応援し、いま、彼は新宿一丁目で「Toilet」というバーを営んでいます。最近出店した「World Meatball Classic」も、とても良い店です。

会社の中だけではありません。森岡書店をつくった森岡督行さんなど、魅力的な個人への出資も積極的に行っています。森岡書店は、5坪の店で1冊の本だけを売るという、エッジの効いた本屋さん。こんなアイデア、彼以外に思いつく人いないですよね。

スマイルズには、経済的なリターンだけを求めて投資するという発想はありません。
個人の夢を応援するのは、「その人しかできないこと」が実現するのを見て、一緒に楽しませてもらおうという気持ちからです。小さくて居心地のいいバーをつくるとか、5坪の書店で人を呼ぶとか、私にはできないことばかり。

そういう夢をリスペクトして応援していって、50個くらい会社が生まれるといいなと思っています。独立した人たちがスマイルズの周りに集まって、ムラのようなコミュニティができる。コミュニティがいい感じであれば、さらに外から新しい人や情報が集まってくるでしょう。そんな将来を夢見て、種をまき続けているところです。