第1回 人工知能にできること、できないこと

近年、人工知能が注目を集めている。人工知能とはどういうもので、私たちの生活をどんなふうに変えるのか、気になっている人も多いのではないかと思う。この連載では、ごく一般の学生や社会人を対象として、人工知能とはなにか、どんなことができて、そしてまた、どんなことができないのかを明らかにしていく。

いま人工知能が注目を浴びている理由

そもそも、これまでのコンピュータと人工知能の違いについて考えたことはないだろうか。どちらも人間の思考を肩代わりしてくれるものには違いない。なのに、なぜ、今、人工知能という言葉が注目を浴びているのだろうか?
極端に言えば、電卓程度の機能があるものは全て広い意味での人工知能と言える。ではこれまでのコンピュータと、いま注目されている人工知能との根本的な違いはなにか。ひとつのキーワードは深層学習(ディープラーニング)である。

深層学習とは、それまでのプログラミングと違い、コンピュータが勝手にいろいろなものごとの性質を捉え、これまで機械には不可能だった高度な判断や識別できる学習方法を言う。
深層学習が発見されて以来、人工知能は飛躍的にできることが増えた。これが今、世の中に起きているAI革命の根本的なところなのだ。これまではどうしても人間でないとダメだと思われていた作業が次々とコンピュータによって代替されていく。これが今起きているAI革命である。私は電卓やゲーム機程度のごく基本的な機能を持つコンピュータを第一世代AI、インターネット接続機能を備えた現代のPCやスマートフォンを第二世代AI、そして深層学習を備えた最新の人工知能を第三世代AIと呼ぶことにしている。

では第三世代AIは何が根本的に違うのか。第二世代までは、あくまでも人間のプログラマーが知恵を絞ってコンピュータが計算したり、データを分析したりする部分をプログラミングしていた。これは結局のところ、プログラマーの能力をコンピュータが決して超えることはないことを意味する。
ところが、第三世代AIでは、人工知能は与えられたデータから勝手に学習し、自分なりの考えを持つようになる。第三世代AIはときにプログラマーの想像を遥かに超えた結果を生み出すことがある。これが根本的な違いだ。それまではプログラマーの想像力の範囲でしか動いてなかったコンピュータが、深層学習によって人間の想像を遥かに超える成果を生み出すようになったのだ。

第三世代AIができること

「第三世代AIは、どのようなことまでできるのか?」

第三世代AIの開発を生業とする私がよく受ける質問である。
私の答えはこうだ。

「人間ができる単純作業は、だいたい第三世代AIができます」

もちろん、ロボットの部品の問題や、センサー類の問題はある。たとえばカレーの匂いを嗅いで「おいしそう」かどうか判断することはまだセンサーの問題で難しい。けれども、写真に映った女の子が可愛い系なのかキレイ系なのかは判断できるし、探し物絵本「ウォーリーをさがせ!」からウォーリーも探せるし、映画「マトリックス」を見て「マトリックスとは何か?」という質問に答えることもできる。似顔絵も描けるし、歌も歌える。さらにもともとコンピュータは複雑な数式を理解して解いたり、人間の何億倍もの速度で計算したり、他の人工知能と通信したりすることもできる。

私のもとには毎日のように「この単純作業を人工知能に置き換えることはできないだろうか」という相談が舞い込む。私たちは顧客のニーズを満たすAIを開発する。第三世代AIの開発は通常の開発とは勝手が違う。ある仕事をAIに置き換えようとしたとき、まずはどのようなタイプのAIならその仕事をこなすことができるか考える。AIには様々なタイプがあって、それぞれ得意不得意が異なるからだ。そして、AIが学習するための環境をプログラムによって作る。

AIの学習には大量のデータが必要なのだが、現実には大量のデータが存在しないことの方が多い。そこで、データを水増しするためのプログラムを書くことになる。それまでのプログラマーの仕事は、積み木でビルを作るようにゼロから全てを組み上げることだったが、AIプログラマーの仕事は、赤ん坊が積み木を上手く積めるように、積み木を買ってきたり、励ましたり、お手本を見せたりする仕事にかわる。同じことをしているようでアプローチが違うのだ。

AIは私たちの仕事を奪うもの?

私の顧客は多岐に渡っている、国や大学はもちろんのこと、金融、証券、医療、薬品、製造、物販、物流、畜産、農業、教育、出版、宇宙関係の会社もある。あらゆる業界が第三世代AIの可能性に注目している。そして実際、目覚ましい成果が生まれている。

AIに仕事を奪われることを心配する声もあるが、それは杞憂だと私は思っている。私は仕事上、AIに置き換えられるかどうか判断するために建築現場や工場といった実際の現場を訪れる。そこでは、人間が、まるで機械のように正確に休みなく働いている。いまのところ人間しかできない仕事をしているが、人間的にのびのび生き生きと働いているわけではない。彼らは機械と同じように働くことを求められ、機械によって決められたペースで淡々と働いている。そういう職場は離職率が高い。つまりそれはできればやりたくない仕事ということだ。こういう職場は世界中にあり、数百万から数千万の人たちがそういう単純労働に従事している。AIはそういう楽しくない労働から人々を解放する可能性を持っている。

ではAIにできないこととはなんだろうか。
それは仕事を好きになることである。AIに好き嫌いはない。そもそもそんな感情など最初から持たされてはいない。仕事を楽しむこともない。AIに「君は明日から仕事をしなくていいよ」と言っても、”それ”は境遇を悲しんだり嘆いたりしない。

AIはあなたが好きな仕事を奪うことはない。反対に離職率が高いことを心配するような職場は、AIによってどんどん代替されていく。その結果、人々は好きなことだけを仕事にして生きていける可能性がある。

私は文章を書くのが好きだ。だから本を何冊も書き、ブログを日常的に書き、いろいろな媒体で連載を持っている。この仕事は、AIには代替できない。代替する意味がないからだ。

もうひとつ、AIにはいまのところどうしてもできないことがある。
それは人生を生きることだ。愛されて生まれ、育ち、恋に落ち、憧れ、挑戦し、挫折し、達成する。そういう喜びを知ることはできない。とりあえず今のところは。

<今回のまとめ>
●AIは、第一世代、第二世代、第三世代にわけられる
●第三世代AIは、「深層学習」によってこれまでにない成果を生み出している
●AIは人の仕事を奪うものではなく、人がやりたくない仕事を代替してくれるもの

さて、次回は人工知能で実現した、「絵」や「写真」にまつわる驚くべき実態を紹介しようと思う。