「群集心理」はいつの時代もさほど変わらない【前編】

  • お金を語るのはカッコいい・人生を変える投資の発想法 / 岡崎 良介

日々、世界経済や株式マーケットの動向を分析し、近未来を予測するストラテジスト・岡崎良介さん。投資家から厚い信頼を得ている岡崎さんから、日常生活にも役立つ「投資的な発想法」について学ぼう。

「お金の流れ」をいかに読むか

私の肩書きにある「ストラテジスト」って、何をする人でしょうか。
直訳すると、「戦略家」。歴史好きな人なら、『三国志』に出てくる軍師・諸葛亮を思い浮かべるといいでしょう。自分たちの武力を正しく見積もったうえで、敵の心理を読み、地形を調べ、「戦い方を考える」役割ですね。

金融のストラテジストが考えるのは、投資でいかに有利に戦うか。その戦略を立てるために必要なのは、「お金の流れ」を読むことです。ここでいう「お金」とは、株式や債券、為替、商品など、さまざまなマーケットを動き回るお金のこと。マーケット参加者(投資家)が何を考え、どう売買するか。ストラテジストが予想するのは、敵の心理ではなく、「群衆心理」です。

戦略を立てるプロといっても、われわれがふだん見ているデータは、決して特別なものではありません。日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)、NYダウといった各国の主要マーケットや、原油価格、為替、各種経済指標など、誰でも見られる公開データばかりです。じゃあ、個人投資家とどこが違うのか。

ストラテジストは長年、データやニュースを丹念に観察、分析、思考してきた経験から、いつもと違う「ほころび」を見つけたときに、それを見逃しません。そしてそのたびに、過去何十年もさかのぼってデータを調べ、「傾向と対策」をインプットしていきます。これが、個人投資家との違いです。

たとえば、データをチェックしながら、「アメリカの長期金利の上昇が続いているな」と気づいたとします。これが、「ほころび」です。そこで過去のパターンを見ると、アメリカで長期金利の上昇が続くと、ドル高・円安が進み、日本国内の自動車関連など輸出型企業の株価が上がる傾向にあるとわかります。現在と過去を照らし合わせ、未来を予測する。そして「輸出型企業の株を買い増すチャンス」といった戦略を立てるのが、われわれの仕事です。

「群衆心理」は繰り返す

不思議なことに、過去のデータを見ていると、群衆は似たような行動を繰り返しています。典型的なのが、バブル。ちょっと景気が良くなると、市場参加者が「まだまだ上がる」と思って株を買い始め、やがて加熱してバブルがはじける。リーマンショックのように大きなバブル崩壊で深い傷を負っても、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」で、またどこかでバブルが始まる。

現代は、テクノロジーが格段に発達した時代です。スマホが普及し、いつ、どこにいても一瞬で相手とコミュニケーションがとれるなんて、かつては思いもよらなかったことでしょう。1人1人の人間だって、日々学習し、進化しています。環境への意識が高くなったり、人権に関する理解が深まったり、時代とともに、私たちは前に進み続けています。

ところが、「群衆」はちょっと違います。いくら個人やテクノロジーが進歩しても、10人、100人と集まると、人は群衆心理に流されて、進化を忘れてしまいがちです。いつの時代にも期待を背負う政治家が出てきて、圧倒的な支持を得るが、やがて慢心が始まり、人々の心が離れ落ち目になっていく。アイドルの人気が出て、頂点に達したところで熱狂が冷めていき、ほかのアイドルに目が移っていく……。

群衆は「欲望を持ち、それをかなえようと希望し、やがて失望する」というサイクルを繰り返しています。インターネットによって、情報が一瞬で拡散するようになっても、人間の本質はそれほど変わっていません。投資では「群集心理」を読むことが大事なので、そのような人間の行動パターンについても、理解しておかなくてはいけません。

「トレードオフ」の感覚を身につけよう

もう1つ、投資的な発想に欠かせないのが、「トレードオフの感覚」です。
私たちは、日々、いくつかの選択肢から1つを選びながら生きています。就職先や結婚相手のような大きな選択では、そのプロセスを覚えていることでしょう。それ以外でも、コンビニで何を買うか、どんな映画を観るかなど、私たちは日々の暮らしの中で、無意識のうちに資源や資本を何に振り向けるかの「選択」をしながら生きています。

あなたがいま、この記事を読んでいるのも、時間というリソースを「FROGGYを読む」行為にあてるという「選択」をしたからです。そうやって知識を得る代わりに、たとえば眠って体力を養うとか、ゲームで遊んでリフレッシュするといった、ほかの行為を犠牲にしています。

この世に完璧な選択肢というのはありません。「こちらが立てばあちらが立たぬ」もので、1つのメリットを選ぶと、ほかのメリットを捨てなければいけません。これを、経済用語で、「トレードオフの関係」と呼びます。大好きだけどカロリーが高いステーキをガマンして、そんなに好きではないけどヘルシーな焼き魚を食べるというのは、典型的なトレードオフですね。

職業病なのか、私は外食したときにメニューを決めるのが、誰よりも早い。「食べたいもの」「カロリー」「食材のバランス」などの条件を瞬時に思い浮かべて選択するので、一瞬で決まります。家族からは、あれこれ悩むのが楽しいのに、つまらない人だと言われますが……(笑)。

投資というのは、トレードオフの「究極の姿」です。ふつうのトレードオフは、メニューのように目の前の「AかB」から選択をします。ところが投資の場合は、Aという会社が未来にどれだけ成長するかを考えて、Aを選ぶかどうかを決める。つまり、「現在と未来の比較」という、時間を超えたトレードオフをしているのです。

さらに、投資は自分のトレードオフだけでなく、「みんながどうトレードオフするか」を考慮しなくてはいけません。投資は人気投票ですから、1人が熱狂的に支持しても、株価は上がりません。大勢が買う株の株価が上がっていくわけで、「みんな」から支持されることが大切です。たとえばすごく気に入ったサービスがあるとして、「自分はいいと思うけど、まだ少数派だな。“みんな”はいつごろ使い始めるだろう」と考えるのが、投資的思考です。

群集心理と、トレードオフ。投資の戦略を立てるのに、この2つは欠かせないキーワードです。逆にいうと、投資をすることで、人間の行動パターンを学んだり、より早く正しい意思決定を行ったりする訓練ができます。いままで漠然と投資をしていた人は、すぐにでも意識し、実践するようにしてみてください。