マーケットは「善悪」ではなく「損得」で動く【後編】

  • お金を語るのはカッコいい・人生を変える投資の発想法 / 岡崎 良介

日々、世界経済や株式マーケットの動向を分析し、近未来を予測するストラテジスト・岡崎良介さん。投資家から厚い信頼を得ている岡崎さんから、日常生活にも役立つ「投資的な発想法」について学ぼう。
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資本主義を知って飼いならす

投資の世界は、みなさんの日常生活と大きく異なる点があります。それは、「損得」を基準に置くということです。日常生活では、何かを判断するときに「善悪」を持ち出すことが多い。親が子どもをしつけるときも、社会的に見て「善か悪か」でほめたり、しかったりしますよね。

投資の場合はそうではなく、徹底して「利」のあるところにお金が流れます。投資家が行動するときの判断基準は「もうかるか、どうか」。損得勘定をネガティブにとらえる人は多いですが、お金というわかりやすい基準があるからこそ、投資の世界はとてもフェアなのです。

われわれは国籍や性別、年齢、肩書きに関係なく、マーケットに参加できます。誰もが将来性のある投資先を見つけて一攫千金の夢を見ることができる。たとえ中学生でも、画期的な投資戦術を編み出せば、それが国際的なモデルとして広く知られる可能性があります。そしてすべての起業家が、マーケットからお金を集めて、事業を大きくするチャンスを持っています。

「損得」を生むお金は、世界の共通言語です。モノやサービスを交換するためのお金が発明されたことで、交易が始まり、人が行き交い、言語が異なる人たちともコミュニケーションを取るようになった。身分が固定されず、どんな人でも夢を見られる社会になった。人類が豊かな生活を送れるようになったのは、人々が「損得」で行動するマーケット、つまり資本主義のおかげです。

一方、市場は失敗もします。リーマンショックのように、一部の強欲な人間が利益を追求し過ぎて市場全体を壊してしまったり、もうかっているからといって武器を売る会社や公害を出している会社に投資し、世界に悪影響を及ぼしたり……。やり過ぎること、本質的な失敗を犯すことは、市場のクセといってもいい。

それでも、私有財産が固定化されず、一般市民が成功を夢見ることができる社会システムは、いまのところ資本主義以外にみつかっていません。それならば、資本主義の中でマーケットをどう飼いならすかを考えるのが、人間の仕事ではないでしょうか。

人間がAIから学ぶ時代になった

マーケットは誰もが参加できる、フェアな場所です。とはいっても、人間が「損得」に基づいて常に正確な判断をできるかというと、それが非常に難しい。

たとえば、2011年3月11日14時46分に東日本大震災が発生したとき、情報が入ってから15時の取引終了まで、約15分間、東京株式市場は開いていました。その間に、瞬時に未来を判断し、全部手じまいして売ったという投資家を、私はまだ見たことがありません。ましてや、その15分間で福島第一原発の事故や、東京電力の株の大暴落まで見抜けた人など、いなかったのではないでしょうか。私自身も、「ひとまず売れるものは売っておいて」という指示をしたくらいで、「日本株を全部売る」というような大胆な判断はできませんでした。

このような人智を超える自然災害、戦争や大規模テロ、リーマンショックのような巨額の債務危機など、確率は極めて低いけれど、起きると多大なショックをもたらす出来事のことを、「テールリスク」と呼びます。テールリスクがあったときにその全貌を知り、対処するまでには、どうしても時間がかかります。

しかし、これからは、AI(人工知能)がテールリスクのビッグデータを取り込み、学習し、異常事態であっても対処法を指南してくれるようになると思います。

先日、プロ棋士の藤井聡太さんの記事を読んでいたら、彼がAIを搭載した将棋ソフトを使って、苦手だった序盤戦を克服したという話が出ていました。いまは序盤の攻めの速さに定評があり、快進撃を続けていますが、これはAIのおかげだというのです。「王将の囲いを最小限にとどめ、積極的に攻めるというのは、恐怖心のないAIだからできること。その方法をうまく採り入れている」と評されているのを見て、なるほどと思いました。

これからは人間がAIを教える時代から、AIに人間が学ぶ時代になっていく。AIはわれわれに、世界の全体像をより早く、感情を排して正確に見せてくれます。人間はAIから学び、細部を掘り下げ、より良い未来を考えるのが仕事になっていくでしょう。

ユニフォーム型社会の発想を変えよう

アメリカの投資家を見ていて感心するのは、みんな「自分」を信じて投資しているところ。例えば、電気自動車をつくっているテスラモーターズ。自動車の価格が高いし、供給量もまだ少なくて実績が出ていないにもかかわらず、時価総額はGMやフォードより高い。Amazonだって、そうです。ジェフ・ベゾスが出てきたとき、「大天才か、大馬鹿か」と言いながらも、利益が全然出ていない会社の株を買う人が大勢いました。

アメリカの投資家は、人の意見なんて聞きません。会社の規模や、政府の方針なんて関係ない。「バリューがあるか」「それに対して価格はどうだ」、この2つだけ。一方、日本でいま投資ブームが起きているのは、「貯金から投資へ」という政府がつくったスローガンがあるから。投資が広まるのはいいことですが、お上から言われて買うというのでは、まだまだです(笑)。

なぜ、日本では「自分」を信じて投資できる人が少ないのか。それは、「ユニフォーム型の社会」が長く続いてきたせいだと思います。高度成長期以降、日本ではサラリーマンが一気に増えました。みんなと同じスーツを着て出社し、同じものを食べて、働いて……。そういう生活をしていると、自分が「本当に好きなもの」が何か、わからなくなります。

前編で「トレードオフ」の話をしましたが、投資ってまさに、自分が「これだ」と思うものを選び続ける行為。ですから、自分が何に価値を置き、優先するかというトレードオフの感覚を持っていることが不可欠です。それなのに、自分の「好き・嫌い」すらわからない人が、自分の価値観を信じて投資先を選ぶなんて、無理なことだと思います。

最近は、インターネットを使った起業が増えたり、1社に縛られない自由な働き方が推奨されたりと、ユニフォーム型の社会が終わりつつあります。この流れの中で、ぜひ身近なことから、「自分は何を選ぶのか」を意識してみてください。スーパーで買う食品のメーカー、閲覧するウェブサイト、週末に観る映画、なんでもいいんです。「私はなぜこれを選ぶのか」を意識すると、自分の行動パターンが見えてくるはずです。

それができたら、次は「みんなはどうなのか」を考える。なぜ、このメーカーは人気があるんだろうと分析し、その中で自分の立ち位置を振り返る。これができれば、あなたはアナリストとしての一歩を踏み出したことになります。

こういう考え方を身につけると、ふだんのコミュニケーションが変わります。好きなものを、ただ好きというより、社会での客観的な受け止められ方を踏まえつつ、「私はこう思う」と説明できたら、かっこいいですよね。

自分の内面を掘り下げ、信念をもって投資する人が増えてほしい。そうすればきっと、日本はもっともっと、洗練された国になると思うのです。