とんがった社風を取り戻せ!【後編】

  • 上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・ヤマハ 中田卓也 取締役代表執行役社長 / 中田 卓也

世界最大の総合楽器メーカーである、ヤマハ。2013年に就任した中田卓也社長は、個性的でわくわくするものづくりを目指し、社内を変革してきた。自身も音楽を愛する中田社長が見据える、楽器・音響ビジネスとヤマハの未来とは。
「音楽」はコモディティ化しない。そこに商機がある。【前編】を読む

タコツボ組織にメスを入れた

社長に就任したとき、まず実行したのが組織改革でした。
ヤマハは楽器メーカーとしては、4000億円超の売上高で世界トップを誇りますが、製造業全体で見れば決して大企業ではありません。それなのにピアノ、管楽器、弦楽器など、製品ごとに事業部が分かれていて、それぞれが開発、製造、営業の機能をもつ縦割り組織でした。しかも、横のつながりが薄い。狭い事業部の中だけで社員が仕事をする、典型的なタコツボ化現象が起きていました。

前編で述べたとおり、楽器を売るというのは、コストや利便性を追求するコモディティ(汎用品)とは対極の世界にあります。あくまでも「好き・嫌い」の感性勝負で、お客さまの多様な価値観に応えていかなくてはいけません。そのためには、社員みんなのアイデアや技術を結集して、高め合っていく必要がある。しかし、タコツボの中にいては、それはできません。

「来月1日に組織変更する」と宣言したのは、就任した翌月。縦割りの事業部を廃止して、製造本部、開発本部など、機能別の体制に移行すると発表しました。現場はみんな、「そんな短期間では無理です」と反対しました。たしかに、1ヵ月で新体制をスタートさせるなんて、メチャクチャな話です。

でもね、「いつまで待てばできるのか」と現場に聞くのは、良くない。人は結局、時間があればあっただけ、使ってしまうんです。まじめな社員ほど、完璧に近づけようとしていつまで経ってもスタートできない。だから無理やりでもスタートさせて、必要に応じて改良していけばいい。いくら現場が「できない」と言っても、私は「それをやるのが君たちの仕事だ」と、一歩も譲りませんでした。そうすると、ゴタゴタしながらも、まあ何とか形になっていくものです。

組織変更の一番大きい効果は、開発現場で、分野を超えて技術者同士が刺激し合うようになったこと。たとえば、アコースティックピアノでありながら電子音が鳴らせて、音量も調節できる『トランスアコースティック™ピアノ』という製品があります。ギターの開発者がこの技術を知って、ピアノの担当者に相談し、実現したのが『トランスアコースティック™ギター』です。こういうことは、縦割りの組織ではできませんでした。

もともと、当社に入ってくる社員はみんな音楽が好き。一緒にいれば、自然と新しい楽器についてのアイデアや、技術について話し始めます。大事なのは、そのような環境をつくることだったのです。

拠って立つための「理念」を提唱

組織を変えるのと同時に、みんなで理念を共有する作業も行いました。
楽器・音響ビジネスでは、お客さまの「感性」に寄り添うことが求められます。しかし、「感性」には、正解がありません。正解がないからこそ、主観に頼って開発を進めると、全員がバラバラなものをつくり、「ヤマハらしさ」を失ってしまう恐れがあります。

個性ある製品をつくりつつ、「ヤマハらしさ」の原点から外れない。そのためには、社員が迷ったときに拠って立つ、「理念」が必要です。

ヤマハには、創業以来の社訓があります。「本社に勤務する者は勉学修養を心掛け、親切至誠を以って事に当り……」と続くもので、内容はすばらしいのですが、いまの若い人にはちょっと長くて頭に入りづらい。

そこで、理念を短く、わかりやすい言葉で「ヤマハフィロソフィー」にまとめました。「感動を・ともに・創る」というコーポレートスローガンを軸に、「企業理念」「顧客体験」「品質指針」「行動指針」という切り口を、すべて一言で表現しています。

たとえば、「顧客体験」。これはお客さまがヤマハの製品に触れたときに、どんな気持ちになってほしいかを4つのキーワードで表しています。「夢中になれる『愉しさ』、心惹かれる『美しさ』、自信を持てる『確信』、可能性に気づく『発見』」――。開発者はみんな、この4つに当てはまるかを照らし合わせて企画を出します。そうじゃないと、会議で「どこに『愉しさ』があるんだ?」「はっとする『発見』がないじゃないか」と詰められるので、まあ、頭に叩き込まれますよね(笑)。

こうやってみんなの目線を合わせて、組織としての「強さ」を発揮できるようにしています。

仕事は本来、「クリエイティブ」なもの

社長に就任して5年目。組織改革や理念の共有、評価や人事制度の変更など、あらゆる方面から、ヤマハらしい挑戦する風土、個性的な商品を生み出す土壌をつくろうと手を尽くしてきました。社員は確実に変化しています。その結果、自動演奏機能が付いたアコースティックピアノ『ディスクラビア エンスパイア』や、グランドピアノに迫る演奏感の電子ピアノ『クラビノーバ CLP-600シリーズ』、細部にこだわり抜いたエレキギター『REVSTAR』など、話題性のある商品が出ています。

私の夢は、5年後、10年後にヤマハの商品を買った方が、そこにロゴマークがついてなくても、「あ、これってヤマハだよね」と思ってくれること。われわれの価値観、ブランドの個性が商品ににじみ出て、お客さまに感動を与える。そして、その方の人生が豊かになる。そうやってヤマハが、世界にとって「なくてはならない会社」になることです。

私はいま、全力で夢に向かっています。社長に就任して以来、ほとんど休まず、家でも仕事をしています。つらいなんて、思っていません。むしろ、楽しくて仕方がない。

昔から私は、目の前の仕事を楽しんできました。「仕事がきらい」「面倒」と言う人は、そもそも最初から安易なゴール設定をして、がんばろうとしない。新商品を企画しろと言われたから、期日までにそれっぽいプレゼンをするとか……。そんな低い目標を立てて仕事をしても、楽しくありません。結果が見えていることをこなすのは、単なる作業。仕事とは、もっとクリエイティブで、わくわくするものだと思うのです。

仕事をクリエイティブにするために必要なのは、最初に「正しいゴール」を設定することです。たとえば、私は30歳でシーケンサー(自動演奏装置)の開発を任されました。そのとき、ふつうなら競合他社の商品を見て、機能を追加しようとか、安くしようと考えます。それは、「シーケンサーを作る」ことをゴールにしているからです。

今回の「正しいゴール」は何か。メンバーと議論を重ねる中で、1つのコンセプトが見えてきました。当時、シーケンサーは大きいうえに、音源やミキサーといった別の機材をつなぐ必要があったので、持ち運ぶことができませんでした。「どこでも、手軽に作曲できる機械があれば、売れるのではないか」。そうやって「手軽さ」をゴールとし、必要な開発を進めていった結果、音源などを内蔵したポータブル型のシーケンサーが完成しました。これは世界初のアイデアで、当社の大ヒット商品になりました。

このように、「正しいゴール」を設定するには、与えられた仕事の「本質」を考え抜かなくてはいけません。何のため、誰のためにその仕事があって、自社がやる意味は何か。他社ができない付加価値とは、何か。必死になって本質を考え抜き、ゴールを見つけたら、実現するまでひたすらやり抜く。それを繰り返すことでしか、真の成長は成し遂げられないと思います。

社長って、究極のクリエイターです。ゼロから理想の絵を描き、人を動かし、形にしていくのですから。その日、その一瞬を大事にしながら、夢がかなうまで、全力でいまの仕事をまっとうしたいですね。