どん底の「苦労」がなければ、強固なビジネスモデルは生まれなかった【後編】

  • 上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・ファンデリー 阿部公祐代表 / 阿部 公祐

オフィスに入ると、ずらっと並んだ机で明るく電話応対をする女性たちの声が響く。彼女たちは全員、栄養士か管理栄養士の有資格者。ファンデリーでは、この栄養士たちが食や栄養の相談といったソリューションの担い手だ。健康食の宅配事業と企業向けマーケティング支援事業で成長を続け、2015年に東証マザーズ上場を遂げたファンデリー。阿部公祐代表が栄養士の「想い」に着目し、掲げた食ビジネスの夢とは。
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お客さまの一言で「ニーズ」に気づく

起業した当時の「食材をお届けするサービス」は、栄養士のカウンセリング付きと言っても、他社との差別化が十分ではありませんでした。「なぜ利益が出ないのか」と散々悩みましたが、結局は、お客さまに喜んでいただけるサービスができていなかったのです。

では、どうすればもっと喜んでいただけるのか。ヒントをくれたのは、他ならぬお客さまでした。糖尿病の持病がある方がぽつりと、「食材の宅配ではなく、料理を届けてくれたらいいのに」とおっしゃったのです。

たしかに、食事の制限を抱える方が、毎日の生活の中でカロリーや塩分を計算し、調理するというのはとても大変なことです。作るのに精一杯で、味のことは二の次になってしまうかもしれません。自分の疾病に合わせた栄養価で、しかもおいしくて冷凍で保存のきくお弁当が届けられたら、その方たちはどんなに助かるでしょう。
お客さまのニーズは、ここにあったのです。

これに気付いたことが、ビジネスモデルを転換するきっかけとなりました。
栄養士が開発した疾病別のメニューを冷凍にして、宅配便で全国のお客さまに届ける。カタログを制作し、それを医療機関に置いてもらい、それを持ち帰った患者さんからご注文をいただければ、営業コストも抑えることができる。

新しいビジネスモデルの原型ができた瞬間でした。

前編でもお話したように、3年間の赤字で、会社にはほとんどお金がありません。そんな中、どうやって新しいビジネスモデルをスタートするのか。迷っているひまはありません。お金をかけずにできる方法を、考えて工夫するしかないのです。

少ないロットでお弁当を作ってくれる食品工場を探し回り、苦労しましたが、なんとか契約を取り付けました。メニューは社員の栄養士が考え、お客さまへのフォローも訪問ではなく、電話で対応することにしました。

カタログを設置してもらう先は、一般の流通ではなく、医療機関に絞ろうと考えました。当社の食事を必要とされる方はどこにいるか? それは病院である、と考え、専門家から当社の食事を推薦してもらうモデルを考えました。病院を1軒1軒訪問して、「食事の制限がある患者さんに渡してください」と提案して回りましたが、最初の反応は散々なもの。でも、すぐに理解は得られないのは仕方ないと腹をくくりました。簡単に上手くいったら、強いビジネスモデルはできないからです。とにかく必死に、粘り強く営業を続けるうちに、少しずつ医療機関のネットワークが広がっていきました。

あとは、肝心のカタログをどうやって制作するか。せっかくいいサービスができつつあるのに、カタログを印刷するどころかコピー機を買う余裕すら、会社には残っていませんでした。

お金がないことが功を奏した

どうにかして、カタログを制作できないか。そんな時、知人から「広告主を募って、広告を出稿してもらったらどうか」とアドバイスをもらい、すぐに「会社四季報」をめくって、食品メーカーなどの会社に次々と電話をかけて営業しました。

最終的に9社から広告をいただくことができ、そのお金でカタログ制作の費用に充てました。料理の写真を撮影したり、特集ページをつくったり、取材をしたり……。できることは全部自分でやりました。自分でやれば、お金はかかりませんから。

こうして2004年4月、健康食通販カタログ『ミールタイム』を創刊。現在、年に4回発行しています。提供するメニューは、250種類以上。旬の食材を使ったお弁当を食べていただくために、発行ごとにメニューの半分を入れ替えることを徹底しています。

『ミールタイム』の表紙には、医師から指示が出ている食事制限数値や血液検査データを記入する欄があります。これをもとに、当社の栄養士が電話でカウンセリングを行い、一人一人の症状に合うメニューを勧めます。医療機関の医師や栄養士からのご紹介と、当社栄養士のカウンセリング。医と食の専門家が関わり、食事宅配とアドバイスの両方をハイブリッドで行うことで、お客さまの血液検査数値の改善を目指していきます。

お客さまの役に立ち、喜んでいただける「結果」が積み上がると同時に、医療機関との連携も深まっていきました。現在、『ミールタイム』を活用していただいている医療機関、保健所、介護施設の数は、約1万5000ヵ所。調剤薬局もあわせると、1万9000ヵ所以上になります。

ビジネスモデルの転換を図ろうとしたとき、私はどん底の状態で、悩んでいました。何をするにもお金がない。だからこそ工夫をして、いまのスタイルができあがりました。いま思うと、人材採用も、お金がないことが功を奏しました。求人広告を出せないので、大学に直接訪問して、リクルートを行ったのです。このおかげで、全国の栄養士養成施設である学校とパイプができ、いまでもよい関係を築いています。

高齢化が進み、生活習慣病の方が増えているなか、食事宅配サービスの市場は年々大きくなっています。これをチャンスとみて参入する業者も増えていますが、10年以上かけて構築した医療機関ネットワーク、そして何よりもお客さまからの信頼が当社の強みであり、大きな差別化要因となっています。

あなたも起業家になれる

当社はいま、「ヘルスケア総合企業」を目標に掲げています。きっかけは、やはりお客さまからの声でした。

当社の栄養士が日々お客さまと対話する中で、食事だけでなく「薬はこれでいいのでしょうか」「手軽にできる運動はありますか」など、たくさんのご相談をいただきます。そういう1つ1つのお悩みに対して、「食が専門なのでわかりません」と言って突き放したくない。何とか、応えることができないか。お客さまの健康、ひいては幸せのために、もっともっと役立ちたちという想いが、「ヘルスケア総合企業」という次の夢を生んだのです。

すでに始まっているのは、栄養士のコミュニティサイトや、医療機関に所属する管理栄養士の方々が考案する健康食レシピのサイト、といったウェブサイトの運営です。2015年6月には東証マザーズに上場し、お取引先からの信用も高まりました。食の分野に留まらず、様々な商品やサービスをお客様にお届けし、いずれは世界中の人々にもっともっと健康的で楽しい毎日を過ごしていただけるよう、「ヘルスケア総合企業」を目指していきます。

起業してなかなか芽が出ないが、やめないで、とにかく続けて、ここまで来た。夢を持ち、目を輝かせて生きたいという気持ちを、捨てないでやってきました。

大学を卒業してサラリーマン生活を送っていましたが、起業家の方々と出会って憧れて、「社会から恩恵を受け取る人間でなく、与える側の人間になりたい」と思うようになり、私は変わりました。

人生には限りがあります。だからこそ私は一生懸命生きて、次世代により良い社会を残したいと考えています。私は27歳で起業しましたが、「自分の考え」を口に出して言い続けることで「想い」に変わり、やがて「信念」になって、つらいときも自分を支えてくれました。

特技や性格なんて、関係ありません。もし、あなたにやりたいことがあるのなら、すぐにでもやったほうがいい。まずは、自分の夢を周囲に伝えてみてください。何度も、何度も伝え、行動していくうちに自ら成長していき、また、応援者が現れてきます。きっと道を拓くことができるはずです。