IT企業だからこそ、クロージングは絶対に「人」がやるべきだ【後編】

  • 上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・IBJ 石坂茂社長 / 石坂 茂

婚活業界において、ダントツの成婚率を誇る会社がある。その名も、IBJ。質の高いカウンセラーをそろえ、地域の「仲人さん」たちをネットワーク化し、最強の布陣で婚活をサポート。口コミで利用者を増やし、業界唯一の東証一部上場、2016年度には10期連続の増収増益を果たしている。「最強の婚活ビジネス」を成功させた起業家・石坂茂社長に、その肝を聞いた。
派手な宣伝なしで「ダントツの成婚率」 IBJの婚活ビジネスが成功しているワケ【前編】を読む

ITと人間の「得意分野」を正しく知る

婚活ビジネスを成長させるには、ITとリアル、どちらが欠けてもいけませんでした。インターネットとリアルを融合し、強みを活かすのに大事なのは、「分業」です。ITが得意なことと、人間が得意なことをきちんと理解して、分業すること。

私は幸い、起業して早い段階でIT大手「Yahoo! Japan」のグループ会社となり、ネットの良さと限界、両方について身をもって知ることができました。その後、ITとは正反対の世界で仕事をしている仲人さんたちに刺激され、「リアルでしかできないこと」の大切さを実感して再度独立したのは、前回お話した通りです。

ITは、オペレーションの管理や、選択肢が多数ある中からのマッチングが、圧倒的に得意です。当社のシステム開発はすべて自社のエンジニアが行い、日々パソコンやスマートフォンのユーザーインターフェースの改善をはかっています。婚活中のお客さまのプロフィールにブログやインスタグラムのような機能をつけたり、より印象のいい表情に写真を加工するAI技術を東京大学と共同研究したり、ITの力でできることを、最大限活用しています。

これはネット事業会社としてスタートした当時から、常に持ち続けている視点です。

一方、人間が得意なのは、コミュニケーションを交わし、信頼関係を構築すること。意思決定の後押しをするのも、人間の役割です。

ネット事業でできなかったリアルの部分を充実させるには、仲人さんたちの力が必要だ。途中でそう気づいた私は、各地の仲人さんに当社の加盟店になってもらおうと、全国の結婚相談所に足を運びました。それこそ、どぶ板営業です。

地域の人間関係の中に入り、キーパーソンをみつけては、想いを伝えました。パソコンを触ったことがない方も多かったので、パソコン教室を開き、基本的な操作から1つ1つ説明していきました。

時間がかかりましたが、ここは地道にやるしかありませんでした。もともと仲人さんたちは、仕事への思い入れが強い方ばかり。加盟店になればシステムを使って業務を効率化できることや、紹介できるお相手が増えることなど、メリットに賛同して加盟してくれる方が、徐々に増えていきました。

そうやって、2006年に日本結婚相談所連盟事業をスタートし、いまでは全国に1500社以上が加盟、会員数は5万8000人以上になっています。2007年には、直営の婚活ラウンジもオープン。当社で育成した専任のカウンセラーが、出会いからお付き合い、ご結婚までをきめ細かくサポートしています。

都市部では、当社直営の婚活ラウンジでカウンセラーがサポートし、そのほかの地域は、昔ながらの仲人さんがいる加盟店にお願いする。このように棲み分けて、全国にリアルのサポート網を張り巡らせることを実現しました。

ネットの広告宣伝にはお金をかけない

インターネットは宣伝・集客に便利だという人がいますが、私はそうは思いません。もちろん、ネットで広告を出せば、「数」を集めることはできます。しかし、そこで集まった人々が、自社にとって本当に大切なお客さまなのか。それは、考えてみる必要があると思います。

当社は広告宣伝やマーケティングにあまりコストをかけていませんし、経営上の重点事項にも置いていません。コストをかけるのは、サービスの質と、それを実践できる人の育成。こっちをしっかりやっていれば、ご成婚して退会される方が、口コミで知り合いを紹介してくださいます。また、当社を利用してよかったと思った方の評判が、ネット上でも伝わっていきます。

実はここから来てくださるお客さまこそ、手をかけて大切にすべき層なのです。ニーズと当社のサービスがしっかり合っているので、結果としてご満足いただき、また知り合いを紹介してくださる。そういう良循環が起きます。

当社も一時期、電車に広告を載せたり、テレビCMでの広告を真剣に検討したりしました。その過程で、広告宣伝にお金をかけると、経営陣の意識やリソースがどんどんそっちに奪われてしまうことがわかりました。不特定多数の注目を集めるために、経営のリソースを割くことに違和感があり、意識的に「やらない」選択をしました。

お客さまにIDを付与して、メールを配信したり、アドテクノロジーを使って他のサービスの広告を出してみたりしたこともあります。これは事業として2年ほどやってみましたが、儲かるのは広告業者だけだとわかりました(笑)。ネットだけでは、お客さまに会員としての「帰属意識」が生まれにくいのです。

結局、帰属意識は、直営店のカウンセラーや加盟店の仲人さんたち、「人」との関係を通して高まります。そういう意味では、当社は時間をかけて、広範囲に強靭な「人垣」を築いてきました。広告費をかければ、短時間でデータ上の「数」をひっくり返すことはできます。しかし、この「人垣」は簡単にはひっくり返せない。ここが、当社の強みだと考えています。

「結婚の先」も見据えた事業展開へ

リアルを支えていくための、人材育成。私が経営者として、いま最も力を割いているのはここです。これはもう好きじゃないとできない次元だと思うのですが(笑)、毎月何度も、社員向け、加盟店向けの研修を自ら講師となって行い、想いを直接伝えています。来場者から質問があると、時間がないのについ相談に乗っちゃうんですよね。みなさんが何を考え、どうお仕事しているかが、気になってしまって……。

なぜ頻繁に研修を行うかというと、カウンセラー自身も、人間だからです。ノウハウを身につけ、たくさんのお客さまをご成婚に導くうちに、少しずつ経験がデータとして蓄積されていく。そうすると、データを基に「こうすればうまくいく」と考え、無意識のうちにお客さまにデータに基づいたパターンを押し付けてしまう。

これは、絶対にしてはいけないことです。だって、データを見てパターン化するのは、ITの仕事じゃないですか(笑)。カウンセラーは常に、お客さま「個人」に真剣に向き合い、対話するべきです。そのために、機械に油をさすように、私が定期的に想いを伝え続けなければいけないのです。

仲人や婚活カウンセラーという職業は、まだまだ一般的ではありません。テレビに出ているような、個性の強烈な人を思い浮かべるかもしれませんが、そんな方ばかりではありません。コミュニケーション能力が高くて人に共感でき、幸せになってもらえることを心から喜べる人。特に子育てをした後の女性や、定年後にもできる仕事なので、これからもっともっと増えていくのではないでしょうか。

婚活サービスというのは、社会的意義がとても大きい仕事です。いま、政府は少子化対策として保育園不足の問題に取り組んでいます。もちろんそれは重要な課題ですが、成婚率を上げることも、大きな課題。結婚したカップルの出生率は1.9以上ですから、少子化対策に大いに貢献できます。

2016年には、旅行代理店とウェディング情報誌の出版社がグループに入りました。実は、当社を通してご成婚される方が増える中、そこからのライフデザインをお手伝いするニーズもまた、増えているのです。結婚式や新婚旅行のアレンジや、結婚を機にした保険の見直しなど、さまざまなニーズが「結婚の先」に控えていることがわかりました。

まずは婚活サービスで成婚率をもっともっと上げていく。そこで強い信頼関係で結ばれたお客さまに、結婚後に必要なサービスをワンストップで提供していく。そのような事業展開に向けて、動き始めています。

私はIBJに、社会的な価値がある会社であってほしいのです。きれいごとに聞こえてしまうかもしれませんが、社員にとっても、お給料や個人的なやりがいだけじゃなく、所属している会社が社会的な価値を生み、良くしているという実感があることは、とても大事だと思うからです。

収益や成長は当然のこととして、いま、この世の中に何を残せるのか。そのことについてしっかりと考え、事業で得たものを社会に還元していける会社でありたいです。