業界の独自性に目をつけた「アットコスメ」の壮大な戦略【前編】

  • 上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・アイスタイル 吉松徹郎社長兼CEO / 吉松 徹郎

20代、30代女性の半数以上が毎月利用している、日本最大のコスメ・美容の総合サイト「@cosme(アットコスメ)」。この人気サイトを運営するアイスタイル・吉松徹郎社長は、アットコスメは大きな戦略の中の「ピースの1つに過ぎない」と言う。競争の厳しいIT業界で勝ち残ってきたアイスタイルが創業時から目指してきたこと、そして次の「一手」について語る。

億単位のポテンシャルを感じて、起業

われわれアイスタイルは、美容総合サイト「アットコスメ」を運営しています。1999年にサイトを立ち上げて以来、順調にファンを増やし、いまでは月間ユニークユーザーが1460万人。20代、30代女性の半数以上が使ってくれていますから、これを読んでいる多くの女性に「ああ、あのサイトね」と思われていることでしょう。

アットコスメは、国内最大の美容総合サイトに育ちました。しかしこれは、私が目指すビジョン全体からすると、“ピースの1つ”でしかありません。アットコスメの成功の先に、もっと大きな商機がある。それをつかむために、起業時から試行錯誤を繰り返し、飛躍に向けたコマを1つ1つ進めているのです。

私が目指すビジョンとは、何か。それを語る前に、1999年にさかのぼり、「なぜ化粧品で起業したのか」についてお話させてください。

ご覧の通り、私は男です。化粧品を使っているわけでも、詳しいわけでもありません。「化粧品が好きだから」ではなく、あくまで「商材」として、化粧品を見ています。ITが世界を変える時代に、もっともポテンシャルをもつ商材の1つ。それが、化粧品です。

起業する前、私はコンサルタント業界で働いていました。インターネットを使ったさまざまなサービスが始まっていて、日経のトップで「米Amazonは黒字化するのか?」と特集が組まれた時代。そんなニュースを見ながら、日本でのeコマースの将来性を検証したところ、ものすごい可能性を感じました。

世間はAmazonに対して懐疑的でしたが、私は日本に上陸したらきっと成功すると思いました。なぜなら日本の書籍は再販制度で守られていて、メーカーである出版社が価格決定権をもっています。家電などの日用品と違って、小売店が勝手に安く売ることができません。その環境でAmazonもまた、値引き競争に巻き込まれずに商売ができる。硬直した業界だからこそ、eコマースという新しい業態にチャンスがあると考えたのです。

刺激を受けた私は、ほかにも似た商材はないかと探しました。ちょうどその時に、アイスタイルの共同創業者である山田メユミが化粧品業界で働いており、そこから化粧品へたどりつきました。化粧品業界は1997年まで、再販制度で守られていました。メーカーは価格競争よりも消費者へのイメージづくりにお金をかけるので、自然と売上に対する広告宣伝費が大きくなります。

再販制度が廃止された後も、化粧品メーカーが広告宣伝にお金をかけるスタイルは変わりません。年間3000億円という広告宣伝費を見て、「マスメディアに支払っているこのお金が、いずれネットにシフトする。販売方法も、ネットを中心にした仕組みに変わっていくだろう。そこで発生するニーズに、大きなビジネスチャンスがある」と気がつきました。

3000億円の広告費の1%をとっただけで、30億円。これはどう考えても、億単位のビジネスになる。

私は知人を介してAmazonにコンタクトを取り、「日本で化粧品を扱うなら、自分にやらせてくれないか」と掛け合いました。しかし、Amazonは当時日本に化粧品で進出する予定がありませんでした。Amazonがやらないなら、自分がやろう。そう思って、アイスタイルを立ち上げたのです。

業界の「黒船」と思われないために

当時、化粧品業界に目を付けたのはアイスタイルだけではありませんでした。他の業界に比べて広告宣伝費がダントツに多いですから、その一部がネットに流れるかも、と考える人は当然ほかにもいて、美容関連のサイトをつくる会社がたくさんできました。

しかし、ほかの会社は結果を出せず、撤退してきました。いま残っているのはわれわれだけです。目のつけどころは同じだったのに、一体、何が違ったのか。

おそらく、ビジネスの「やり方」が違ったのだと思います。アイスタイルは最初から、「メディア」をつくって「広告宣伝費」を集めることがゴールではありませんでした。私が創業時から一貫してもっているビジョンは、インターネットで集めた化粧品ユーザーの声をデータベース化し、マーケティングや流通に反映させる仕組みをつくり、ユーザーとメーカーをつなげること。そうやって、市場全体の活性化にアイスタイルが貢献することを目指してきました。

私がビジョンをつくるうえで影響を受けたのは、「プラネット」という会社のビジネスモデルです。プラネットは1985年に、ライオンの社員だった玉生弘昌さんが創業した会社です。玉生さんは、日用品・化粧品流通の合理化を目指し、発注や在庫管理を業界で統一するシステムを開発しました。

コンピューターでのデータ管理がまだ普及していない当時、「みんなで同じシステムを使うほうが合理的」と各社にわかってもらうのは、大変だったと思います。しかし、玉生さんは「システムは共同で、競争は店頭で」という理念を掲げ、業界全体の利益になることだと主張しました。結果、ユニ・チャームや資生堂といったそうそうたる企業が出資し、プラネットが立ち上がります。そのシステムは業界の流通合理化に大きく貢献し、いまに至っています。

創業のときから、私の頭にはプラネットの成功モデルが浮かんでいました。そこで、化粧品メーカーの方々に広告のお願いをすると同時に、「データベースの共有化」を呼び掛けたのです。

メーカーの皆さんは、それぞれ自社の顧客データを集めています。でもビジネスのうえで本当に必要なのは、「他社の商品を買った顧客が、何を求めているのか」まで知ることですよね。アットコスメは、参加いただいているすべてのブランドについて、アクセス数やレビュー、広告の効果といったユーザーの反応を蓄積し、会社を横断したデータベースをもっています。

このデータベースを業界の皆さんに活用していただければ、各社が集めるよりも、有用なデータに触れることができます。ユーザーが求めていることをより深く知って商品開発に活かせば、その恩恵を受けるのは最終的にはユーザーです。ネットで集めたユーザーの声が、商品や売り場に反映されていく。アットコスメのデータベースを活用していただくことで、こういう好循環を実現できるのです。

われわれのサービスは、1社の利益ではなく、業界全体の活性化につながる。そういう思想を根気強く化粧品メーカーに説明したことが、アイスタイルは化粧品業界における「黒船」でも「マーケットクラッシャー」でもないと安心し、受け入れていただけた最大の要因だと思います。

アットコスメが店舗をもつ理由

おかげさまでアットコスメはたくさんのユーザーに恵まれ、その声をメーカーにフィードバックして開発に活かしていただける機会も増えています。では、化粧品市場は本当に変わったのか。アットコスメで人気のある商品が、百貨店やドラッグストアにずらっと並ぶようになったかというと、まだまだです。実はここに、予想以上に時間がかかっています。

化粧品市場は、いまでも95%がリアル店舗の売上で、eコマースは5%にとどまっています。アパレル市場では10%超がeコマースになっているのに対し、まだまだ低い。そんな中、リアル店舗の人たちが考えるのは、「How to Sell」。メーカーとの関係の中で、いかに安く仕入れるか。そして仕入れたものをいかに売り切るか。メーカー側はそれがわかっているので、初期ロットの多い商品に販促費をつけ、店舗側はそれを仕入れて棚に並べます。

一方、ネットの世界で重要なのは「What to Buy」。何を仕入れるか。顧客の声を聞き、本当に望むものを仕入れて、提供する。メーカーの規模や、仕入れ値を安くするという発想とは異なります。そんな「ネット的発想」をリアル店舗に移していくことが、思いのほか、難しい。

ネット上では「この化粧水がいい」という声があふれかえっているのに、実店舗に行くと、相変わらず大手メーカーごとの棚割りで、大量生産された商品が並んでいる。店舗側が「How to Sell」の発想から抜け出せない限り、この構造は変わりません。

そこで考えたのが、「自分たちで店舗をもつ」ことでした。業界が変わらないなら、自分たちで変えればいい。そう思ってリアル店舗をつくろうとしたら、メーカーからも株主からも役員からも、大反対されました。「売り場に立ったこともないのに、業界を甘くみてはいないか?」と散々の反応で、辞めていった役員がいたほどです。

それでも、ここを突破しないと変化は訪れない。反対を押し切って、2007年、東京・新宿のルミネエストに「アットコスメストア」1号店をオープンしました。

そこには用途別に、アットコスメのユーザーに人気の商品が、メーカーの垣根を越えてずらっと並んでいます。まさに、ネットでの声をそのまま活用させた店舗をつくったのです。

リアル店舗のオープンから、10年。

お客さまの支持を受け、アットコスメストアは国内24店舗(2017年12月現在)にまで増えました。いま、全国の化粧品専門店の中で、売上の1位と2位を占めるのは、アットコスメストアです。

ネットで集めた声を、売り場に活かす。創業時に考え抜いたビジネスモデルは間違っていない。ユーザーの方々もそれを望んでいる。そう、確信することができました。そしていま、アイスタイルはさらに大きな飛躍をとげようとしています。次回は、その話を聞いてください。