勝算があるビジネスしか、始めてはいけない!【前編】

  • お金を語るのはカッコいい・ビジネスの本質を知る / 藤井 薫

うどん王国・香川県に、麺業界で知られた会社がある。その名も、大和製作所。創業社長の藤井薫さんは、「おいしくて、健康的な麺」の研究に没頭し、画期的な小型の製麺機を開発。国内トップのメーカーとなった。同時に、うどん、ラーメン、そばの開業者が繁盛するための学校をつくり、人気店を続々と世に出して「行列の仕掛け人」と呼ばれている。麺一筋の人生を送る藤井さんが、ビジネスの本質について語ってくれた。

そこに「心」はあるか

使命感を持たないビジネス。
ハウツーだけに頼る、もうけ。
そんなものはしょせん、仏作って魂入れず。「心」がないビジネスは、たとえ一時的にうまくいったとしても、長続きしません。ブームが去って忘れられたり、うまくいかなくなったりしたときに、うわべだけの人は必ず挫折します。

うどん店の開業者に向けて学校を作ってから、18年。その後、ラーメン、そば店の学校も開業し、いまでは年間200店以上のプロデュース、指導を行っています。私は、オーナーとスタッフの人生が、麺ビジネスを通してキラキラと輝くことを目指しています。そのためには、みなさんにまず生き方を変えてもらわなくてはいけません。

「人生は一度きり。死は100%の確率でやってくる」という死生観に立って、ビジネスで成し遂げる使命を持つこと。その使命に向かって、何があっても諦めず、情熱を燃やし続けること。そういう「心」になるのは、生半可なことではありません。

「生き方を変えろ」という教えに、面食らう生徒もいます。開業のハウツーを教えてもらいにきただけなのに……と、いうわけです。そんな生徒を怒鳴り、大げんかすることもあります。私は常に真剣なので、相手が生半可なことが許せないのです。その代わり、セミナーを受けたらおしまいでなく、開業後も見守り、一生のおつきあいをする覚悟でいます。そうやって社会に貢献することが、私の使命です。

製麺機メーカーを営む私が学校を始めたのは、「心」のないビジネスで不幸になる人が、あまりに多いからです。うどん、そば店は毎年約3000店、ラーメン店は約4000店が開業し、そのうち43%もが、1年も経たずに廃業。開業から3年となると、廃業率は73%にまではねあがります。

お店を開業するには、たくさんの資金と時間がかかります。開業に失敗した方は、それらを失い、借金のために路頭に迷ってしまう方もいらっしゃいます。麺ビジネスの開業者は、当社にとっては学校の生徒であると同時に、製麺機を買っていただくお客さまでもある。その方々がなぜ、あまりに簡単に人生を棒に振ってしまうのか。

私は、繁盛して長く続く店と、あっという間に閉店に追い込まれる店の違いをつぶさに見て、研究しました。当社の機械を買っておいしい麺を打てても、廃業してしまう方は何が原因なのか。たくさんの事例を見ていくうちに、うまくいかない方には、使命がない。ビジネスに「心」が入っていないのだと、気づきました。

「麺ビジネスは、簡単にできてもうかりそうだ」「会社員は大変だから、ラーメン屋になって脱サラしよう」……。

そういう思いつきで、「心」がないままにビジネスを始めてしまう。そうやってせっかくの挑戦を、失敗に終わらせてしまうのです。

成否は開店前に決まっている

何かを始めるときは、その前に徹底的に考え抜かねばなりません。時間とお金は、その方の貴重な人生の一部。ですから安易にビジネスを始めて、人生をムダに使うようなことは、極力避けなければいけません。

私自身、おいしくて健康にいい麺が打てる製麺機を開発し、その後、学校を開いてお客さまの繁盛を支援するという使命に気がつくまで、たくさんの失敗を重ねてきました。だからこそ、みなさんには同じロスをしてほしくありません。

私のところで学んだ生徒に限っていえば、廃業率はとても低い。たとえば、ラーメン学校の1年以内の廃業はほぼゼロ。3年以内でも、6.6%という実績を残しています。

なぜ、そんなことが可能になるのか。私は、おいしい麺のつくり方を教えるわけではありません。事業を始めようとしている人に、経営者としての生き方を教えています。生徒にはまず、「あなたの価値観は何ですか? 使命は?」と、徹底的に問うていきます。

なぜなら、初期段階で失敗する原因のほとんどは、準備不足にあるからです。つまり、最初に立てたビジネスモデルが間違っている。「この事業は世の中に必要なのか?」「私がビジネスで実現する使命とは、何か?」という問いを、開店前にいかに熟考するか。それが、成否をわけるのです。
この図を見てください。

1つの円は、お客さまのニーズ。もう1つの円は、あなたがやりたいこと。最後の円は、ほかの人たちがまだできていないこと。この3つの円が重なる部分を見つけることができれば、ビジネスは勝算があります。もっと言うと、この部分を見つけられるまでは、ビジネスを始めてはいけません。

いまは多くの企業がわざわざ競争の激しい「レッドオーシャン」に飛び込み、疲弊しています。すでにあるようなお店を「なんとなく」「思いつきで」出したとしても、すぐに既存店との熾烈な競争に巻き込まれるだけです。

自分の強みを活かせて、お客さまに喜んでいただけることは、何か。それすら考えずに、お店をやると決めてすぐに不動産屋に飛び込んだり、メニューを決めたりして開業する方が多すぎる。それでは最初から、負け戦を始めるようなものです。

走り出してからじゃ、もう遅い

香川県には、うどん店が約800軒あります。しかし残念ながら、そのほとんどがイノベーションを起こせず、似たような発想で頭一つ抜けることができません。地方が衰退する中、昔ながらのやり方でつぶれていくお店もあとを絶ちません。新しく開業しても、そのほとんどが3年も続かないというのは、前述の通りです。

そんな中、最初に独自の価値を打ち出して全国展開を始めたのが、「はなまるうどん」。香川市発祥で、現在は吉野家ホールディングスのグループ会社です。ここは、「女性が気軽に入れるお店」というコンセプトで、人々に支持されました。

それまで、讃岐うどんといえばセルフ形式で店舗があまり綺麗ではなく、女性が入りづらかった。そこで、はなまるうどんは明るく清潔な店舗にして、イメージを一新しました。麺はセントラルキッチンで加工して店に配送し、現場は茹でるだけという効率性も重視。各地に展開し、人気店となりました。

誰かが始めたのを見て、「これなら自分でもできそうだ」と思うのは簡単です。はなまるうどんが頭角を現したとき、うわべを見てまねするお店が山のようにできましたが、結局は競争に負けて、撤退していきました。

唯一、トリドールホールディングスが経営する「丸亀製麺」だけが、まったく逆の道を選びました。店内で小麦粉をこねるところから作り、それを顧客に見せる「実演自家製麺」を採用。打ち立て麺のおいしさで勝負して繁盛店となり、いまでは、はなまるうどんを抜いて日本一の店舗数を誇ります。

安易なコピーをせず、いかに独自モデルを作り上げるか。そういう意味で、丸亀製麺はビジネスモデルを決めるまでにものすごい試行錯誤を重ねています。一見、非効率に思える自家製麺も、店内をガラス張りにすることで、行列に並ぶお客さんがその様子を見て食欲をそそられるというプラスの演出効果を生み出しています。

はなまるうどんも丸亀製麺も、顧客のニーズはあったけれども、実現されていなかったうどん店の形態を新たにつくり出しました。まさに、3つの円が重なる部分を見つけ出し、業界にイノベーションを起こしたのです。

時々、「走りながら考えればいい」と安易に物事を始める人がいますが、どうでしょう。私は、走り出してから考えるのでは、もう遅いと思います。すべては、開店前に決まってしまっています。

あなたは、やるべきことを選べていますか?
その仕事は熟考の上、「世の中に必要だ」と判断したことですか?
上っ面だけでなく、「心」が入っていますかーー?

まずはそこから、意識してみてください。