アマチュアだらけの日本企業、これでいいのか!【後編】

  • お金を語るのはカッコいい・ビジネスの本質を知る / 藤井 薫

うどん王国・香川県に、麺業界で知られた会社がある。その名も、大和製作所。創業社長の藤井薫さんは、「おいしくて、健康的な麺」の研究に没頭し、画期的な小型の製麺機を開発。国内トップのメーカーとなった。同時に、うどん、ラーメン、そばの開業者が繁盛するための学校をつくり、人気店を続々と世に出して「行列の仕掛け人」と呼ばれている。麺一筋の人生を送る藤井さんが、ビジネスの本質について語ってくれた。
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「昼寝状態」になっていないか

当社はいま、グローバル化をどんどん進めています。製麺機を欧米に輸出したり、シンガポールで海外の生徒さんに麺ビジネスのノウハウを教えたりするために、私自身もしょっちゅう海外に足を運んでいます。その中で、日本企業の多くが陥っている「昼寝状態」に、危機感を抱くようになりました。

一歩海外に出ると、先進国ではお客さまの「上質志向」が進み、ビジネスをする側も「プロ志向」が強くなっていることがわかります。

たとえば、日本に上陸したハンバーガーの「シェイクシャック」。本場ニューヨークでも大人気で、至る所で目にします。グランドセントラルの中で一番混んでいるのは、シェイクシャック。ニューヨークの友人に「なんでこんなに繁盛しているんだ」と聞いたら、「経営者がファインダイニング(高級レストラン)出身だからだよ」と言います。なるほど、レベルの高いマネジメント、店舗づくり、料理を知っている経営陣なのだと知り、納得しました。

こんな例もあります。いま、世界でもっとも成功している和食レストラン「ROKA」。この会社はイギリス資本で、オーナーはインド人。シェフも基本的には、日本人ではありません。ROKAがイギリス、アメリカ、香港と次々に出店を増やし、現地で日本人がやっている和食レストランが、どんどんつぶれているそうです。

ROKAがなぜ成功しているのか。それは、経営の質がいいからです。炉端焼きを中心に、日本から厳選して仕入れた材料、シェフの腕、美しい盛り付け、優雅な雰囲気など、何もかもが一流です。富裕層をターゲットにし、ロンドンではセレブ御用達の憧れのお店になっています。

世の中の「上質志向」の流れが、後戻りすることはありません。お客さまのレベルが上がり、経営者はさらにおいしく、健康にいいメニュー、快適な店づくりを求められる。おいしいだけ、安いだけではダメで、飲食店にも高度なマネジメントが必要になっているのです。

こんな状況に対して、日本のビジネスはどうでしょう。必死になって経営の質を上げようとしている会社が、どのくらいありますか。私がシンガポールに呼ばれ、麺ビジネスの講師として最初に行ったのはいまから28年前。そのころ、シンガポールは日本よりはるかに貧しい国でした。しかしいま、シンガポールの1人当たりGDPは世界10位で、日本は22位。

シンガポールで教えた生徒がノルウェーにラーメン店を出したというので、先日行ってきました。そのお店で日本人の学生さんがアルバイトをしていたので時給を聞いたら、3000円。北欧の国々はどんどん生産性を上げて、高い給料を払える努力をしています。一方、日本の給与水準はここ25年来、上がっていません。飲食店は相変わらず安い時給で人を募集し、いい人材を獲得できずにいます。

上質志向のお客さまに対して、満足できるレベルのメニュー、店づくりを真剣にやって、経営の質を上げて従業員に高い給料を払おうとしている経営者しか、必要とされない。そんな時代になっていることに気がつかず、現状に安住して「昼寝」同然の会社が多すぎると思います。

安心領域を脱する覚悟を持て

世の中は絶えず変化しています。ビジネスの世界も、時代とともにより複雑に、より高度に変化し続けています。

たとえば30年前、家庭にあったのは固定電話です。そのころ電話が提供している価値は、通話だけでした。いまは電話がスマートフォンになり、コンピューターと一体になってありとあらゆる価値を提供しています。

どんなビジネスも、簡単な方向に後戻りすることは絶対にありません。ですから、同じレベルに安住して変わろうとしない会社は、いつのまにか世の中の人々が必要とするサービスを提供できなくなり、滅びていきます。私は、安定した売上が確保でき、経営に心配がない状態を「安心領域」と呼んでいます。安心領域は心地いいですが、長く留まり続けるのは考えものです。

たとえば、いま日本のものづくりで、グローバルに見て上位にいるのは自動車です。これは早い時期に、本田技研工業を筆頭に、日本のメーカーがリスクをとって海外に出たからです。本田宗一郎さんは戦後まもない時期から、ものづくりは国内だけにいたらダメだとわかっていた。だからものすごい背伸びをして、国内でビジネスが安定している時期に、あえて安心領域を出て海外に行った。その苦労が、後に大きな財産になったのです。

先ほど申し上げたように、飲食業界は上質志向が世界的な主流となっています。経営者にはこれまでよりうんと高度なマネジメントが要求されています。その中で従来と同じことを続け、安心領域で昼寝をしているのは、本当に危険なこと。新しい領域を開拓し、リスクをとって外に出て行く覚悟がない経営者は、目覚めたときにはもう遅いということに、なってしまうかもしれません。

2〜3年前、中南米から私のところへ、日系人率いる生徒が10人ほど、麺ビジネスを学びにやってきました。MBAを取得した30歳前後の若者で、聞くと全員がいずれスピンアウトしたいと言い、半分がレストランビジネスに興味を持っていました。世界の飲食ビジネスはどんどん高度化し、プロフェッショナルしか生き残れない時代になっている。それを示す話だと思います。

プロを目指すなら、生き方を変えること

経営のプロフェッショナルになるには、ちょっと手を出してやめてはいけません。うちに来る生徒でも、成功する人は本質を理解するまで、何度も学びに来ます。卒業したある生徒(Aさんとします)は、地方でラーメン店2店舗を経営して、そのうち1店舗は月商1500万円に達する繁盛店。Aさんは開店前に、学校に3度通って自分がやるべき店を熟考し、試行錯誤していました。

一方、うわべだけを見て本質を理解せず、いつまでもアマチュアの人もいます。業界のとあるパーティーで、ラーメン店のオーナー(Bさん)から声をかけられました。話していると、「人手が足りなくて困っている」と愚痴をこぼしています。Bさんは、月商200万円のラーメン店を4店舗展開していると言います。月商200万円では、ほとんど利益が出ません。それなのに4人も店長を雇って、それぞれの店で経費がかかるのは、ムダが多すぎる。

私はBさんに、「利益の出ない店を4店舗も持つ必要はありません。まとめて1店舗にしぼりなさい。そうすれば人手不足が解消できて、利益が出て、従業員にもっといいお給料が払えますよ」とアドバイスをしました。しかしBさんには響かなかったようで、やり方を変えるそぶりはありませんでした。

おそらくBさんはたくさんの店舗を運営しているとか、全体の売り上げが多いという「見せかけの成功」を、捨てたくないのでしょう。だから「人手不足で大変」と言いながら、根本的な問題を解決しようとしない。これでは一生、経営者としてアマチュアのままです。

これからのビジネスは、アマチュアが成功できるほど甘くありません。真剣に学んで本質を理解し、広い視点で世界を見て、リスクを取れる人——。プロフェッショナルだけが勝ち残る時代。残念ですが安心領域で昼寝をしている人は、いずれ落ちぶれていくでしょう。

本気で成功したいなら、生き方を変えないといけません。そのために必要なのは、情熱です。私は大和製作所を立ち上げてから40年以上、麺一筋で生きてきました。おいしくて健康にいい麺をつくろうと、麺の研究に没頭した若いころ。製麺機の販売を通じて、麺ビジネスのマネジメントに関心を持ち、開業者を支援するという新たな使命に燃えた中年時代。そして会社のグローバル化を進めるいまでも、私の情熱は衰えていません。いや、ますます強くなっています。

私は海外に行くたびに、人気の店、そうじゃない店を回って300枚、400枚と写真を撮ります。世界でどんな飲食店が好まれているのかを自分の目で確かめ、時代に遅れないようにしています。また、年間300冊ほどの本に目を通し、勉強しています。特に気になる本は内容をワードに落とし込み、さらに必要な箇所を抜き出した特別バージョンを作って繰り返し読み込んだ後で、生徒に教えています。

人間誰しも、幸せになるために生きています。そして幸せになりたければ、いちばん簡単な方法は、周囲を幸せにすることです。なぜなら、人は自分を幸せにしてくれた人を大切に思うから。ビジネスも同じで、「これがあったらいいな」という商品やサービスがあったら、まずそれをお客さまに提供するのです。

しかし、すぐに効果が出るわけではありません。ビジネスは人間の身体と同じで、システムとして機能します。いまお茶を飲んで、すぐにトイレに行かないのと同じで、今日いいものができたからといって、すぐに業績にはつながりません。どうしても、結果が出るまでにタイムラグがあるのです。その間、じっと我慢できるかどうかは、あなたの情熱にかかっています。

心の底から「これはいいものだ」「きっと喜んでもらえる」と思うビジネスを見つけ出し、情熱を傾けてください。昼寝をやめて真剣に学び、プロフェッショナルになってください。

その努力は必ず報われます。何があっても諦めず、信じる道を進むのです。