100回目のゲームと勉強会〜アイルさんインタビュー【中編】

  • リアル投資家列伝・重視銘柄は株主総会に参加して決める / アイル

週末毎にできるユニクロの行列に目をつけてファーストリテイリングの株を購入したアイルさんの決断は大成功となります。フリースブームの波に乗り、ユニクロは全国区の店舗となり、株価は10倍に。「身近な小売業やサービス業へ狙って投資するのが個人投資家向きなのでは」との仮説を得たアイルさんは、次の「テンバガー」を狙っていくのですが、そこにはある体験が大きく関わっていました。
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ファイナルファンタジーが導いた株主総会

ファーストリテイリングの株価が順調に上昇していたころ、アイルさんに東京出張の予定が入った。その日程を見たアイルさんは、あることを思いつく。

「もともとゲーム、とくにファイナルファンタジーシリーズが好きでした。それもあってスクウェアの株を持っていたのですが、その株主総会がちょうど出張の日と重なっていたんです。株主総会なんて行ったこともなかったのですが、日程もちょうどいい。顔を出してみよう、と」

今では年間30社以上の株主総会に出席する「総会マニア」となったアイルさんの記念すべき「人生初総会」だった。

「初めての株主総会は発売前のゲームで遊べたり、経営陣に対する質問も『あのゲームのエンディングはどうの』といろんな質問が飛び交い、なごやかな雰囲気でした。怖い人たちが跋扈(ばっこ)するような株主総会だったらどうしようという不安もありましたが、最初に行ったのが楽しい総会だったことは幸運でした」

「最初に儲けた成功体験があったから株を再開した」と振り返っていたアイルさん。株主総会でも最初の体験を楽しめたことが、次のテンバガーへの伏線となった。

わからないことは株主総会で聞けばいい

「2002年ころ、『株主優待でCDを安くレンタルできたらいいな』と思って、CDレンタル関連会社を調べました。目についたのがTSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(2011年上場廃止)とゲオ(ゲオホールディングス)。その頃には「PER」や「PEGレシオ」(利益成長率を加味して株価の割安度を測る指標)といった指標を理解していたので比較してみると、ゲオのほうが割安だったんです。業界2番手で地味な会社だからか、成長性は高いのに株価は割安なまま放置されていました」

家の近所にあるのはTSUTAYAだったから当初の目的である優待狙いならTSUTAYAだけでもよかったが、ゲオの割安さや成長性も捨てがたい――。アイルさんはゲオにも資金を投じた。

「そうはいっても買ったのは最低単位だけです。ゲオには気がかりな点がありました。負債の多さです。自分のなかで不安が解消できなかったので、まずは少額にとどめました」

そのとき、アイルさんの頭によぎったのはスクウェアの株主総会だ。「不安があるなら直接聞いてみればいい、あの雰囲気なら聞きたいことを聞けるだろう」と、ゲオホールディングスの株主総会に合わせて休暇を申請し、名古屋の総会会場へ足を運んだ。株主総会で行なう初めての質問だった。

アイル:「御社の負債の多さが気がかりです。財務内容は大丈夫か?」

ゲオ:「当社は業績不振の会社を買収し、立て直しながら成長してきました。同業が撤退する今はチャンスなので、積極的にM&Aを行なっている。負債も多くなっているが、独自のノウハウで黒字化しているし、レンタルは日銭が入ってくるビジネスなので、キャッシュフロー的にも問題ない」

緊張しながら尋ねた質問に明快な回答が得られたことで、アイルさんはゲオの株を買い増していく。ちょうど同じころ、プライベートでは大きな変化があった。

「会社が早期退職を募集していました。自分はサラリーマンに向いているのだろうかと、ずっと疑問がありましたし、会社の先輩を見ていると5年後、10年後の自分の姿が見えてくる。その姿と自分のめざす姿は違っているように感じました。辞めるなら早期退職制度を利用できる今だ、と」

早期退職に応募して専業投資家へ

個人投資家が会社を退職するタイミングはさまざまだが、多くは「これだけ資産があれば暮らしていけるだろう」と資産額が区切りになる。でも、アイルさんは違った。

「儲かっているから辞めたわけではありません。当時の資産は2000万円ほどでした。どうせ辞めるなら退職金が割り増しされたほうがいいなと思っただけなんです。『株で食べていこう、専業投資家になろう』なんてまったく思ってもいない。少し休んだら再就職するつもりでした」

アイルさんが退職した翌月、日経平均株価は7603円の安値をつけた。しかし、不動産バブルの崩壊から続いた下落トレンドはこの安値でいったん反転し、反発局面へと入っていく。
「辞めた時期がよかったですね。退職した年だけでゲオの株価は約4倍になりました」

「辞めるなら今!」とのヨミがあったのだろうか。

「狙ったわけではありません。会社が早期退職を勧奨するのは景気が悪い時期。株価も低迷しやすくなります。早期退職などのリストラが進めば企業業績は回復して株価も戻す。たまたま、そのサイクルのボトムと重なっただけです。今亀庵さんもそうですよね」

この連載にも登場してくれた個人投資家の今亀庵さんが退職したのは2008年。リーマン・ショックが起きた年であり、日経平均株価はアイルさんが退職した年の安値を更新、大底をつけた。

「今亀庵さんも僕も会社を辞めたのは相場が最悪の時期。株価が反転上昇する直前に退職しました。振り返るといいタイミングだったなと思います。相場がいい時期に儲けて退職する人もいるかと思いますが、それには危うい面もある。相場が悪くなっても稼ぎ続けられる保証はありませんから」

退職直後から日経平均株価は上昇基調へ転換、強い追い風をうけながらアイルさんの資産は1億円を突破していった。