テンプの名前を変えてでも、実現したいことがある【前編】

  • 上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・パーソルホールディングス株式会社 代表取締役社長 CEO / 水田 正道

派遣事業の老舗「テンプホールディングス」が、グループ名を「PERSOL(パーソル)」に一新した。あえて知名度の高さを捨て、ブランドを統合した目的は何か。国内での深刻な人手不足が進む中、人材派遣・紹介事業がどう変わろうとしているのかを、水田正道社長に聞いた。

労働環境の「大変化」を見据えて

ブランドを変えるのってすごいエネルギー要りますよ。もともとのブランドに愛着を持っている社員に、共感してもらわないといけませんから。何のために「PERSOL(パーソル)」にするのか、社員への説明に最も労力を使いました。

もう、草の根活動ですよ。先週はカラオケ3回行きましたから。睡眠時間と肝臓を犠牲にして、みんなに思いを伝えてます(笑)。

なぜそこまでして、ブランドを変える必要があるのか。いま、目の前だけを見ていたら、わざわざ変えなくてもいいんです。「テンプ」という、派遣事業では1973年以来の強いブランドがありますから。でも、少子高齢化による人手不足がどんどん進んで、労働環境が大きく変わる中で、同じ商売はできなくなると思うんです。

われわれは今回、設計・開発の「日本テクシード」、人材紹介の「インテリジェンス」など、グループの中核の子会社の名称を変更し、「パーソル」の冠をつけました。目的はブランドを統合し、グループ一丸となって変化する労働市場に対応すること。事業ごとの壁をなくして、みんながパーソルの名の下で、価値観を共有して動くようになることです。

これからは、「企業が人を選ぶ時代」から、「人が企業を選ぶ時代」になる。より働きやすく、1人1人が能力を発揮できて、人間関係がいい会社でないと、優秀な人に来てもらえなくなります。表面だけとりつくろっても、インターネットで丸見えですから。

また、シニア、さまざまなキャリアパスを持つ女性、地方に住む方など、これまで「制約がある」と思われてきた方々の能力を、いかに発揮していただくか。テレワークによる在宅勤務、副業など、あらゆる方に向けた柔軟な働き方を導入し、制約がある方でも、知見や能力を思い切り発揮できるような環境を整備する。そういう「多様性」を受け入れる会社以外は、もう生き残れなくなるでしょう。

正社員が定年まで会社に忠誠を尽くし、そのほかの制約ある社員は補助的なことしかお手伝いできないという労働システムは、もう長続きしません。「正規」「非正規」という呼称自体、いずれ世の中からなくなるでしょうし、それが健全なことだと思っています。

「多様な働き方」のショールームになる

「PERSOL(パーソル)」という新ブランド名は、「PERSON=人の成長を通じて」「SOLUTION=社会の課題を解決する」という言葉を組み合わせた造語です。人手不足の問題はたしかに深刻ですが、前向きに捉えれば、これをきっかけに日本人の働き方が変わるかもしれません。

満員電車に乗って朝から深夜まで働き、単身赴任もいとわない。海外の方がいまの日本人の働き方を見ると驚かれます。これじゃあ多様な働き方なんて実現できません。同じ土俵で、シニアや子育て中の社員が働いて評価されるなんて無理ですよね。

当社グループでは、人材を派遣する先の企業に「多様な働き方を、受け入れてください」と積極的にお願いしています。同時に、われわれパーソル自身が働き方をどんどん変えて、ショールームになろうとしています。まず、自分たちがやって見せて、顧客である企業に見ていただこうと。

当社は、社員の半数近くを女性が占めています。育児休暇を取得する女性も多く、女性が活躍している会社です。それでも、子育て中の女性からは「早く帰宅するのが申し訳ない」「管理職は無理」という声が出ていました。

そこで、子育て中の女性だけを集めた「ダイバーシティ営業部」(現・ダイバーシティ事業部)をつくりました。この部は全員残業せず、早く帰ります。残業しないためには、効率を上げる仕組みが必要です。15分単位の会議や、18時以降の電話はすべて社外のコールセンターに取次を委託するなど、仕組みを整えて生産性を上げ、結果も出しています。都心と郊外の間に拠点を置き、職住近接にして通勤時間を短くするようにもしています。

テレワークの導入も積極的に進めています。通勤時間帯も仕事内容に合わせて選べるので、極めてフレックス。夜の面談があるから朝は在宅で仕事をして、遅めに会社に来るなど、目的に合わせた合理的な働き方をしています。

こういうふうに多様性を突き詰めていくと、生産性が上がります。「長時間がんばっている人を評価する」というモノサシで測れなくなるので、マネジメントは複雑になりますが、結果として、ムダが減ります。

女性活用のキモは、「同僚の視線」

私が最初に働いたのは、リクルート社。当時から優秀な女性が活躍している職場で、私は営業だったのですが、成績が悪いと容赦なく突っ込まれるんですね。そのようななか、テンプスタッフ(現・パーソルテンプスタッフ)創業者の篠原欣子さんからスカウトされて転職しました。そこからはトップも女性ですし、社員も女性ばかり。一緒に働く中で、女性の能力の高さは実感してきたので、私自身、ジェンダーで仕事を分けるなんて発想はありません。

じゃあ、女性の能力を120%発揮してもらうには、どうしたらいいのか。ポイントは、制度を整えるだけでなく、職場の人間関係に気を配ることです。子育て中の女性が管理職をあきらめたり、職場で後ろめたい思いをするのは、たいていの場合、制度がないからじゃない。「あの人はさっさと帰っていいけど、私の仕事が増えるじゃない!」という、同僚の女性からの視線がつらいからです。

そういうしがらみをなくすためには、「困ったときはお互い様」という風土を醸成することが、何より大事です。日々の仕事の中で、お互いへの信頼と尊重を、いかに築くか。在宅勤務もそうです。「家でちゃんと仕事しているの?」なんて聞いた瞬間に、信頼関係が崩れて、制度が機能しなくなりますから。

制度をつくるのは、簡単です。大変なのは、その制度を活かせるような、信頼に基づく企業風土をつくっていくこと。ここに、時間と労力がかかるのです。

どうやってそのような風土をつくるか? それはね、やっぱり草の根活動なんですよ。現場の人たちとたくさん話して、「お互い様の気持ちが大事だよ」と言い続けて、少しずつそっちに向かわせる。まだまだ道半ばですけど、社員の意識は変わってきていると感じます。これからも私の肝臓と体力がもつ限り(笑)……地道に草の根活動を続けます。