銘柄選びは「自信過剰」「自己肯定」に注意【中編】

  • お金を語るのはカッコいい・正しい意思決定を阻むモノ / 大竹 文雄

銘柄選びから売買のタイミングまで、投資は「意思決定」の繰り返し。株価が下がり始めたらすぐに損切りするなど、合理的な判断ができる人が成功する。しかし、なかなかそれができないのが人間というもの。行動経済学を専門とする経済学者・大竹文雄先生に、人間の合理的な意思決定を阻む要因について、解説してもらった。
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「勝手なイメージ」から生じるバイアス

今回は、投資の「銘柄選び」に関連する意思決定を見ていきましょう。
行動経済学では、人間の合理的な意思決定を阻害する、さまざまな認識の偏り(バイアス)を指摘します。その中の1つが、「代表性バイアス」。物事を判断する際に、統計的な根拠よりも、代表的なイメージを思い浮かべて判断してしまう特性のことです。

よく使われる例として、下記の「リンダ問題」があります。

リンダは31歳の独身女性で、大学時代は哲学を専攻していた。社会問題に関心が高く、学生運動や反核デモに参加していた。彼女の現在の職業は何か。

A.銀行の出納係
B.フェミニストの活動家で、銀行の出納係

これを見て、あなたはどう答えますか?

実験では、多くの人がBと答えています。でも確率を考えると、BはAより条件を限定しているので、リンダはAである確率の方が高い。それなのに、「リンダのような性格と経歴の女性は、フェミニスト活動の活動家になるだろう」と、勝手なイメージを抱いてしまう。これが「代表性バイアス」です。

銘柄選びに当てはめると、「日本は自動車産業が強いから、自動車メーカーの株を買おう」というふうに、代表的なイメージから推測してしまう。本来は、自動車メーカーの個別の業績を見て判断すべきなのに、1つの好材料を他にも当てはめて判断するのは間違いの元です。

もう1つ、「自信過剰バイアス」も挙げておきましょう。
これは自分の能力や知識を実際よりも大きく見積もってしまう、認知のゆがみです。「金融の知識があって資産運用もできる」と思っている人が、実際にテストをしたら金利と債券価格の関係も、リスクとリターンのトレードオフもわかってないという実験結果が出ています。これは典型的な自信過剰で、米国の実証研究では、男性の方が女性に比べて自信過剰に陥りやすいとされています。

日常生活でも、病気になる確率は誰にでも平等にあるのに、「自分は大丈夫」と言って保険に入らない人、いますよね。こういう根拠のない自信を投資で発揮すると、「自分は駆け引きがうまい」と信じて頻繁に売買をしたり、情報分析を過信して過度なリスク資産を持つなど、結果的に損をする要因をつくってしまいます。

現代人は、ここに注意!

SNS真っ盛りの現代、特に気をつけてほしいのは、「自己肯定バイアス」です。
人間は、自分と同じ意見を持つ人を好む傾向があります。同じ情報を見ていても、賛成できる意見に目が行き、反対の意見は見えにくい。見えたとしても、価値を低く見積もり、「たいした情報じゃない」と意識の隅に追いやってしまう。

そういう、都合のいいところがあるのです。

新聞やテレビといったメディアは、1つの立場だけに情報が偏らないよう製作者が意識していますが、SNSの場合はそれができません。自分と似た意見の人をTwitterでフォローしたり、Facebookで友達になったりするので、「自己肯定バイアス」を強めてしまう傾向があります。

例えば投資情報にしても、「まだまだ日経平均が上がる」と思っている人がSNSで似た意見の人ばかりをフォローしていると、勢いのある投稿を読んで「もっと株を買おう」という気持ちが助長されるでしょう。市場が過熱気味になったとき、「バブルじゃないか」という意見を言う人が、SNSの中にいない。そうすると、「自己肯定バイアス」がどんどん強くなってしまいます。

大事なのは、統計データなど「客観的な情報」を集めるよう努めることです。「自分はこうだ」という主観、「こうなったらいいな」という希望的観測には、何の根拠もありません。

全員が自分の利益の最大化だけを考え、もっとも合理的な判断に基づいて行動する――。それが、伝統的な経済学の世界で考えられてきた、人間像(ホモ・エコノミクス)でした。でも実際は、私たち人間はバイアスだらけで、正しい判断をすることの方がまれなくらい。先ほどから見てきたように、人間はしょっちゅう、合理的な判断とは程遠い行動をとります。

SNSに触れる際も、こういう人間の特徴を知っておくだけで、情報の受け取り方が変わるでしょう。