第6回 ITと金融が結びついた「フィンテック」決算の読みかた

インターネットビジネスはZOZOTOWNのようなECビジネスだけではありません。Facebookのような広告型モデルもありますし、Netflixのようなユーザーから課金する個人課金ビジネスもあります。どんなビジネスモデルでも基本、決算スライドの見方は同じですので、この連載の第2回〜第5回で解説してきたスタートトゥデイのスライドの読み方が通用します。
ただ、ビジネスモデルによっては、おさえておきたい方程式や注目すべき指標、つまりKPI(Key Performance Indicatorの略。主要業績評価指標のこと)が異なります。ここからは「フィンテック」「SaaS」「広告型・個人課金型」の3つのビジネスモデルについて、実際の決算スライドを見ながらKPIを解説していきます。
第5回「『ZOZOSUIT』の未来を読み解く」を読む

フィンテックは2つのモデルの見極めから始める

まずフィンテックからいきましょう。フィンテックは、金融を意味するファイナンス(Finance)と、技術を意味するテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語です。銀行、クレジットカード、送金サービス、決済・決済代行、仮想通貨、クラウドファンディングなどがフィンテックにあたり、そのビジネスモデルは多種多様です。

そこで、フィンテックビジネスのKPIは、収益方法のちがいによって2つに分けて考えることにします。「フロー型」と「ストック型」です。

フロー型は、取扱高という「フロー」によって売上が決まるモデルです。たとえば、クレジットカードをイメージしてください。ユーザーがお店でクレジットカードを使うと、決済金額の数%がカード発行会社に支払われ、それがカード発行会社の売上となります。

フロー型で大切な数字は2つ、ひとつは取扱高です。たくさんの人がクレジットカードで支払ってくれるほど、売上は大きくなります。もうひとつは手数料率です。手数料率が高ければ売上は大きくなります。

フロー型の売上収益=取扱高×手数料率

フロー型のフィンテックビジネスでは、取扱高と手数料率がKPIだということです。

ストック型のフィンテックビジネス

一方、フィンテックビジネスのもうひとつのモデルのストック型は「ストック」、つまり蓄えによって売上が決まるモデルです。たとえば、銀行は預金者からお金を預かり、そのお金を企業などに貸し出して金利を得ています。この場合、預金残高というストックが多ければ多いほど企業に貸せるお金が増えて銀行は儲かるわけです。

先ほど、フロー型の例としてカード会社をあげましたが、カード会社には、もうひとつ収益源があります。リボ払い[※]やキャッシングによる金利手数料です。これはストック型のビジネスです。

※リボ払いは、利用金額や件数にかかわらず、毎月の支払額が一定になる決済方法。たとえば、月々の返済を1万円に設定したリボ払いの場合、その月に5万円分の買い物をしても、翌月に支払うのは1万円になる。その代わり、金利手数料がかかる。

リボ払いやキャッシングは、言い換えれば短期でお金を貸すビジネスです。リボ払いの金利は実質年率15%に設定されているケースもあります。この場合、10億円のリボ払い残高があれば年1億5000万円の金利がカード会社の売上となります。
リボ払い残高が多いほど、クレジットカード会社が受け取る金利も増えます。ですから、ストック型では残高がKPIとなります。

ストック型の売上収益=貸付残高×金利

フロー型とストック型のビジネスモデルのちがいは一瞬、戸惑うかもしれませんが、身近な税金にあてはめて考えてみるとわかりやすいと思います。
月々給料に応じて支払う所得税や、買い物するごとに支払う消費税はフロー型です。わたしたちがたくさん稼いだり、多くの買い物をすれば、国は儲かるわけです。一方、持っている資産額に応じて支払う固定資産税はストック型です。わたしたちが持っている資産が大きければ大きいほど、国は儲かります。

楽天カードの決算スライドを見てみると……

ストック型とフロー型をふまえたうえで、ここからは、具体的に企業の数字を見ていきましょう。クレジットカードを扱っている会社の決算スライドでは、取扱高やリボ払い残高が公開されていると思います。楽天の決算スライドから、楽天カードの数字を見てみます。

楽天株式会社2017年度通期及び第4四半期決算説明会より抜粋。
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ショッピング取扱高がフロー型、ショッピングリボ残高がストック型になります。

ショッピング取扱高は前年比22%と高い伸びを示しています。ショッピングリボ残高は13%増の4248億円です。4248億円に対して年15%の金利が発生すると637億円/年、四半期だと159億円です。リボ払いが非常に大きな収益源になることがわかります。

フロー型のほうをもう少し掘り下げてみましょう。楽天カードの手数料率を割り出します。
手数料率の算出方法は、この連載の第2回で解説した「テイクレート」の計算式と同じです。「テイクレート=売上÷取扱高」ですので、楽天カードの手数料率も「売上÷取扱高」で計算できます。

上の2枚のスライドから、楽天カードの売上は277.8億円、取扱高は1.7兆円というのがわかります。割り算すると、手数料率は1.6%です。

クレジットカードの競合他社であるクレディセゾンの手数料率はどれくらいでしょうか。クレディセゾンの決算資料から割り出してみると、2.8%でした。

楽天カードの手数料率は、クレディセゾンと比較すると低い水準と言えます。
先ほど、フロー型のフィンテックビジネスでは、取扱高と手数料率がKPIだと説明したので、楽天カードの手数料率が低いことを不安に思う方もいるかもしれません。

手数料率が低くても楽天カードが強い理由

しかし、テイクレートが低い代わりに楽天カードには大きな強みがあります。それは、顧客獲得単価が安いことと、ライフタイムバリューが高いことです。ライフタイムバリューというのは、「顧客生涯価値」のことで、お客さんを1人獲得すると、将来どれだけ儲かるかの数字です。つまり、楽天カードの場合、カード会員を1人獲得するのにそこまでお金がかからず、かつ、一度会員になってもらえたら長く利用してもらえる仕組みがあるのです。

どういうことかくわしく説明しましょう。
本来、クレジットカードは差別化が難しい業界です。ポイントサービスなどのちがいがあるくらいで、どこの会社で発行しようがクレジットカード機能がついていることには変わりありません。

ところが楽天には大量のユーザーを抱えた楽天市場があります。

楽天市場で買い物するたびに、「楽天カードに加入すれば5000ポイントプレゼント」といった広告が表示されます。今まさに買い物をしようとしている人にピンポイントで訴求できるわけです。
5000円分のポイントというと大盤振る舞いに見えますが、自社のECサイトを持っていない他のカード会社は多大な広告費をかけているわけですから、それに比べると5000円というのは、顧客獲得単価としては低いはずです。

しかも、楽天市場では楽天カードで支払いするとポイントが多くもらえるキャンペーンを頻繁に行なっています。買い物するごとに「楽天カードで支払えばポイント○倍!」と表示されれば、つい楽天カードで支払ってしまいます。

差別化の難しいクレジットカード業界ですが、「作っただけで終わり」となりにくい、つまりライフタイムバリューを高めやすいことが楽天カードの強みとなっています。

話が脱線しましたが、フィンテックビジネスではフロー型か、ストック型かを見極めることが第一段階です。フロー型であれば取扱高が伸びているか、手数料率が他社と比べどんな水準にあるのかをチェックします。ストック型であれば残高の伸びを確認しましょう。

次回は、フィンテックビジネスの一種である「SaaS」(Software as a Service)について解説していきます。

<今回のまとめ>
●フィンテックビジネスのKPIは、収益方法のちがいによって「フロー型」と「ストック型」の2つに分けて考える。
●フロー型のフィンテックビジネスの方程式は、「売上収益=取扱高×手数料率」。ストック型のフィンテックビジネスの方程式は、「売上収益=貸付残高×金利」
●楽天カードの手数料率は低いが、顧客を安く獲得できて、ライフタイムバリューが高いことが強み
本記事は決算書類の読み方を解説するものであり、素材として取り上げた企業への投資を推奨するものではありません。