ミドリムシの夢を追いかける人生に苦しさなんて存在しない【前編】

  • 上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・ユーグレナ 出雲充社長 / 出雲 充

2012年の株式公開からわずか2年で時価総額が10倍になるなど、目覚ましい成長ぶりで話題を集めるユーグレナ。大学発ベンチャーであり、ミドリムシという微生物(藻の一種)を扱うユニークさ、バイオテクノロジーを使って食料・環境・エネルギー問題を解決するという志の高さもあって、市場から注目されている会社だ。創業者である出雲社長に、ミドリムシの事業にかける夢を語ってもらった。

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ミドリムシの夢を追いかける人生に苦しさなんて存在しない【後編】を読む

世界を救うための武器は手にした。そして……
「ミドリムシが地球を救う」

2005年にバイオベンチャーを起業して以来、私はこの夢に疑いを持ったことがありません。ミドリムシ(学術名・ユーグレナ)をご存知ない方にしてみれば「ムシが地球を救うなんて、何を言っているんだ?」とバカらしく思うかもしれません。実際、起業したばかりのころは、同様の反応が返ってくることばかりでした。

いくつかの試練がありましたが、幸運にも、ミドリムシがもつポテンシャルの高さを理解してくださる方々との出会いが重なり、2012年に東証マザーズ、2014年12月に東証一部に上場。今では約8万5千人もの株主様がわれわれを応援してくれています。東証一部上場企業の株主数の平均が約2万2千人ですから、こんなにも多くの方がファンになってくださったかと思うと、感謝してもしきれません。ミドリムシに代わって、御礼を言わせてください。

私はミドリムシと出会い、地球を救うための武器を見つけました。しかし武器だけでは地球は救えません。夢を現実にしていくには、戦い方を覚える必要があります。これまでにたくさんの仲間を見つけ、自分自身も成長して少しずつレベルを上げて、今まさに冒険の旅の真っただ中にいる。そんなイメージで、これからの話を聞いていただければと思います。

5億年前から存在する奇跡のような生物

よく誤解されるのですが、ミドリムシは、「ムシ」ではありません。イモムシのような昆虫とは全く違い、ワカメや昆布と同じ「藻類」です。大きさはわずか約0.05㎜で、顕微鏡で覗くと透き通った美しい緑色の姿が動いているのが見えます。
この“動いている”のがポイントで、ミドリムシは光合成を行う植物でありながら、動物でもあるという非常に不思議な生命体です。自分の力で植物性、動物性両方の栄養素を作ることができるのは、生物として非常にめずらしい。ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸など、その数は59種類にも及び、1種類の生物が持つ栄養素としてずば抜けています。

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はるか約5億年前から地球上に存在する奇跡のような存在。
ミドリムシを途上国に持ち込めば栄養失調で病気になる人々を救うことができますし、日本にとっても、いざ食料危機があったときの切り札になります。
さらに、ミドリムシは、ジェット燃料やディーゼル燃料に適した油を体の中に貯めることができます。その油を精製すれば、石油と同じように燃料として使用できます。また、光合成の能力も、他の植物と比較して非常に高い。効率よくCO2を処理できるうえ、化石燃料の代替エネルギーになれれば、地球温暖化問題の原因になっているCO2の増加を食い止めることができるでしょう。

ミドリムシの存在を最初に知ったのは、東大在学中のことでした。高校生のころに地球の資源枯渇、食料危機の問題に関心を持った私は、漠然と「国連に入って世界の飢餓や貧困を救いたい」と思い、選択肢の多そうな東大の文科三類に入学しました。そして一年生の夏休みに、世界の最貧国であるバングラデシュにカロリーメイトをお土産に持って訪れ、衝撃的な現実を目にします。
バングラデシュはお米が山ほど採れるので、人々は毎日三食カレーのかかったご飯を食べていました。ただし、具が入っていない。肉や野菜、果物など、お米以外の材料は高くて買えないのです。ですから、カロリーは十分足りているのに、栄養素が不足し、病気になってしまう。
バングラデシュの人たちは、飢餓ではなく、栄養失調に苦しんでいたのです。

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持っていくべきはカロリーメイトではなく、“栄養素”でした。それも、かさばらず長期保存できる栄養素。バングラデシュから戻ってからは、マンガ『ドラゴンボール』に出てくる、戦士たちの傷を瞬時に回復させる栄養価の高い「仙豆(センズ)」のような画期的な素材がないかと、探し回る日々が続きました。そのために文科三類から農学部に転部し、生物学の見地から、新しい素材、テクノロジーを学ぶことにしました。

そこである日、とうとうミドリムシに出会います。大学の後輩で、数学に天才的ひらめきをもつ鈴木健吾が、「ミドリムシも知らないんですか? 農学部では常識ですよ」とこともなげに言ったのです。調べてみると、ミドリムシはきわめて栄養価が高く、仙豆そのもの。そのうえ、1980年代から国を挙げての研究対象になっていると言います。私が考えたのと全く同じように、ミドリムシで世界を救おうとする人々が実在したのです。

微生物の研究は日本のお家芸

ミドリムシを食料・エネルギー問題の解決に役立てようとする「ニューサンシャイン計画」を知り、大阪府立大学の中野長久先生を訪ねたとき、このプロジェクトはすでに終了していました。
中野先生いわく、ミドリムシは栄養素が豊富なので他の生物から“食料”として狙われやすく、培養中に食べられてしまう。海外でもミドリムシ研究は行われてきたが、大量培養は誰も成功していない。1980年代から始まった「ニューサンシャイン計画」でも、培養方法を見つけられないまま2000年にプロジェクトが中止になってしまったのだそうです。

私たちはこの研究を引き継がせていただき、もともとミドリムシ研究に興味を持っていた後輩の鈴木と、事業化を見据えた屋外大量培養を目指します。そんな私たちに資金援助とオフィスの間借りを申し出てくれたのが、堀江貴文さんでした。一部の専門家には奇跡の生物でも、ほとんどの人にはミドリムシといっても「気持ち悪い」という反応しか返ってきません。しかし堀江さんは少しお話しただけで、ミドリムシのポテンシャルに気付き、お金を出すと言ってくれた最初の人でした。

当時のライブドアの支援を受け、私たちは「ユーグレナ」を起業します。そのとき、鈴木のほかにもう1人の心強い仲間がいました。機能性食品の別会社を経営し、“彼が売れば何でも売れる”というくらい営業が得意な男、福本拓元。福本が営業担当役員になってくれて、研究開発担当役員の鈴木と、私。3人で船出をしました。

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そして2005年12月16日、ミドリムシの屋外大量培養に世界で初めて成功したのです。「実験に成功した!」と鈴木から電話がかかってきたとき、私はうれしくてたまらなかったのですが、ふだん冷静な鈴木があまりに興奮している反動で、淡々と応対してしまいました(笑)。
鈴木は中野先生にもすぐに電話を掛けました。実験を通して、私たちは先輩方の研究が9合目まで進んでいたことを知っていたからです。先輩方の業績にユーグレナが“最後のひと押し”をする形で、屋外大量培養が実現しました。

ミドリムシの屋外大量培養という難題を、なぜ日本が海外に先駆けて解くことができたのか。
それはやはり、日本人が長い時間をかけて培ってきた「微生物研究」の成果だと思います。日本人は昔から、味噌やしょうゆ、納豆、酒など、微生物の力を使って食品をおいしく、栄養価の高いものにすることを知っていました。世界に名だたる企業であるキッコーマン、ヤクルト、味の素はいずれも分子レベルの細かい研究が得意で、こういう企業を多く有する国はほかにありません。
顕微鏡を覗いてミクロン単位で物事を観察し、操作するというのは、大変根気のいる作業。ミドリムシの大量培養は、微生物のような小さなものを研究するという、日本のお家芸を生かした成果だったのです。

屋外大量培養さえ実現すれば、あとは商品化し、売ればいいだけ。ミドリムシのポテンシャルがとうとう世間に認められるときが来た。しかし、期待でいっぱいに膨らんだ私たちの夢は、あっという間に厳しい現実にさらされます。
実験成功からちょうど1か月後の2006年1月16日。ライブドア事件が起きたのです。

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