投資家として、「ドローン前提社会」が来る前にやるべきことがある 〜個人投資家・千葉功太郎さんインタビュー【前編】

  • お金を語るのはカッコいい・投資で未来を作る / 千葉 功太郎

スタートアップ界隈では知らない人のいないエンジェル投資家・千葉功太郎さん。コロプラなどの創業期に携わりながら、これまで50社ものITベンチャーに投資し、育ててきた。そんな千葉さんがいま熱い視線を注いでいるのが、ドローン事業だ。数々の実績を持つスゴ腕投資家に、ドローンの可能性について聞いた。

10代、IT黎明期に受けた衝撃

僕の脳内に、一枚の絵があるんです。
東京湾の上空を、インターネットに接続されたドローンが何千機も行き交っている絵。こんな未来が、2023年までにやってくる。そう信じて2017年6月に、ドローンのベンチャーに投資する「ドローンファンド」を立ち上げました。

「いまさらドローン?」と、思われるかもしれません。すでにドローンは、家電量販店で簡単に手に入るようになっていますから。でも、まだ「この先」があります。いまは趣味の世界で、一部の愛好家が使っているに過ぎません。

これからはドローンが宅急便のようにモノを運んだり、地上の監視や調査を行ったりして、社会のインフラになっていきます。いずれドローンは、日常生活に欠かせないものになる。それを僕は、「ドローン前提社会」と呼んでいます。

そんな未来に向けて、投資するタイミングは「いま」しかありません。理由を説明するために、少し個人的な話をさせてください。

僕は自由な校風で有名な、麻布中学・高校を卒業しました。校則がほとんどなく、クラブ活動も生徒の自主運営に任せられるような学校です。とても楽しくて、その分、大学を選ぶときに「どうしよう?」と考えました。同じように面白い場所はあるのかな、と。

ちょうどそのころ、慶應義塾大学のSFC(湘南藤沢キャンパス)が開校して、話題になっていました。文系・理系を分けず、「インターネットと外国語」を軸にしたカリキュラムがあると知り、興味を持ちました。

入学したのは、1993年。その年に受けた村井純先生の授業が、もう衝撃的で。村井先生はインターネットを日本に広めた神様のような人で、のちに「日本のインターネットの父」と呼ばれます。そんな大先生が、プロバイダもホームページも普及していなかった時代に、「インターネットが当たり前の時代がくる!」と言うのです。

パソコンなんて、ごく一部の人たちが趣味で使っていたくらいの時期。それでも、情報伝達の圧倒的な速さ、利便性が、社会のインフラとなって自分たちの生活を変えるという話は、説得力がありました。

僕はSFCで、あっという間に洗脳されました(笑)。1997年に卒業するときには、「インターネット前提社会が来る」と本気で信じていました。「インターネットを武器に生きていこう」と心に決め、さまざまなネット・メディア事業に関わっていきます。

オンラインゲームの開発会社「コロプラ」の立ち上げに関わり、上場まで副社長として担当したり、IT業界のさまざまなスタートアップに投資をしたり……。結果として、インターネットの黎明期からど真ん中で仕事をし、成長の波に乗ることができました。SFCの授業で聞き、想像した「ITの未来」は、次々と現実になったのです。

あれから20年後の2017年。
僕は世界で3番目のドローン専門ファンドを立ち上げました。動機は、インターネットの可能性を信じたときとまったく同じ。これからやって来る「ドローン前提社会」が、僕の目にはっきりと見えたからです。

撮影:千葉功太郎

「課題先進国」というアドバンテージ

ドローンはインターネットと同じように、世界中のさまざまな産業で使われ、社会インフラになるでしょう。その際、日本は特に有利な立場にあります。なぜなら、産業用ドローンを使う「必要性」がすごく高いからです。

日本は先進国の中でも、道路や橋、トンネルといった公共インフラの老朽化が進んでいます。1964年の東京オリンピックに向けて作ったインフラがいっせいに修繕時期を迎えて、事故が起きるなど、社会問題化しています。これらの点検・保守は急務ですが、職人が高齢化し、人手が足りず、なかなかできません。そこで、建築物の測量やチェックにドローンを使うのです。

ドローンで撮影した地上風景(撮影:千葉功太郎)

人手不足といえば、農業も深刻な分野の1つです。高齢化が著しく、2050年には農業従事者が半減するという試算もあります。なんとか仕事を自動化しないと、農業が続けられなくなってしまう。そこで、作物のチェックをしたり、農薬を散布したりするのに、ドローンが役立ちます。

インフラの老朽化と、人手不足。これは日本にとってかなり大きな課題です。ドローンをはじめ、ロボティクスとAIを本気で導入しないと、未来がない。

この課題は、まだ中国にはありません。欧米では同じことが起きつつありますが、日本ほど深刻ではない。だからこそ、チャンスです。日本が危機感を持って必死になることで、この産業が大きく育つと思います。日本が「課題先進国」としていち早くドローンを使い、その成果を世界に広めるのです。

この点については、政府も認識しています。自民党でドローンの戦略勉強会が開かれて登壇したとき、政治家のみなさんの問題意識の高さにびっくりしました。ドローンを社会実装するために、どんな法律が必要か。実際にドローンが飛んだら、どんな弊害が起こり得るかなど、論点がかなり具体的です。これは本気だと感じましたね。

もう1つ、日本企業に有利なことがあります。2015年春に、首相官邸にドローンが墜落した事件を覚えていますか。あの後すぐに規制が強化され、ドローンを飛ばしていい場所、ダメな場所のルールが明確になりました。

実はこれが、産業用ドローンの発展にとってラッキーでした。ドローンを飛ばすのにグレーゾーンだと、リスクがあるから企業は手を出しません。ところが日本は世界で最初にドローン規制が強化され、白黒がはっきりしたので、むしろ企業が参入しやすくなりました。

これによって、新規参入の企業が一気に増えました。日本はいま、産業用ドローンの開発で、すでに他国よりも先をいっているのです。

「BtoB」こそ、日本企業が狙える市場

日本の企業にとって、産業用ドローンは大きなチャンスです。そしてそのチャンスをつかむ可能性は、大いにある。いや、絶対につかむべきだと、僕は考えています。

現時点のシェアだけを見ると、日本のドローン事業は遅れています。存在感はほぼゼロと言ってもいい。世界で飛んでいるドローンの70〜80%が、DJIという中国・深圳(シンセン)にあるメーカーの製品ですから。実際、DJIは素晴らしい会社で、安くてデザインも性能もいい。みんなが欲しいと思う機体を、世界中に供給しています。

では、日本企業がDJIを目指して頑張ればいいのかというと、そうではありません。日本のメーカーの多くは、「BtoC」(対消費者向けのビジネス)が不得意です。職人的なものづくりはできても、ブランディングやデザインによるコミュニケーションが弱い。そもそも人件費が高くて、深圳のように、いいものを大量に安く作れる場所がありません。これは、認めるべきだと思います。

日本企業はむしろ、これからやって来るドローン前提社会に向けて、「BtoB」(対企業向けのビジネス)の分野に絞って勝負すべきです。建築物の測量や農業など、その道のプロを相手に、細かい要求にきっちり応えて仕上げていく。そういう仕事は、日本企業の得意とするところです。

DJIが圧倒的に強いBtoC分野では、メインの価格帯は数千円から、20万円ほどです。一方、これから広まるであろうBtoB分野では、ドローンの価格帯はおそらく100万〜500万円ほどになると見ています。この“おいしい”市場でシェアを取ろうと、世界中の企業が必死に技術を磨き、ビジネスを仕掛けていくでしょう。

ここで、負けてはいけない。
せっかくの得意分野で、日本企業が出遅れてはいけない。
僕を動かしているのは、この使命感であり、危機感です。

実はファンドを作る前から、僕はドローン愛好家でした。2015年に知り合いにドローンをもらい、かなりの時間を飛行訓練に費やしました。たくさん飛ばして、ドローンの楽しさを知ったし、詳しくもなった。同時に、ドローンを取り巻くビジネスの状況も知り、「これは僕がやるべき仕事だ」と強く思いました。

ドローンを飛ばす千葉さん

投資ファンドを作って、ただ資金を提供しているわけではありません。それだけで、グローバルに戦えるドローン事業が育つほど、ビジネスの世界は甘くないですから。日本から目を見張るようなドローンのスタートアップを育て、世界に輩出するために、何をしているのか。それを次回、お話ししましょう。